来訪者
突然、村に来客があった。
近くの村から来た若い男性3人組だ。
近くと言っても、歩いて2日程の距離というから100km近く離れているのだろう。
村の名前は「チク村」というらしい。
俺が自分の村以外の人と会うのはこれが初めてだ。
聞けば、年に1回程度、不定期に来訪してくるそうだ。
目的は交易。
交易では主に珍しい石や薬草などの希少植物が物々交換で取引される。
自分の村で入手しにくいものを手に入れるチャンスだ。
今回、彼らはが持ち込んだのはいくつかの珍しい石、編布(あんぎん:植物の繊維で織った布)、そして希少な植物だった。
その中に俺の欲しいものが2つあった。
小さな磁石と山葵だ。
磁石は本当に小さいもので、これだけだと方位磁石くらいにしかならないが、手に入れた場所の情報なども聞き出せればさらに大きな磁石を手に入れられる可能性がある。
磁石のかけらは2つあり、お互いにくっつくし、片方の向きを180度変えると反発するから2つとも磁石で間違いないだろう。
山葵は彼らの村の近くの沢に少量だけ自生しており、薬として使っているらしい。
調味料としては使っていないようだ。
山葵は魚の臭みを取ってくれるので刺身と一緒に食べるとおいしく食べられるし、滅菌作用もあるので食中毒リスクも下げてくれる。
非常に有用な調味料なのだが、まだそういう活用はされていないのだろう。
俺はこの磁石と山葵を手に入れたいのだが、何と交換するのが良いだろうか。
鉄や鉄製の農具なら十分な価値があると思うが、鉄は下手をすると世界の歴史を大きく動かしかねない材料なので、村以外に広めるのは少し躊躇がある。
それにまだ数が少ないし作るのも大変なので、あまり村から出したくない。
水車にしてもまだ見せたくない。
この時代にはちょっとオーバーテクノロジーだと思うのだ。
なので、千歯漕ぎと鋸歯石包丁を持ってきて交渉してみたところ、交換に応じてくれた。
よかった。
結構よろこんでくれている。
ついでに、磁石を見つけた場所について話を聞いてみたが、土地勘がないのでどの辺なのかよくわからなかった。
だが、彼らは見つけた場所ははっきり覚えているので、探しに行けばもっと大きい磁石を入手できる可能性はある。
なので、もっと大きい磁石を見つけた場合は確保してほしいとお願いしておいた。
彼ら目的は交易以外にもう一つあった。
2つ目の目的は交流だ。
まぁ、交流というか、端的に言うと嫁探しだ。
小さい村の中だけで婚姻を繰り返すと、どうしても近親婚になりやすいので、先天性の異常が起こりやすくなる。
この時代に遺伝学などないだろうが、近親婚は経験的に避けるべきものとして認知されているのだろう。
小さな村の場合、結婚相手は他の村から娶ることが推奨されている。
今回訪問してきたのが若い男性のみだったのは、彼ら自身が自分でパートナーを見つけるためだ。
この嫁探しという目的のため、彼ら3人はしばらくこの村に滞在するらしい。
・・・・・・
ちょっとまずいかもしれない。




