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第五十六話 迷宮の心得

第五十六話 迷宮の心得


☆森の神殿 入り口


「ここで受付を済ますんだ」


 三人のリーダー格、剣士でもあるゴルドに言われサトウは商業ギルドのカードを提示する。滅多にある事では無いが商人は危険な辺境を旅する者が多い所為で、時には従者として管理迷宮に挑む事は珍しい事では無い。

 そしてその後に弓術士であるエリオット、盗賊であるカインが続く。三人はかなりの期間パーティを組んでいるらしく、手馴れた感じを受ける。ただ、本来は魔境においてモンスターを狩るのがメインらしい。


「あんたらがグレイスの言ってた問題児か。そうは見えんがな」


 エリオットは如何にも弓術士の様なゆったりとした口調だ。探索スキルを多く持つ弓術士は寡黙な奴が多いが、この男はそうでも無いようだった。サトウも気安く声を掛ける。


「まあ、グレイスさんは俺を誤解しているよね。決して暴れ回ってるわけじゃ無いんだぜ?」


「どうだかな。ジルとクリスを手懐けて、その上ドノヴァンを出し抜い出し抜い奴がまともだとは思えねえがな」


 カインは俺への疑念を隠そうともし無い。サトウは肩を竦めてやれやれと言った顔だ。


 そうこうしているうちにサトウ達の番が来る。

 どうしても入り口付近は混雑するので、若干時間を開けるのがマナーらしい。


「……じゃあ、行くぜ」

 ゴルドがそう言って迷宮の奥へと進む。

 森の神殿の最大の特徴はその神殿の入り口の前にある前庭迷宮ガーデンプレイスがある事だ。それは解放型の迷宮と言うよりは迷路に近いもので、広大な領域に広がっている。だから真の神殿への入り口とは違う。

 だが、周囲の環境と一体化した構造は多くのモンスターを呼び込み、様々なモンスターの魔石を多く狩る事が出来る。そして範囲が広い所為で多くの冒険者が侵入しても獲物がいなくなる事が無かった。それが森の神殿に多くの冒険者が集まる理由でもあり特徴でもある。


「つまりだな、この森の神殿は前庭迷宮ガーデンプレイスと呼ばれる地上部分と、後宮と呼ばれる地下迷宮、そしてその奥にある奥之院にあたる神殿本体に別れてるのさ」


 エリオットによれば彼等は前庭迷宮ガーデンプレイスを中心に狩りを行っていたらしい。それでも十分なモンスターに遭遇出来るので中々に良い稼ぎになっていたらしい。


「ふ~ん、そうなんすね? 結構広いのか」


 サトウのロケイトでも全体の掌握は難しい様だった。レベルが上がれば分から無いが。


 ジルとクリスは後方に付く。真奈美はその二人が前後に挟む形になり、サトウが遊撃役に付いている。


 側方の壁は約20m近くあり、登るのは困難だった。それにモンスターを避けても所々途切れている壁の上を移動する方が難しいため、皆地上を移動している。それにモンスターを狩る為に迷宮に潜るのにワザに少ない壁の上を移動する理由は無い。


(地下じゃ無ければば圧迫感も少なくて最初は楽だな)


 サトウはモンスターの反応を捉えてはいたが敢えて何も言わずゴルド達の手際を確認する方針だった。


(まあ、敵を知り己を知らばってヤツだよね)


 ただ、入り口付近は既にほぼ狩り尽くされており遭遇するのはかなり奥に入り込まねばなら無い。

 ここで戦略は二つに分かれる。

 単純ではあるが、一階で効率良く狩りをする為に人の余り入り込んでいない領域を目指すか、真っしぐらに地下迷宮の降り口を目指し貴重なお宝を探すかだった。


「今日は慣らしだからな。先ずは前庭迷宮から攻略していくぞ。キツかったら早めに言えよ」


 そう言ってゴルドはエリオットに周囲を索敵させている。

 この辺りは入り口に近い所為で殆どモンスターはいないのだが、これはゴルドなりの親切心なのかも知れ無い。


 そしてジルとクリスも周囲を伺っている。

 ジルは双剣と荊の鞭がメイン。

 クリスは魔道士の杖と予備で癒しの杖を持っていた。


(さて、俺も迷宮は初めてだからな。ここはお手並み拝見といこうじゃ無いか)


 そして三十分ほど移動して、エリオットが索敵範囲にモンスターを捉える。


「……いるね。六匹…かな?」


 その時サトウもロケイトとサーチでモンスターを捉えていた。


(ふむ、索敵範囲は俺の方が上か。居るのは──ゴブリンだな)


 エリオットは正確に捉えていた様だ。

 ジルよりも早く捉えていた。

 やはり狩りにおいては盗賊の危険感知よりも弓術士や狩人のロングレンジスィープの方が上らしい。


 そして正面通路にゴブリン達が雪崩れ込んで来た。


「ふむ、中々に好戦的だな」

「迷宮の中では特別な行動に出るモンスターが多いのよ」

 そう言ってジルは双剣を抜く。

「そうそう! だから普段見た事があるモンスターでも油断は出来ないんだよ」

 そう言ってクリスは杖を構える。

 真奈美は──まあ周りをみている。


「ギキギギッ!」「ギギィッ!」「ギッ!」


 そして現れたゴブリン達が襲い掛かって来る。手にはショートソードや木の盾が握られている。


 最初に動いたのはエリオットだ。ギリギリと長弓を引き絞り先頭の一匹を串刺しにした。

 続けて襲い掛かって来たゴブリン二匹をゴルドがバスターソードを振るいその首を跳ね飛ばし、続けて横薙ぎして真っ二つにする。


(……やるな…)


 そしてカインは盗賊らしくハインドのスキルを使い姿をくらますと一匹に後方から奇襲を掛ける。ショートソードを突き立てられ「ギッ!」と短く呻くとそのまま崩れ落ちていく。


「……腕試しにもならないわね」


 そう言ってジルは荊の鞭を振るい残った二匹を範囲攻撃に捉えスタン効果により動きを止めると、そこをゴルドとカインが一匹づつ仕留めていく。

 まるで無駄の無い戦闘はあっと言う間に終わった。


 ゴルドは魔石を抜き取るとサトウに言う。


「俺達の任務はお前らが森の神殿に辿り着くまでの露払いとベースキャンプの設営、それと維持管理だ。それでいいな?」


 その顔は正に職業冒険者そのものだった。

 サトウは頷く。


「ああっ、それで十分だ。前庭迷宮ガーデンプレイスはそれで突破するんだな? つまり俺の出番は後宮から──と言う事で良いんだな?」


「後は任せたぜ? リーダーさんよ」


 サトウはニヤリと笑い、それにゴルドも答える。


「だが、次のお客さんだな」


 そう言ってサトウはスッと風切り丸を抜きゴルド達の前に出る。


 その動きには一切の無駄が無く、力みも硬さも無い流れる様な動きだった。


(噂は伊達じゃねえな)


 ゴルド達三人も腕に覚えのある冒険者である。その動きだけで力量を見抜いていた。つまりエルベの街にいた配下よりも確実に上のレベルがあると言う事だ。


 そして正面にはグレイウルフ達が現れる。


「ふむ、八匹が」


 一人前衛に立つサトウを見つけたグレイウルフ達は「グルルルウウッ」と唸り声を上げて牽制するがサトウはスルスルと前に出て行く。


 そして──焦れて飛び掛かって来るグレイウルフにサトウは風斬エアースラッシュを放つ。

 大気の刃が数匹のグレイウルフを斬り裂き、怯んだ所にあっという間に飛び込み今度は破斬パワースラッシュを立て続けに放つ。

 至近距離から直撃を喰らい「ギャンッ!」と言う悲鳴を上げて吹き飛ばされ動きが止まった所にサトウはクルリと身体を旋回させて斬り裂いていく。余りの早さに反応出来ないグレイウルフ達はその身を次々に肉塊に変えられていった。


(ふむ、こんなもんなのかな?)


 最後に飛び掛かって来たグレイウルフを鼻先で見切ったサトウはその首を下から上に斬り上げ──その命を断つ。


(この三人に手の内を見せるのはやめておいた方がいいな)


 サトウは返り血を受けていない事を確認するとブンッと風切り丸を振り血を落とすと、スッと鞘に戻した。


 ジルとクリスは森の中で蜘蛛の呪詛と対峙した時よりもサトウがレベルを上げている事に気が付く。

 あのアサシンギルドの一団との死闘がさらに進化させている。


(……末恐ろしいわね)


 それは強さと言うよりもレベルアップの早さに対してだった。

 

「さて、今日は前庭迷宮ガーデンプレイスを踏破してみようじゃ無いか」


 和かに微笑むサトウを皆がジッと見ている。

 一回の戦闘でサトウはその実力を認めさせる事に成功したのだ。


 ただ、真奈美だけは少し心配気にサトウを見ている。


(森の神殿の最奥部か)


 真奈美もオウングスもエアリスも、皆この森の神殿には深い因縁が有る。


 この世界でも数少ない大魔宮には、多くの人間がそれぞれの目的の為に集まり始めていた。


 森の【翡翠】の争奪戦は始まったばかりである。


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