初ガツオ
俺達が鋳物の作成に成功した数日後、ヤメ村からの交易団がやってきた。
釣り針職人のテグさんも一緒だ。
ちょうど良い機会なので鋳物で作った釣り針を見てもらった。
釣り針の余分なバリは除去し、表面もヤスリで磨いている。
針の先端は砥石で研いだので鋭い光を放っている。
俺から見れば、良くできていると思う。
作るのに手間はかかっているが、骨で作った物より丈夫で長持ちするだろう。
「おぉっ、これは良いな。」
テグさんは鉄の釣り針をいじり倒している。
引っ張ったり曲げたり、強度を確認しているようだ。
「これなら、理想の釣り針を目指せるかもしれん!」
おや?今までのは理想の釣り針ではなかったのか?
かなり拘りを持って作っていたはずだが。
「骨だとどうしても強度を気にしないといけないからな。太くしないといけない部分があるんだ。」
なるほど、確かに骨の釣り針は、力のかかる部分は太くなっている。
正直、本当に魚が釣れるのか不思議に思っていた。
鉄を使うなら、もっと細く作っても大丈夫だろう。
「じゃあ、次はもっと細い針を作りますよ。」
「いや、俺は自分で作りたい。ここに留まって修行するぞ。」
「えー、マジですか。」
予想してたけど、やはりそうなったか。
まぁ、別に構わないけど。
釣り針だけでなく、他の鉄器の製作に協力してくれることを条件に、鉄工所で作業してもいいし加工方法も教えることになった。
「それで、テグさんの目指している理想の釣り針は、どんな針なんですか?」
「そんなの決まっているだろう。目に見えないくらい細くて、魚に気付かれない針だ。」
やはり、太いと魚に気付かれて警戒されるのか。
それにしても、理想が高すぎるよ、テグさん。
ところで、今回のヤメ村の交易団は魚の干物と塩、そして生魚を持ってきてくれた。
その中には俺のリクエストである鰹も含まれている。
鰹節を作るためにリクエストしたのだ。
とは言え、とりあえずはタタキでいただく。
藁を燃やした炎で表面をあぶって、紫蘇と醤油でいただいた。
玉ねぎとポン酢も欲しいが、玉ねぎが日本に伝来するのは江戸時代だし、ポン酢はまだ作っていない。
レモンとはいかなくても、何か柑橘類が見つかれば作れるのだが。
春の鰹は秋の鰹より脂肪分が少なく味は負けるが、初ガツオは縁起物だ。
なんかめでたい気持ちになる。
俺もこの時代に来て初めて食べる鰹に舌鼓を打った。
うまいなぁ。
元時代では、鰹で春を感じることはなかったが、この時代では食べ物で季節を感じる。
これが春の味か。




