新婚生活
仕事を終えて家に帰ると、待っていてくれる人がいる。
マジでうれしい。
嫁さんを貰って良かったと思う。
俺の嫁、ナチクは器量が良く料理も上手。
その上、知識の幅も広く聡明と来た。
非の打ちどころがない。
家に帰るのが楽しみだ。
「あなた、おかえりなさいー! ご飯にする? それとも子供作る?」
「ご飯にするー☆」
帰宅したときの定番の挨拶だ。
イチャコラ新婚生活の定番のやり取りみたいだが、ニュアンスがちょっと異なる。
子作りに力点が置かれているのがポイントだ。
これは彼女の立場によるものだろう。
彼女はチク村とこの村の協力関係をより強力にするために嫁いできた。
彼女の役割は嫁いで終わりではなく、この村とチク村の協力関係の象徴、すなわち俺との子供を設け、村同士の結びつきを強めることにある。
それゆえ、彼女は子供を強く望んでいるのだ。
子供は授かりものなので自分たちの都合良くできたりはしないが、それなりに励んでいるので、いずれ何とかなるだろう。
俺は彼女と結婚して本当に良かったと思っている。
最大のメリットは料理がうまいことだ。
レパートリーの多さがハンパない。
例えば、彼女はドングリやクルミなどの木の実を使ってクッキーのような料理を作り出した。
縄文クッキーともいうべきその食べ物は、おいしいだけでなく保存も効くので、狩猟に行くときの弁当として重宝した。
山葵も山椒も使いこなしており、肉もスープも味付けのレベルが高い。
彼女がこの村に来たことで、村に料理ブームが巻き起こり、村の料理レベルが一気に上がっている。
そして、最も特筆すべきことは、彼女は魚醤を持っていた。
「醤油あるじゃん!」
魚醤は魚を塩漬けにして半年ほど発酵させると、割と簡単に作れる。
大豆から作るよりも簡単だ。
大豆から作る醤油とは風味が異なりクセが強いが、醤油には違いない。
魚由来なので刺身との相性も良い。
この村では魚をほとんど食べないので、魚醤のことは考えつかなかった。盲点だ。
彼女はこれは交易で手に入れたらしい。
チク村は海から遠いが、交易が盛んなのでいろいろな物が集まるそうだ。
「交易は重要だな、マジで。」
手元に無いからと言って全てを作ろうとするべきではない。
まずは交易で探すべきだ。
交易で手に入らない物だけ自分の手で作る。今後この方針を厳格にしよう。
ところで、俺にとっては幸せな新婚生活だが、不安もある。
ナチクは俺と結婚して幸せなのだろうか。
俺はもうすぐ40歳になるおじさん、対して彼女はまだ10代後半だ。
もっと若い男と結婚したかったのではないだろうか。
住み慣れた町を離れた不安もあるだろう。
それとなく本人に聞いてみたが、彼女は全く気にしていなかった。
住み慣れた土地を離れることも何も感じていない。
それどころか環境の変化と新しい出会いを楽しんでいるようだ。
好奇心の塊のような人だ。
これなら心配なさそうだが、俺も彼女のためになにかしてあげたい。
考えたのは、彼女の知らないような料理を作って振る舞う事だった。
作ったのは肉うどん。
俺は小麦に水と塩を混ぜてよく練り、1時間程寝かした後、板状に延ばして包丁で細長く切った。
混ぜ方が難しく、ダマにならないように混ぜるのが苦労したが、なんとか形になった。
肉は猪の干し肉を魚醤ベースで煮て、茹でたうどんと共に魚醤ベースのスープに入れて完成した。
かつお節もわかめも無いので出汁は取ってないが、それなりの味になったと思う。
「おいしいわ!」
ナチクは喜んで食べてくれた。
おいしい物を食べるときの彼女の幸せそうな顔を見ると、こっちまでうれしくなってしまう。
なんだかんだで、新婚生活は楽しかった。




