第五十七話 迷宮散策
第五十七話 迷宮散策
☆森の神殿 前庭迷宮
「さて、リーダー、この後はどうする?」
サトウ達は三時間ほど探索を行い、モンスターの少ないエリアで食事休憩を取っていた。
周囲を危険なモンスターに囲まれているとはいえ、不眠不休と言う訳には行かない。如何に休むかと言う事も冒険者にとっては大切な技術なのだ。
その点に於いて組織からあてがわれた三人は紛れも無く熟達の冒険者である事は間違い無い。
特に、危険な魔境でモンスターを狩るのを主体にした戦術には学ぶべき所が多い。
ジルとクリスも迷宮や魔境の探索がメインだが、やはりゴルド達の方に一日の長が有る様だ。
固く焼いたショートブレッドに干し肉、それと薄いワイン、干し葡萄の簡単な食事をしながらパーティでこの後の方針を相談する事になった。
当然後宮に乗り込む準備は出来ておらず、後はどれだけ時間を費やすかとそれに見合うエリアの選定と言う事になる。
倒したモンスターはゴブリンやグレイウルフ等で、ウッドフォークと言う切り株のモンスターと大コウモリなどで、一旦アイテムボックスに収納しておき、それから冒険者ギルドに持ち込む事になる。
(さてどうするか、どうせ暫くは行動を共にするんだし、もう少しランクが上のモンスターを狙ってみるか)
サトウは暫し思案すると
「出来ればもう少しランクの高いモンスターを相手取れるエリアに入りたいんですが」
すると
「……誰か来るな」
エリオットがそう呟く。
サトウはロケイトとサーチを再び唱えるとーー五人、いや六人を捉えた。
(パーティだろうがな)
すると六人組の男達が少し慌てている様だった。
一人は怪我をしている。
「よう、どうした?」
ゴルドは道を空ける様に手を振る。
迷宮の中では出る者達が優先だからだ。
「……ゴルドが。珍しく大所帯だな」
「ああっ、臨時だがな」
ゴルドはチラリと怪我人に視線を送る。
「厄介なヤツに当たったのか?」
簡単な治療は済ませて有る様だがそれでも一人で歩く事は出来そうも無い。
治療や回復の魔法を使える者は貴重なので恐らく魔法薬で応急処置を済ませたのだろう。
「ここ数日普段見ないモンスターが現れる様になってな。油断したぜ。お前らも気を付けろよ」
そう言って急いで出口に向かう。
(低級治療薬ならそんなものか)
サトウ達はその後ろ姿をジッと見送る。
サトウ達の様に何人も回復役がいる事の方が稀なのだ。基本的に冒険者は危険に飛び込む様に思われがちだが、極力危険を回避するのが本文であり、失敗して危険な目に遭うだけなのである。
それ程の危険な状況に自ら飛び込むのは稀なのだ。
冒険者にとって冒険とは日々の糧なのだから。
「……どうやら活性期にでも入ったのか」
「活性期ってなんだ?」
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[活性期]
自然の洞窟や打ち捨てられた迷宮などは当てはまりにくいが、森の神殿の様に大魔宮と呼ばれる迷宮で度々起こる現象。
ダンジョンコアが迷宮を形成しモンスターを呼び寄せる事は分かっているが、何故そうなるかは今の所不明。
周期的に大量のモンスターを吐き出したり、強力なモンスターを呼び寄せたりするのだが、理由は諸説あれど定説は無い。
全ての大魔宮で起こる訳でも無いので、規模だけが理由では無いと推察されている。
数日から数週間続くが、一カ月を超える事は稀
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「まあ、あんまりモンスターを討伐するとお怒りになるんだろうさ。普段よりも格段に強いモンスターが湧いて来るのさ」
「……格段に強いねえ…」
「あいつらは狩り主体のパーティだからな。モンスターの多い場所へ入り込むからな」
「……狩り主体でやれるのか?」
サトウのイメージは迷宮とは宝箱なのだが、どうやらそれは違う様だった。
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冒険者のスタイル
迷宮に挑む、特に森の神殿の様な大魔宮に挑む様な生粋の冒険者達は、それでも日々の糧を得る仕事なのは間違い無い。
その為、様々な効率の良い方法を編み出していた。
それは大きく分けて三つ
・モンスターハント
モンスターの持つ魔核や素材などのドロップアイテムを狙う。
短期決戦なので自らのパーティに合ったレベル帯のモンスターの湧くエリアで集中的に狩りまくる。
編成は戦士や弓術師などが重武装で挑む事が多い。
・トレジャーハント
理由は不明だが、迷宮内には何故か最深部ほど良いアイテムが落ちていたり宝箱があったりするのだが、それは深い階層ほどその頻度は高く、より高価なアイテムが手に入る。
しかし、罠や危険なモンスターも多いので盗賊などの探索や罠解除のスキルを持ったメンバーを必ず連れている。
探索も時には数日にまたがる事が多いので、回復役や補助の荷運びをするサポート用意なども連れている事が多い。
・ダンジョンエクスプローラー
迷宮や魔境を探索する事を使命とした特殊なパーティ
主に冒険者ギルドが固定報酬で依頼する事が多い。稀に地域の領主などが調査を依頼する事もある。
攻略よりも全容を掴む事が使命なので、狩人や盗賊などの探索や感知能力の高い者で、軽装備のジョブ持ちがその任を負う事が多い。
当然古い文明に接触する事が多いので、学者や魔術師を加えてるのが通例となっている。
ただ歩き回るだけでは無いのだ。
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「まあ、俺たちみたいに特化しているのは少数で、普通の迷宮に挑む奴等は自分のレベルにあった階層や領域で活動するんだ。お宝や魔石やモンスターの素材はその時々によってと言う事だな」
因みに冒険者ギルドの出す依頼とは違い、迷宮探索は冒険者の裁量次第と言う事になる。
依頼には討伐、護衛、採集、調査、輸送、教育などがあるが、冒険者ギルドに所属していないサトウは全く知ら無い。
ジルやクリスにしても迷宮や魔境に勝手に出入りしていただけなので、その辺は余り詳しくは無いのだ。
単に冒険者と一括りにしても様々だと言う事だろう。
稀に修練の為に迷宮や魔境に挑む者も居るがそれはかなりの少数派となる。
サトウの様に密命を受けた者はさらに少ないのだが、今、森の神殿にはそんな奴等が続々と集まり始めていた。
『オウングス、影童は放ったか』
『ああ、取り敢えず前庭迷宮でよいんじゃな?』
『それで良い』
サトウは後宮に入り込むルートを模索していた。
目指すは【翡翠】の中でも神殿の中に眠る聖遺物なのだから、生半可な方法では手に入ら無いのは明白だ。
そう、森の【翡翠】と言うだけなら手に入ら無い訳では無い。価値の低い物なら後宮の比較的浅い階層でも手に入るのだが、グレイスが依頼して来たのも、オウングスが探しているのも、エアリスが阻止しようとしているのも、聖遺物の【翡翠】なのだ。
オウングスは予知により【翡翠】の危険性を察知し、それをサトウに託した。
そしてその鍵を握るのは姫巫女である真奈美だった。
このサトウの横で何気なく食事をパクついている真奈美こそが神殿の秘密を解く鍵なのだ。
真奈美の暗殺には実はその意味が込められていた。
巫女が神託を受けるのは神々のおわす神殿にある【祭壇の間】である。
つまり巫女は【祭壇の間】に入る事が唯一許されている存在なのだ。
真奈美が掴まったのも大地の神殿だったのだから。
サトウは最初、真奈美なら素通しでは無いかと予想していたがそれは誤りだった。
オウングスによれば「神殿と巫女といえども対等では無い。しかも祭壇の間で神託を受けるのならいざ知らず、【翡翠】を持ち出そうとするなら加護は望めまい」と最初から否定的だった。
その為の護りを固めるのが前庭迷宮であり後宮なのだから、当然と言えば当然だ。
この日、サトウ達は三時間ほど狩りと探索を繰り広げ、迷宮を後にする。
それは探索と言うよりも撒き餌に近い。
アサシンギルドや神殿騎士団の動きを探る為にワザと迷宮に入り込んでいたのだが、少なくともサトウとオウングスは何も掴む事は出来なかった。
そして最も警戒していたのは姫騎士エアリスが命懸けで阻止しようとしている王族の血脈に連なる者達。
サトウは迷宮を後にし娼館へと向かう。
自らを撒き餌として【翡翠】の争奪戦に名乗りを挙げたのだ。




