トンカツの魅力
俺がトンカツを食べて感傷に浸っている時間は、長くはなかった。
なにせ、俺が新しい料理を作るためにオーブンやら搾油機やら作っていることを村人はみんな知っている。
そして出来上がった料理を食べて俺が泣いたものだから、それを見た村人が殺到した。
ちなみに、料理は薄暗い家の中ではなく、外で行っているので、村人からは丸見えだ。
「え、泣く程うまいの!?」
「俺も食いたい!」
「わしもじゃ!」
こうなるのは当然だった。
最初の1枚は俺とナチクで食べたが、それ以降は村人のためにひたすらトンカツを作った。
鍋が小さく1枚ずつしか揚げることができないので、できたそばから短冊状に切り分け、一切れずつ食べてもらった。
ナチクが肉を切り分けて衣を着け、俺はひたすら揚げる。
役割を分担して、ひたすら作り続けた。
「これはうまい!」
「うまいぞーーーーーー!!」
「初めての食感だ。」
みんな気に入ってくれたようだ。
これだけ大量の油を使った料理も、揚げるという調理方法も初めての事だろう。
衝撃を受けるのも無理はない。
チク村からの交易団もまだ村に留まっていたので、一切れずつ食べてもらった。
「胡麻でこんなにうまい物が作れるとは、、、」
「苦労して胡麻を集めた甲斐があった。」
胡麻を集める苦労が報われたようで良かった。
俺は、また胡麻を持ってきてくれたら、トンカツを振る舞うと約束した。
みんなトンカツの事を気に入ってくれたが、特に長老は琴線に触れたらしく、感涙しながらひたすら要求してきた。
大の大人がおいしい料理を食べただけで泣くなんてみっともないと思うが、俺は人の事は言えないので黙っておく。
「これはなんという料理だ?」
「トンカツです。猪の肉で作ればトンカツ、鳥の肉で作ればトリカツと言います。」
さすがにチキンカツと言うわけはいかないので、微妙に名前を変える。
「なるほど、カツか。力強く、生命力に溢れ、それでいて慈しみの精神に溢れた崇高な名だ。
万物には神が宿るが、カツには特に力強い神が宿っているに違いない。」
なんか、長老が訳の分からないことを言っている。
気でも狂ったか?
「よし! 本日この日より、カツをこの村の代表料理とし、村の名前をカツ村とする!」
急に、村の名前がカツ村に決まった。
誰も反対する者はいない。
そんなんで良いんだ?




