ゴマ油
チク村との交易は順調だった。
彼らは主に大量の木炭を持ってきて、鉄製農具と交換して帰っていく。
木炭は製鉄に不可欠だし、作るのは重労働だからかなり助かっている。
木炭の他にも、この村にない食材を持ってきてくれた。
塩、山葵、そして魚醤は交易によって安定して入手できるようになった。
鉄製農具はチク村の人たちが喉から手が出るほど欲しいものなので、その対価としてもたらされる食材は珍しい物が多い。
村の食糧事情は急激に潤った。
最近手に入れた中で特に気に入っているのは、胡麻だ。
風味が良く、いろいろな料理に合う。
個人的には、ナチクの作る縄文クッキーに炒った胡麻を入れたものがヒットだ。
香ばしくてうまい。
この時代、胡麻は積極的に栽培するような作物ではない。
腹が膨れるような物ではないから当然だ。
自生しているものから実を採集し、種を取り出して乾燥させ、薬として使うのが一般的だ。
栄養価が高いので滋養強壮剤として使われるし、すり潰して油分を抽出すれば塗り薬としても使える。
味が良いからと言って調味料のように使うのは、実はかなり贅沢な行いなのだ。
ところで、交易で胡麻を入手した頃から、俺の胸中にはある野望が渦巻いていた。
「揚げ物食べたい。」
胡麻を大量生産して絞ればゴマ油が作れる。
ゴマ油が入手できれば、トンカツや唐揚げなどの揚げ物が実現可能だ。
特にトンカツ。
食べたい。
正確には豚ではなく猪の肉を使うことになるのだが、親戚のようなものだ。問題はない。
胡麻を絞って油を取る作業は大変そうだし、胡麻の栽培も未知の領域だが、やってみる価値がある。
揚げ物は人生に不可欠だ。
とりあえず俺は、チク村に対して、大量の胡麻の種を持参するように要望した。
確保できる量によるが、一部は栽培に用いて、他は実際にゴマ油を搾ってみようと思う。
チク村との交易はおよそ30日周期なので、胡麻の種が届くのは早くても30日後
俺はその間に、胡麻を絞る準備を進める。
胡麻から油を搾る作業は、経験はないが、とにかく高い圧力が必要なことは間違いない。
専用の道具が必要だ。
俺は、数個の案を考えた末、テコの原理を用いた道具を作ることに決めた。
道具の主役は長さ3mの太い角材で、支点、加圧部(胡麻に圧力をかける部分)、力点(力を加える部分)を備えている。
支点から力点までの距離は、支点から加圧部までの距離の5倍だ。
これで、力点に加える5倍の力が加圧部にかかることになる。
この角材の支点を森の大木に開けた穴に差し込み、加圧部の下に胡麻を入れる専用の臼を固定して、圧搾機が完成した。
胡麻が手に入るのが待ち遠しい。




