冬の仕事
翌日、俺はテツの作業場を訪ねた。
現在、テツの作業場にはテツを含めて4人の職人がいる。
テツとチク村の3人(タン、ソウ、タツタ)だ。
チク村の3人は製鉄・鉄工技術を習得し、必要な工具を拵えてチク村に持ち帰るための修行中だ。
彼らが住み始めてから既に半年程経過しており、その間に製鉄も2回行ったからだいぶ経験を積んでいる。
既に作業場の大切な戦力だ。
テツ達にはいろいろと作ってもらいたい物がある。
まずは、ヤメ村の船大工、クルさんが欲しがっていた釿だ。
技術的にはそれほど難しい物ではない。
すでにテツは作ったことがある。
形状は鍬に近いものだ。
違いは刃先の形状。
釿は鍬よりも刃が鋭利で短い。
釿は木を粗削りするための道具だ。
加工する木材の上に人が乗って、鍬の様に刃先を足元の木材に振り下ろして使う。
作業の様子を想像すると、手元が狂ったときに足を大怪我しそうでちょっと怖い。
道具の製作を依頼するとき、俺は必ず使い方と目的をセットで教える。
テツ達に道具を使う目的を教えておけば、彼らは想像力を働かせ、あるいは、作った道具を自分で実際に使ってみて、より良い形状を模索してくれるからだ。
彼らは鉄工加工だけでなく、家作りも水車作りにも参加しているから、現場に寄り添った道具作りができるのだ。
今回作ってもらう釿は、丸太をくり抜いて丸木舟を作るのに使われる。
丸木舟の内側は緩やかな曲面になっていたから、刃先はまっすぐより少し丸みがかっている方が良いかもしれない。
俺は自分のアイディアと共に使われ方を説明して、釿の製作を依頼した。
釿の次に製作を依頼したのは、釣り針だ。
今はヤメ村の2人の職人が動物の骨を材料に作っているが、鉄でならより丈夫で小型な物が作れるに違いない。
ヤメ村の職人は釣り針の形状に拘りがあり、どうしても自分たちで作りたいと言っていたが、試しに作って製法の当たりをつけておきたい。
俺はヤメ村で手に入れた釣り針をテツに渡して、同じ形状の物を作れないか検討してもらった。
「型を作って、溶かした鉄を流し込んで固めましょう。」
テツの提案した製法は鋳物と言う。
同じ形状のものをたくさん作るのに向いている。
元の時代では、鉄だけでなくプラスチックなども型で作られていた。
大量生産に欠かせない技術だ。
確かに鋳物ならば複雑な形状も作れる。
だが、ひとつ大きな問題がある。
テツはその事を分かっているはずだが……
「この方法なら複雑な形状の物も簡単にたくさん作れます。ただ、一つだけ問題があるんです。温度が足りません。」
テツはちゃんと分かっていた。
今の製鉄方法、たたら製鉄でできる鉄は半固体状だ。
叩いて、伸ばして、くっつけて、道具を作ることはなんとかできるが、液体状ではないから型に流し込むことはできない。
鉄の融点は1538℃。
鉄を液体状にするには、この位まで温度を上げる必要がある。
温度を上げる方法はいくつか考えられる。
・炉のサイズを大きくする
・送風量を増やす
・炉の形状や材質を見直す。
ここに挙げたどの案でも温度は上がるだろうが、鉄を液体状にできるかどうかは不明だ。
いかんせん俺を含めて経験者はいない。
温度を測定する方法もないから、それぞれの手法でどのくらい温度が上がったのかも検証できない、手探りの試行錯誤になる。
正直、釣り針のためだけなら、そんな不確実な製法は模索しない。
だが、鋳物ができれば他の鉄器も生産性が大きく向上するのは間違いない。
今まで作れなかった形状も作れるようになるし、同じものの複製が簡単になる。
やるだけの価値は十分ある。
できることは全部やって、試してみるしかなさそうだ。




