鉄工工具
翌朝、朝日に照らされて目を覚ましたとき、周囲には誰もいなかったが、しばらくすると村人がぞろぞろ集まってきた。
皆疲れているはずなのに、ワクワクしているようにも見える。
鉄を見るのが待ち遠しいのかもしれない。
炉の解体作業に取り掛かった。
男たちが炉の土壁を鍬など叩くと、簡単に崩れた。
土や残った木炭や灰を取り除くと真っ黒な塊が姿を現した。
部分的に金属光沢も見える。
製鉄は成功したようだ。
村人から歓声が上がる。
ここから、鉄と不純物を分ける作業に入った。
方法は前回と同じ、石器で叩いて割れたら不純物、割れなかったら鉄だ。
今の鉄の定義は「石より硬い材料」である。
ざっくりだが、最も重要なことだ。
この定義から外れるなら、作る意味はない。
前回は俺1人で行ったが、今回は村人総出だ。
炉の周辺に散らばって、まだ熱い鉄塊に四苦八苦しながら必死に石で叩いている。
あんなに苦労して、石より柔らかかったら承知しない、という勢いだ。
鉄の価値を確かめているのかもしれない。
結果、鉄は約5kg採れた。
30kgの砂鉄を投入して5kgの鉄、前回よりも確実に効率が上がっている。
前回は5kgの砂鉄から0.2kgしか取れなかったから、各段の進歩だ。
特に今回、握りこぶしくらいの硬い鉄、玉鋼が獲れたのが大きい。
玉鋼は日本刀に使われる純度の高い鉄で、元時代のたたら製鉄でもそう多くは獲れない。
今はまだ日本刀を作る技術はないが、その時に備えてこれは加工せずに保存しておこう。
分別作業が終わったので、工具の作成に入る。
この段階で村人のほとんどは村へ帰っていった。
多大な労力をかけたが、ちゃんと石より硬い材料が獲れたことが確認できて、どこか満足気だ。
工具作りは俺ともう1人、村の中で最も工作がうまいという男が担当する。
自分から参加したいと立候補してきた。
作る物は決めている。
鎚(先端が金属製のハンマー)と金床だ。
これは鉄を加工するために使う物だから、最初に作った方が効率が良い。
まずは鎚から作った。
構造はごく簡単だ。
手頃な形の鉄塊を木製の柄に紐で結びつけて固定するだけ。
柄は使い古した鍬の物を流用した。
打撃面が平らでないが、今はこれで良い。
その後、金床も作った。
本来の金床は、金属を平らに加工するための平面と、曲げる加工をするための突起部があるが、今回は平面だけのものを作った。
というか、ただの分厚い鉄板だ。
厚さは2cm程ある。
今回得られた中で最も大きい塊を過熱用の炉で熱してから、鎚で叩く。
この時、鎚の打撃面も熱してから叩く作業をする。
金床を鎚で叩くことで、両方の仕上げを同時にやってしまおうという魂胆だ。
鎚を当てる角度に気を使うが、金床も鎚も平らな形状に近づいてきた。
そこそこ良い形になったところで、鎚の打撃面だけを熱し、直後に水につけた。
焼き入れだ。
打撃面を硬くするために行う。
金床は大きすぎて割れる心配があったので、焼きは入れないことにした。
こうして、初めての鉄工工具が完成した。




