釿、槍鉋、鋸
翌日、溶鉱炉の粘土壁を壊し、鉄を取り出した。
取り出した鉄は村人総出で石器で砕き、硬いものと柔らかいものに分別する。
当然、石器より硬いものが鉄だ。
今回も前回と同様に約5kgの鉄が採れた。
採れる量は改善しなかったが、質は明らかに改善した。
拳大の玉鋼が2個も採れたし、鉄のカケラも大きいものが増えた。
見た目にも金属光沢が増していて、純度が上がったように見える。
特に、脚踏み式鞴で送風したあたりの鉄が大きいから、送風能力の向上が大きく寄与したのだろう。
送風能力が上がれば温度が上がるから、鉄が溶融して塊になりやすい。
理屈上も矛盾はないと思われる。
次は、すべての送風ポンプを脚踏み式鞴に置き換えよう。
取り出した鉄は、テツの手によってほとんどが農具に加工された。
鉄製農具はまだまだ村民に行き渡ってないから、優先度が高い。
テツが鍬、鋤、鎌の3種を作り、村民に配布した。
次に優先度が高いのは木工加工用の工具だ。
今回は、釿と槍鉋、そして鋸を作った。
これもテツが作った。
俺が手を出すことはない。
槍鉋は元時代の様な平鉋が登場する前、鎌倉時代の頃まで主に用いられていた鉋だ。
木の棒の先に柳の歯の様な形の刃物が取り付けられたもので、木材を平面に仕上げる時などに使う。
平鉋の様に滑らかな平面に仕上げることはできないが、平面だけでなく色々な形状を仕上げるのに使えるのでこちらを作った。
鋸はやはり作るのが難しいので、刃渡り10cm程の小さなものだ。
ギザギザの刃は根気よく砥石で磨いてくれた。
しかも、刃は交互に左右に振り分けられている。
この加工は「あさり」と呼ばれていて、これがあると無いとでは作業性が大きく異なる。
「あさり」があると刃の部分が最も厚くなるので、その他の部分が木材と接触せず、摩擦力を低減してくれる。
余計な力が要らなくなるし、刃の部分だけに力がかかるので、切る性能も向上するのだ。
刃の部分には焼き入れも施している。
どうやって刃の部分だけに焼き入れしたかと言うと、刃以外の部分に泥を塗ることで冷却速度を遅くしたのだ。
過熱して急冷すると焼き入れされて硬くなるが、冷却がゆっくりだと硬くならない。
元時代の日本刀の焼き入れにも使われている方法だ。
焼き入れ後は低温でゆっくり過熱してゆっくり除熱する焼き戻しも行った。
急激な冷却によるひずみを除去するための工程だ。
これを行うことで、硬さだけでなく粘りがでる。
焼き入れ、焼き戻しの方法は俺の入れ知恵によるものだが、テツはひたすら試行錯誤して、適切な火の温度、水の温度、泥の塗布量を最適化してくれた。
夢中になれるのはテツの才能だ。
彼にはいずれ日本刀を作ってもらいたい。
折れず、曲がらず、よく切れる日本刀は刃物の最高峰なので、その職人は当然最高の職人である。
テツが日本初の日本刀職人になる日が待ち遠しい。




