婚姻
チク村の3人衆、タン、ソウ、タツタには交易以外にもう一つ目的があった。
嫁を貰うことだ。
春にこの村に来た時、すでに相手と結婚の約束はしているらしい。
今回の訪問で正式な手続きを経てチク村へ連れて帰るつもりだったそうだが、状況が変わった。
製鉄技術を学ぶために、彼らはこの村に残ることになったのだ。
よって、チク村に嫁ぐ予定だった女性たちは2年間のこの村に留まる猶予ができたわけだが、結婚は予定通り行われた。
結婚式が行われたのは、彼らが来てから1か月以上も後のことだった。
理由は、新居を建てるため。
この時代、結婚したらどちらも実家を出て、新しく家を建てるのが普通だ。
通常は新居が完成してから結婚する。
その家を建てるために、1か月を要したのだ。
彼らの新居は、この村の村人とチク村の3人衆が協力し合って作った。
この村には鉄製の刃物が行き渡っているので、家を作るにも以前より短期間でできる。
1か月で3軒の家を建てるなど、鉄製の工具が無い頃には考えられなかったことだ。
結婚式当日、チク村の3人からは緑色やオレンジ色の勾玉、そして酒がそれぞれの婚約者の両親に進呈された。
勾玉は見た目からして琥珀と翡翠っぽい。
その後、村をあげての宴が催された。
彼らが贈ったお酒は、その日のうちに空になった。
結納の取り交わしと関係者への周知、これがこの時代の婚姻の成立条件なのかもしれない。
元時代との違いは婚姻届けが無いことだけに思える。
根本的なところは、時代が変わっても変化しないようだ。
ところで、実は俺も結婚した。
相手は、チク村の村長代理の娘だ。
名前をナチクと言う。
彼女は製鉄技術を教えるための対価、この村とチク村の協力の証として来たわけだが、その相手は俺に決まった。
ナチクはチク村の次期村長の娘だから適当な奴に嫁がせるわけにはいかない。
とは言え、長老もリーダーも既に結婚している。
というわけで、製鉄関連の重要人物である俺に白羽の矢が立ったわけだ。
こう言うと受け身な印象を与えてしまうが、別に俺は嫌々結婚したわけではない。
むしろ喜んで結婚した。
俺はもうすぐ40歳で、年齢的に結婚は諦めていたが、思わぬところで幸運が舞い降りたかたちだ。
このチャンスは活かすべきだ。
ナチクとの結婚は、彼女が来てから1週間もしないうちに行った。
俺はすでに自分の家を持っていたから、家を建てる時間は必要なかったし、チク村の村長代理が滞在しているうちに執り行う必要があった。
結納品としては、玉鋼を1つ進呈した。
翡翠や琥珀に比べると見た目はいまいちだが、その価値はわかってもらえるだろう。
お披露目の宴や村をあげて催され、その日からナチクは俺と一緒の家に住み始めた。
こうして俺の新婚生活が始まった。




