宴会
夕方になると、村長が俺たちのために宴を催してくれた。
命がけで訪ねてくれた労を労うため、訪問者が来るたびに開いているらしい。
宴の席上には様々な料理が並んだ。
お刺身の盛り合わせ
焼き魚
魚の塩漬け
魚の煮物
猪肉と野菜の炒め物
やはり魚料理が中心だが、それ以外の料理もうまい。
個人的には、魚の煮物が当たりだった。
味付けは魚醤がベースだ。
刺身を食べるには大豆から作った普通の醤油が良いが、煮物の味付けとしては魚醤の方がうまい。
この時代の料理では出汁をとってないので、普通の醤油だけで味付けすると物足りない味になる。
その点、魚醤だと魚の風味が強く残っているので、出汁がなくてもしっかりした味付けになるのだ。
せっかくの交流の機会なので、俺はいろいろな人と話した。
今後交易を通じてwin-winの関係を構築するには、お互いの得意なことや困り事を知っておく必要がある。
まずは船大工の代表、クルさん。
昼間作業場を見せてもらっているので顔は知っている。
船づくりで苦労していることはないかと尋ねたら、苦労ばかりだと言われてしまった。
それはそうだ。
船を造るには、大木を切り倒して、中をくり抜く必要がある。
それを石の斧などで加工しているのだから、地道で体力のいる仕事だろう。
手を見せてもらったが、皮膚がぶ厚く、硬くなっている。
職人の手だった。
俺は、カツ村から有益な物を提供できると知ってほしいので、宣伝しておく。
「鉄の工具を使えば、かなり作業が捗りますよ」
「あの鍬と同じ材料の道具か。それは良いな。切れ味もいいし、長持ちしそうだ。」
かなり興味を持ってくれた。
「あの鍬の刃をもっと短くして、先端を三角にして、厚みを増した物があればちょうどいいな。」
クルさんが言っているのは、釿だ。
江戸時代まで、木の粗削りに使われていた。
元時代でも、伝統的な神社の修復などでは使われている。
釿はすでにテツが作ったことがある。
なるほど、あれなら丸太の中をくり抜く作業に向いていそうだ。
今度来るときは、釿を作って持って来よう。
釣り針の職人とも話した。
鹿や猪の骨で緻密な釣り針を作る、超絶技巧の持ち主だ。
骨の釣り針は加工が難しく、ヤメ村でも2人しか作れない。
その2人のうちの1人、テグさんと話した。
ヤメ村で釣り針を作れるのはテグさんとその息子のグスさんだけだ。
一子相伝というわけではなく、何人もの人が挑戦しているが、作れたのはこの二人だけだったらしい。
今は動物の骨で作っている釣り針だが、鉄で作ればより簡単に、強いものが作れる可能性が高い。
今度来るときに鉄製の釣り針を作って持ってこようか、と提案したが、細かい形状に拘りがあるらしく、どうしても自分たちで作りたいと言う。
それなら、カツ村に来てもらって鉄の加工を覚えてもらうしかない。
「前向きに考えておく。」
テグさんは前向きだ。
ところで、釣り針の材料を骨から鉄に変更することになった場合、俺は気になることがある。
釣り針作りが鉄に移行すると、これまでの骨の加工ノウハウが不要なものになってしまうが、未練はないのだろうか。
鉄になれば加工できる人が増えるかもしれず、そうなればヤメ村でのテグさんの存在価値が下がってしまうかもしれない。
「俺が拘るのは漁具としての性能だ。骨の加工はその手段に過ぎない。良い方法があれば、どんどん取り入れる。」
過去の手法に固執する人ではないようだ。
こういう先取の精神があり、いろいろな方法を試すからこそ、釣り針のような難しい加工も実現できるのかもしれない。
手法ではなく結果に拘る、正真正銘の職人だった。




