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刺身

太陽が頂上を過ぎた頃、村長が帰ってきた。


大量の魚を持っている。

近くの浜で銛を使って獲ってきて来てくれたのだ。


半日でこんなに沢山獲って来るとは、村長恐るべし。



魚にもいろいろ種類があるが、俺はあまり詳しくない。


村長が獲ってきてくれた中で分かるのは、鮃、鯖、鯛くらいだ。


俺は持参した鉄製の鍬2本を、今回村長が獲ってきてくれた生魚と大量の干物に交換した。


干物の量がかなり多くて引くくらいだが、鉄を作る労力を考えればこのくらい貰ってもバチは当たらないだろう


旅の目的である交易は達成された。



せっかく獲れ立ての魚が入手できたので、刺身にして食べようと思う。

夕方には村長が俺たちのための宴を催してくれるらしいが、俺は最高に新鮮な刺身を今食べたい。


俺は持参した鉄製包丁で鮃と鯛を捌いて刺身にした。

鯖はアニサキスという寄生虫が怖いので、生では食べないことにする。


村の一角に陣取って魚を捌いていると、村長を含む村人が数人寄ってきた。


ヤメ村では新鮮な魚は生で食べる習慣があるので刺身は特に珍しくないが、俺が持ってきた鉄製の包丁に興味があるようだ。


「その刃物はよく切れるな。ちょっと使わせてくれ。捌くのを手伝おう。」


包丁を貸すと手際よく魚を捌いていく。

あっという間に刺身になった。


「これはすごい切れ味だな。ぜひとも欲しい。」


欲しいと言うなら交換に応じなくもないが、何と交換するかが問題だった。

これ以上魚をもらっても持ち帰るのが大変だ。

すでに結構な量の生魚と干物を得ている。


それならば、と言うことで村長が提示したのは塩だった。

ヤメ村では塩も作っているという。


塩は村の中ではなく、海岸近くの専用の作業場で作っていた。

塩は魚を塩漬けにしたり漁醤を作るのに大量に使うので、かなりの量を生産しているという。


塩もかさばることに違いないが、醤油づくりで大量に使うので交換に応じることにした。


それに、初めから塩があれば、塩分濃度のコントロールが簡単にできる。

海水を煮詰めるより手間がかからないし、しっかり計量できるので品質の向上も期待できる。



さて、脇道に逸れたが、やっと刺身が食べられる。

俺は持参した山葵をおろし金ですりおろし、醤油に溶かした。


いよいよだ。


と思っていたら、また村長から声がかかった。

今度は俺のおろし金が欲しいと言う。


「とりあえず食ってからにしましょ、ね?」


もう待ちきれない。

俺は鯛の刺身を一切れ口に運んだ。


うまい。


獲れたての魚を捌いて頂く刺身、最高だ。


カツ村から一緒に来た2人も気にいったようだ。


箸が止まらない。


俺たちがあまりにおいしそうに食べるので、ヤメ村の村長はちょっとあきれている。

普段から刺身を食べ慣れている村長からしたら、そんなものだろう。


「大げさなやつらだな。まぁ、獲ってきた甲斐があるというものだが。」


悪い気はしないらしい。


そう言えば、ヤメ村では漁醤を作っているが、カツ村で作った醤油はどう感じるだろうか。

村長に勧めて食べてもらったが、「うまいが、物足りない」、と言われてしまった。


漁醤の独特のクセに慣れてしまうと、大豆から作った醤油は物足りないらしい。


なんにせよ、こうして俺は念願の刺身を口にすることができた。


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