長さの基準
鉄の生産も加工も全てテツに任せられるようになったので、俺は次の取り組みを開始した。
次の目標は、水車の作成だ。
鉄製工具がだいぶ揃ってきたので、そろそろ実現できるだろう。
風車の使い道はたくさんある。
まず、精米作業の自動化だ。
この時代は臼に籾を入れ木製の杵で叩いて精米を行っているが、この作業を水車で自動的に行えばその間に別の作業ができる。
ドングリなど木の実を粉にするのも同様だ。
いずれ小麦や蕎麦の栽培が始まれば需要はもっと増えるだろう。
また、水車の動力で製鉄や木炭作りの送風作業を自動化することができる。
あの重労働から解放されるなら、村民は大喜びだ。
俺も正直、あのつらい作業はしたくないし、させたくもない。
そして、水車は鉄や木材の加工に使える。
鉄を叩く作業の自動化や回転機械による加工が現実的になってくるから、鋸の制作も楽になるだろう。
更に、先のことになるだろうが、灌漑に使うこともできる。
水稲が伝来したら、水田に水を引くために活躍するだろう。
水車一つで夢が広がる。かなり革命的な技術だ。
だが、実現するのは簡単ではない。
俺は木材と竹を使って水車の模型を作ることにした。
水車についての知見がないので、模型で実験して、知見を蓄える必要があるのだ。
いきなり大きな水車を作って、失敗した日には目も当てられない。
木材の加工はまだまだ簡単ではないし、大勢の人の協力を貰うことになるから、慎重に事を進めたい。
一番気を使ったのは軸の部分だ。
ここには水車の全重量がかかるし、回転によって摩耗することが予想される。
耐久性をどう確保するかが課題だ。
軸の材質は手に入る中で最も硬い木材である樫で決まり。
形状はできうる限り真円に近づける必要があるので、軸の両端に穴をあけ、そこを器具で支持して、回転させながら加工しよう。
軸を支える軸受けは回転をスムーズにするために油をしみこませた木材を使う。
こちらも軸と同じ樫で作ると軸が摩耗してしまうので、樫より柔らかい材料で作る。摩耗したら交換すれば良い。
軸を交換するよりは簡単だ。
軸受けは水車の両側に2個ずつ配置してそれぞれ1個抜いても稼働できるようにした。
交換作業性を考慮してのことだ。
水車の直径は2mを計画している。
直径が大きいほど大きな力が得られるが、大きくなるほど加工も大変だし難易度も上がる。
今の技術では、2mくらいが限界だろう。
水車の部品は村民で手分けして作ることを想定しているが、ここで一つ問題に気付いた。
長さの単位がないのだ。
長さの単位がないと、人によって長さがバラバラになるから分担して部品を作ることが難しくなる。
一つのサンプルを作って、いちいち比べならが作るという手もあるが、効率が悪いし今後の事を考えても単位はあった方が良い。
「長さは1mを基準にしたいな。」
どうせ作るなら、自分の慣れ親しんだ長さを基準にしたい。
日本では昭和の時代まで長らく尺貫法が用いられていたが、いずれメートル法を採用するのだから先取りして採用しても良いだろう。
1mの定義は何度か変わっているが、元時代における最新の定義は「光がある一定時間の間に進む距離」となっている。
一定時間と言うのは確か数億分の1秒だ。
そんな定義を覚えていたところでこの時代では全く役立たないし、そもそも元時代でも一般人にとっては役に立たない。
仕方ないので、自分の身長を元に1mを定義することにした。
元時代にいたころ測定した自分の身長は172cm
自分の身長を縄で測り両端に結び目を作った。
結び目の間の距離が172cmなので、目測で2cm結び目をずらし、間隔を170cmに調整した。
この間を17等分すれば1区画が10cm、10区画が1mになる。
俺は微調整を繰り返しながら縄に線を引き、17区画に区分けした。
結構な時間をかけて試行錯誤し、どの区画を比較しても差が分からなくなったところで、縄の横に竹の棒を並べてちょうど10区画分の長さで切断した。
「この竹の棒を1mの基準としよう。」
世界初のメートル原器が完成した。




