分業体制
織機の作業効率を上げるため、俺たちはいろいろな工夫を重ねた。
綜絖通し専用の道具や治具を開発したり、作業工程を見直してみてみたり。
いろいろ試行錯誤してみたが、最終的に解決したのは、技術ではなく人だった。
村のみんなに作業をしてもらって、一番得意な人に任せることにしたのだ。
綜絖に糸を通す作業が一番得意なのは、テツの母親だった。
なんというか、天賦の才としか言いようがないレベルだ。
事も無げにやってのけた。
なぜこんなスキルを持っているのか疑問だが、完璧に適した人材を確保できたのだから問題はない。
最終的に、綜絖通しなどの準備作業はテツの母親、機織りはテツの妹が担当することになった。
別に身内を贔屓したわけではない。
彼女達が一番作業がうまかっただけだ。
まぁ、もしかしたら、家族であるテツが作った織機だからということで、成功させたくて頑張ったのかもしれないが。
こうして織機を使った布の生産体制は確立した。
今後、村で必要な布の大部分は、この二人が織ることになるだろう。
専業化の始まりだ。
機織りは改善の目途が立ったので、ついでに裁縫作業も効率アップを図った。
布同士を縫い合わせて、服を作る作業だ。
そのために開発すべきはミシン。
だが、俺はミシンの開発を、すぐにあきらめた。
理由は二つ。
ミシンの開発が難しいことと、あまりメリットがないこと。
ミシンを作るには精密な金属加工技術がいる。今のレベルでは全く不足している。
それにメリットもそれほど大きくはない。
服一着を縫い上げるのに必要な時間は慣れた人なら十時間もない。
ミシンを使って効率が上がったところで、数時間短縮できるだけということだ。
というわけでミシンの開発は早々にあきらめて、俺は縫い針を作ることにした。
今までは動物の骨で作っていたが、それだと太くて布が傷むうえに壊れやすいので、鉄で作ることにしたのだ。
裁縫作業の効率はたいして上がらないが、壊れた針を作り直す手間はかなり減らせるだろう。
織機の綜絖を作るために針金は作っていたので、あとはそれらを適当に切断して糸を通す穴を開け、先端を砥げば良い。
比較的簡単な作業、と思っていたが強度の確保で難航した。
やはり、どんな仕事も舐めてかかるべきではない。
難しいのは熱処理だ。
焼き入れと焼き戻しという作業をうまくやらないと、すぐに折れたり曲がったりしてしまう。
針は細いので、強度が不足するとすぐに折れてしまう。
焼き入れは鉄が赤くなるくらい高温に熱した後、水に入れて急冷する処理だ。
鉄を硬くする効果がある。
だが、焼き入れだけだと、脆くなってしまうので折れやすい。
そこで必要になるのが焼き戻しだ。
焼き戻しは二百度くらいまで熱した後、空気中でゆっくり冷やす処理だ。
こうすることで、鉄に粘りが加わる。
折れにくくなるのだ。
難しいのは焼き戻しだった。
温度が高すぎても低すぎても脆い針になってしまうのだ。
温度調整機能のある炉なんてないから、ほんとに難航した。
最終的には、加熱した油に漬けるという方法で、安定した強度を得られるようになった。
今回の試行錯誤で、焼き入れ、焼き戻しの知見がかなり溜まったと思う。
というのも、針は材料が少なくて何度もトライしやすいので、条件をいろいろ変えてに強度テストが行えたからだ。
短いサイクルで試行錯誤できると、知見が溜まるのも早い。
苦労はしたが、鉄の熱処理について、かなり得るものがあった。




