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第五十八話 開店前夜

第五十八話 開店前夜


☆森の神殿仮設キャンプ

 奴隷娼館(名称未定)


 サトウ達はジル、クリス、真奈美を連れ宿屋に戻っていた。


 食事を済ませ、オウングスを真奈美の護衛に残してサトウは娼館に人目を避けて移動していた。


 そこではグレイス達が営業開始に向けて昼夜構わぬ突貫で準備を進めている。

 元々能力の高いグレイスとセダムは実に的確に仕事をこなしている。


(すげえ、予想以上だな)


 元々営業していた娼館とは言えサトウの提示した営業プランはこの世界ではあと数百年はお目に掛かりそうも無いモノだったので、二人は半ば恐慌状態になりながらそれでも着々と問題を解決して行くのだった。


 そこへ


 サトウが呑気に現れる。


 当然迷宮に入っていた事は知っているのだが。


「ち〜すっ! おお!準備すすんでるねぇ」

 ビキッ

 この無神経な声を聞けば少し位の激昂も許されるのでは無いだろうか?


 突然現れたサトウをグレイスはジロッと睨む。


「……誰かさんが無茶な営業方針を出したまま消えるからこっちは天手古舞よ!」


「大丈夫! 俺は出来無い奴には頼ま無いんだ」


「ふんっ! どうだか!」


 セダムはチラッとサトウに目をやるが何も言わず仕事に戻る。

 その目は「相手にするだけ無駄だ」と言う感情が溢れていた。

 事実その通りではあるが、サトウも全く気にする素振りが無い。


「あんたが言った通り、あの後下働き用に五人雇ったわ。何れは身体を売る事を前提していると伝えておいたわよ。どうなるかは分からないけど変に期待をさせるよりその方がいいでしよ? あと報酬の事もね」


「ああ、流石グレイスだ。女達は?」


「私は実際には娼婦の経験は無いからね。教育係りを一人雇い入れるけどいいわよね? ハッキリいってこの人は凄いわよ」


「構わんよ。湯殿の準備は出来ているか?」


「そっちは突貫よ。取り敢えずは仮設に成るみたい。流石の職人達も初めてなんで苦戦しているみたいね」


 サトウが手に入れた十人の奴隷娼婦はある程度の経験がある者達だった。その中からグレイスとセダムが選抜している。だから指導は限定的なもので済むだろう。


「後の六人の指導はサトウがやるのね?」


「ああ、出来ればその指導する女性と話がしたいんだが」


「明日朝には来るわ。その時で良いの?」


「ああ、構わない。その時は全員で講習を受けて貰うぞ」


「はいはい、好きにすればいいわ」


 呆れ顏のグレイスにサトウは事も無げに言う。

「何言ってるんだ、グレイスとセダムにも見てもらうぞ。娼館てのは形の無いサービスを売るんだぜ? それを売り主であるグレイスとセダムが知らなくてどうするんだよ!」

 ギョッとするグレイス

「ちょっ、ちょっと待ってよ! 本気なの!」


 セダムはこちらを見ずに聞き耳だけを向けている。当然気になっているのは間違いない。


「まさか処女って訳でも無いんだろうから問題ないだろ? それにこれはスキルだからな! ちゃんと講師もいるしな」


「……誰よ…まさかと思うけど…」


「そのまさか、真奈美だよ」

「!!! あんた、ローランドの奴らに殺されても知ら無いわよ」


「実際に客を取る訳じゃ無いからな、大丈夫だろ」


 平然と言い放つサトウに思わず「大丈夫じゃねえだろ!」と突っ込みたくなったグレイスだがここの所でサトウという人間を掴んで来たグレイスはセダムと同じく無駄だとしか思え無い議論を打ち切った。


「……なら明日の朝には皆を準備させておくわよ」


「頼むよ! ではご挨拶にでも回ろうかな」


 そう言ってサトウは掃除に精を出す奴隷達の元を回る。

 オウングスの手によりジル、クリス、真奈美以外の六人は皆奴隷契約を結んでいる。

 ジルとクリスは冒険者の肩書きが一つはいるだろうと判断した為で、

真奈美は祭壇の間に侵入する時の障害となる恐れがあるからだった。


 サトウは十人の奴隷娼婦が自らの部屋の準備しているのを一人一人確かめて行く。

 みな五人の従者達に負けず劣らずの美女ばかりだった。

 しかし決して触れる事はしない。

 あくまでもビジネスはビジネスだと言うのがサトウの判断だ。

 彼女達は金で買われたが自ら取り返す術を与えられている。奴隷ではあるが契約の上に於いては同等だと言うのがサトウの判断だ。

 その事に関してはグレイスとセダムにも徹底させている。


 しかし、十人の目付きはまだ完全には信じ切れていない感情は見て取れるものの、普通の奴隷とは一線を画するものだった。


 それをグレイスはジッと観察している。

 組織の足場さえ固められれば御の字であるグレイスはある程度の利益さえあれば構わないと判断しているが、サトウの狙いはまだ別にある様に感じるからだ。


 サトウは一人一人に声を掛けながらも決して名前を呼ばなかった。

 あくまでも自らと一線を引いている様にも見える。


(何らかの意図でもあるの?)


 だがグレイスには想像が付かない。

 いや、付きたくもないと思いつつも、やはり気になるのは間違いなかった。


(何れ尻尾を掴んでやるわ!)


 三つの依頼をサトウに押し付けた形になるグレイスは結局サトウから離れる事は出来無い。協力者はあくまでも協力者でしか無い。

 グレイスの残された手駒にアサシンギルドに対抗出来る者など居ないのだから。


 最後はグレイスとセダムが依頼の後始末をするしか無いのではあるが、そもそもオウングスすら見付ける事が出来なかったグレイスに残されだ方法など殆ど無い。

 結局、サトウとは運命共同体なのだ。


「グレイス、職人が内装の事で相談があるそうだ」

「分かったわ、すぐ行くから」


 グレイスは先ず目の前の仕事を終わらせる事に全力を捧げる事にした。


(ふん、私が人助みたいな事に手を出すなんてとんだ茶番ね!)


 グレイスとセダムは今日から暫くの間は不眠不休になる覚悟を決め職人達の元に向かう。



 十人の奴隷娼婦に声を掛け、下働きの五人の様子を見た後、サトウは五人の従者達の元に現れる。


 てっきり客を取らされると思い沈痛な面持ちでサトウに呼び出された五人はホッとしたのも束の間また沈痛な面持ちになる。

 だが五人には反論する権利は無い。

 サトウはこの五人と他の奴隷娼婦との間に明確さ待遇の差を付けていた。

 リスティ、ソフィア、ディアナ、フローラ、ゼシカの五人は講習を受ける様に命ぜれ、それでも受け入れるのだが、その講師が姫巫女である真奈美だと知りまた驚愕する事になる。


 その目には僅かばかりながら好奇心とも付かない感情が見て取れるが、何よりも真奈美と共に、しかも五人全員が受けると聞いて動揺が走るのだった。


 そしてその初日には冒険者ギルドや商業ギルド、そして衛兵達も招待すると言う。


 当然五人の不安は尽き無い。




 そして姫騎士エアリスもまた苦悩していた。


 エアリスこそが最も重い使命と引き換えにサトウの奴隷となった者である。


 二人は娼館の一室に入り相談を初めた。


 それはサトウにしても厄介な案件だったのだが、それでもサトウはそれを受け入れたのだ。


「ではエアリス、約束を果たして貰おうか」


「……分かった。私とて姫騎士の称号を持つ者だ。約束は違えない。だが…その……本当に…」


「任せろ! どうせついでだからな」


 そしてエアリスは着衣を全て脱ぎ、その産まれたままの裸体をサトウの前に惜しげも無く晒す。

 美人揃いのサトウの従者の中でも紛れもなく飛び抜けた美しさを持つエアリスは自らの主家の者を殺す密命を帯びた刺客だった。


 それを肩代わりする対価としてエアリスはその身体を差し出す事になる。


 唯一の救いはその者が身分を隠してこの迷宮に乗り込んでいる事だ。


 本来はエアリスも仲間を引き連れていたのだが、全て神殿騎士達に討ち取られ、残ったのはただ一人、エアリスのみとなっている。


 エアリスにも選択肢が無い。


 そして、エアリスはその身を差し出し、サトウを受け入れた。


 その夜は何時までもエアリスの啜り泣く様な声が聞こえていたと言う。

 皆その意味を理解していたが、理解しているが故に何も言わ無い。


 五人はまた一人仲間が増えたのだと思い、まだ眠れぬ夜を過ごす事になる。

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