村
村と呼ぶのも憚られる程の小さな集落、それが俺たちの本拠地だった。
森を切り開いた土地におよそ15軒の家が並んでいる。
家と言っても俺の常識とは外れた、地面から屋根だけが生えたような形をした家だ。
材料は木の枝や皮の様だ。一部には竹の骨組みも見える。
確か社会科の授業で習ったな。竪穴式住居だ。
地面に穴を掘り、その上に屋根を載せたような構造だ。
見えている範囲だけだと低く見えるが、中に入れば地面を掘ってある分だけ広く感じられる。
家は開けた土地に円を描くよう配置され、中央付近は広場になっていた。
広場では焚火が焚かれ、数人の男女がなにやら話をしている。
ほとんどが女性だが、高齢の男性も数人混じっていた。
「どうじゃ、獲物は獲れたか?」
いかにも長老と言った風情の老人がリーダーに問いかけた。
背は140cmくらい、白髪交じりの髪と髭を長く伸ばして束ねている。
「いえ、長老、残念ながら今日も獲物はありません。」
リーダーが答えた。
やはりこの老人がこの村の長老の様だ。
「そうか、残念だ。引き続き明日も狩りに出てくれ。このままで肉が手に入らなければ、病気となる者が増えてしまうだろう。」
「わかりました。引き続き尽力します。」
どうやら明日も狩りに行くことになりそうだな。
俺の体は持つのだろうか?
「みんな!聞いての通りだ!明日も夜明けと同時に狩りにでる。しっかり備えてくれ!
今日はこれで解散だ!」
狩りのメンバーが各々の家に向かって引き揚げていく。
さて、俺も家に帰るか。
とはいえ、自分の家がどこかなんてわからない。
しかたないのでリーダーに聞いてみる。
「あの、すみません。私の家はどこでしたっけ?」
おそるおそるリーダーに話しかけてみる。
家の場所を忘れるなんて変な奴だと思われるだろうが、致し方ない。
「おいおい、今日もウチに泊めて欲しいのか?それならそうとはっきり言えよ。」
おや?
俺はリーダーの家に居候しているのか?
自分の家はないのだろうか?
「だがすまんな、今日は大事な勤めがあるんだ。今夜からは泊めてはやれん。
朝にも言っただろう?
いつも通り倉庫の下でも使ってくれ。今日は雨は降ってないから問題ないだろう。」
リーダーが視線を送った先には柱で支えられた建物が見えた。
どうやら倉庫らしいが、村の中で一番立派な建物だ。この下で寝ろと言う事だろう。
中ではだめなのか?
仕方ないが事情の分からない状況で強気に自分の要求を突きつけるのは気が引ける。
俺は人と衝突するのが苦手なのだ。
おとなしく従うことにしよう。
リーダーの言う通り、雨も降ってないし気温も高めだし風邪をひく心配はない。
よく見ると、倉庫の下には藁のようなものが引いてある。
あれをベッド代わりにしろということだろう。
「そうだ、これは今日の分の食料だ。大事に食べてくれ。」
リーダーが小さな袋に入った木の実をくれた。貴重な食料ゲットだ。
「早く獲物を獲って肉を食いたいものだな。じゃあ、また明日な。」
リーダーは颯爽と去っていった。
袋の中は木苺、ヒマワリの種、その他知らない木の実だった。
なんだか子供の頃みたいだな。
ちょっと昔を懐かしみながら俺は袋の中身を全て食べた。
味は物足りないが腹はそこそこ膨れた。
腹が満たされたことで少し頭が回り始めた。
ここはどこなのか?
いつの時代なのか?
周りに知り合いは全くおらず、自分の置かれた状況も分からない。
分からない事、不安な事だらけだ。
思索を巡らそうにも情報が少なすぎる。
藁の上に寝っ転がったまま自分の置かれた状況について考えているとすぐに眠くなってきた。
昼間、あれだけ動き回ったのだから当然だ。
体中が痛い。久しぶりの筋肉痛だ。
明日も狩りに行くみたいだし、早く寝て少しでも体力を回復しないと。
村の広場の焚火もいつの間にか消えていて、周りに人はいない。
月の光がやさしく周囲を照らしているおかげで、夜であることを忘れそうなほど明るい。
月空ををのんびり見上げるなんて10数年ぶりだ。
まるで夢の様に思える。
いや、そういえば、ここは夢の中だったな。
夢の中で寝たら、現実に戻るのだろうか?




