魚を求めて
醤油ができた。
山葵もある。
だから、刺身が食べたい。
完璧な論理だ。一分の隙もない。
俺は刺身に飢えていた。
だが、カツ村では刺身を食べる風習はなかった。
川が近いので川魚を獲ることはできるが、寄生虫が多いので、生で食べることはできない。
刺身にするには、マグロや鯛の様な海の魚が必要だ。
海の魚を入手するため、まずは交易を検討してみる。
ダメ元でナチクに尋ねてみたところ、彼女の地元であるチク村では魚を食べていたことが分かった。
ここよりも内陸の村なのに意外だが、交易で手に入れたらしい。
だが、生魚ではなく全て干物だったそうだ。
輸送や保存の事を考えれば当然か。
交易相手はヤメ村という海の近くの村らしい。
チク村から南へおよそ2日程の場所にあると言う。
カツ村からチク村へは北東の方角へ2日、チク村からヤメ村へは南へ2日、と言うことは、カツ村から直接ヤメ村へ向かえば、2~3日で着ける可能性が高い。
海辺の村だというから、海岸沿いを進めば見落とすこともないだろう。
本格的な冬が来る前に、ぜひとも交易を始めたい。
長老と相談して、交易団を派遣することが決まった。
相談当初、長老は渋っていたが、魚が手に入れば魚のカツが作れますよ、と俺がささやいたら一転して賛成してくれた。
チョロイ。
長老はカツに目がなさすぎる。
話がまとまったので、準備を整えて翌日出発することにした。
メンバーは俺を含めた男3人。
2人は狩りのメンバーなので体力がある。
ここは小さな村なので、当然顔なじみだ。
俺の目的は生の魚を入手すること。
対価が必要なので、交換用に鉄製の鍬を2本持っていく。
さらに、醤油、山葵、山葵用のおろし金、そして鉄製の包丁も持って行く事にした。
現地で新鮮な魚を捌いて、刺身を頂こうという魂胆だ。
翌日、朝早くに出発した俺たちは、まず南へ向かい海岸を目指した。
海岸まではおよそ30km。
半日掛かりだ。
海岸に到着した後は、ひたすら海沿いを東へ向かった。
夕方まで歩き続けたが、村は見つからなかった。
まぁ、想定の範囲内だ。初日で見つかるとは思っていない。
日が暮れる前にキャンプを張った。
もちろんテントなんかない。
海岸は風が直に当たって寒いので、少しだけ森に入り木陰で火を焚いて暖を取った。
食事は持参した縄文クッキーと木の実。
昨日、ナチクたちが急いで準備してくれたものだ。
縄文クッキーにはゴマが入っていた。
俺の好きなやつだ。
夜は見張りを決めて交代で休む。
時間が分からないので、月の動きを目安にした。
月が木の陰から出てくるまで、とか、そんな感じだ。
幸いなことに、動物などに襲われることもなく、無事に夜明けを迎えた。
2日目も朝早くに出発して海沿いを歩き続けたが、夕方になっても村は見つからなかった。
仕方ないので、前日と同様、少し森に入ったところで火を焚き、寝床とする。
まだ2日目だ。見つからないのは想定内。
明日には見つかるはずだ。
だが、もし明日も見つからなかった場合、引き上げる判断をしなければならない。
3日歩けば辿り着ける想定なのだ。
実はヤメ村は森の中にあって、途中で見落とした可能性もある。
明日も見つからなかったら少し森の中に入って、探しながら帰ろう。
そんなことを考えながら眠りについた。
そして3日目の朝、出発して30分もしないうちに、村を見つけた。




