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第五十五話 契約完了!

第五十五話 契約完了!



「よろしいです。これで商業ギルドへの登録は完了しました。そしてコレは娼館を経営する為の許可証です。契約内容はよくご確認下さい」


 そして書類とカードが二枚手渡される。

 一つは商人カード

 これによりサトウは一定の手数料を払う事により商取引に介入出来る様になった。そして市場などにお店も出せる様になる。その都度一定の手数料を取られる事になるのだが。

 ただ、この時点でのランクは0である。冒険者ギルドとは違い、商取引を積み重ねる事によりランクが上がる商人は当然最初の信用度は0なのだ。

 ここから長い道程が初まる事になる。

 だが、当然商取引は出来る。

 当然全て現金決済が基本になり、あとは才覚次第と言う訳だ。

 

 もう一つは娼館営業カードだ。

 これは権利とも言える物で、コレはもって場所を契約して初めて営業が出来る事になる。

 そして、この森の神殿キャンプにはその為の物件も多数用意してあるのだ。

 さらにその為の奴隷商人も入り込んでいる。


「よし、ゼシカ、行くぞ」


 頭の良いゼシカを秘書代わりに使うサトウは、グレイスと繋がっていると思しき商業ギルドの男と硬い握手を交わし、ニヤリと目線で合図を送りギルドを後にした。


「ゼシカ、内容をよく確認しておいてくれ」

「は、はい、分かりました」


 サトウはその足で奴隷娼館に向かう。

 そこにはグレイス達が居る筈だった。


『兎にも角にもこれで娼館経営は出来る。じゃが本気か?』

 サトウはオウングスの囁きに答える。

『当然だ。オークションに掛けられた戦争奴隷の行方の噂があれば店に人が集まるかもしれんだろ? 当然余計な奴らも集まるだろうがな』

『お主、罠でも張るつもりか?』

『相手も直ぐには手は出せんだろうが、その噂があれば虱潰しになんて事はやらんだろ。まず本部に判断を仰ぐだろうな』

 それで少なくとも時間稼ぎ位にはなる。

 サトウはそう考えていた。

 単に落ち着いて娼館で遊んでみたいのもあるが。

 幸いにもドノヴァンからせしめた資金も潤沢に有る。奴隷娼婦も十人位は買える筈だった。


(その中にあの六人を押し込むのも乙だな。流石にそのまま客を取らせるのはまずいだろうが)


 営業許可に50000G

 奴隷娼婦が10000Gからが相場だった。


 サトウとゼシカはグレイスの待つ奴隷商館に急ぐ。

 早朝とは言え冒険者達が迷宮に向かうべく森の神殿入り口に集まっているのが見える。

 その規模は数百人

 そしてまだまだ増えるだろう。

 そしてその冒険者を相手にする商人も増え続ける筈だ。


(まあ、こんな恐慌状態が一番動き易いんだがな)


 サトウとゼシカは冒険者と商人達の流れに紛れ込み先を急ぐ。


 ここには多くの人間が様々な事情を抱え、それでも全てを飲み込んで犇いている。


♢奴隷商館


 サトウは門番の男に商人ギルドカードと娼館営業カードを見せると奥に案内される。

 一般の奴隷購入とは違い、奴隷娼婦は専用の取り引きとなるのが通例の様だ。


 そこには先に来たセダムが待ち構えている。

「……遅いぞ…」

 ジロリとこちらを睨んで来る。

 その目にあるのは如実な不信感。恐らくグレイスの決断が無ければ殺し合いになってもおかしく無い殺意の篭った視線だが、この男は信頼出来る。

 サトウの判断はそうだ。

 グレイスが命ずるのならば──ではあるが。


「もう話は付けてある」


 歩きながら手渡された資料には十人の名前と金額が記されている。


「一般人が五人、亜人が五人か」


 サトウはゼシカから資金をセダムに渡させる。


「ではこれで支払いを頼む。グレイスは?」


「土地を見に行った。大きめの娼館と言う事だったからな。資金は大丈夫なのか?」


 この場合、建物ごと借り入れる事になるから必要なのは契約料と前払いする家賃となる。

 ここは商業ギルドが管理しているので契約はギルドが行う事になるのだ。


「相場が分からん。だがまだ余裕はあるだろうな」


 サトウは残った資金を全てセダムに渡す様にゼシカに命じた。

 一瞬怪訝な顔をするゼシカ

 それもその筈

 大切な資金を全て預けるなどど有り得ない。

 そんな事は騎士であるゼシカですら分かる理屈だった。

 そしてそれはセダムでも同じ事である。


「……貴様、なんのつもりだ?」


「運営するのに資金が必要だろ? それは当然俺から出すさ。ただ、少し提案があるんだがな」


 それはセダムにとってーーいや、この世界にとっても意外な提案だった。

 再度セダムは怪訝な顔を向ける。


「……貴様…何を考えているんだ?」


「世の中を面白くさ♡」


 そして二人は奴隷達の前に通される。

 そこには如何にも奴隷商人の様な怪しげな、それでも身なりのキチンとした紳士が立っていた。


「これはこれは、本日は当奴隷商館をご利用頂きまことにありがとうごさいます。先だってセダム様が選ばれておりますので、先ずはそのご確認を」


「いや、その必要は無い。セダムが選んだのなら問題は無いだろう」


 そう言ってサトウは奴隷達を一通り見て回る。

 そして金を払うようにセダムに目線を送ると奴隷達に告げる。

 当然その目には怯えと諦めの色が濃く渦巻いいる。目の前の男が自分の運命を握っているのだからそれは無理からぬ事だった。


 そしてサトウはニコリと笑うと


「では、セダム、君が奴隷紋の契約者になってくれ」

「!!! 正気か! 貴様!」

「正気も正気だ。グレイスが仕切るんならセダムが番頭だろ? それなら現場に立つ最高責任者が契約するべきだろ?」


 これは奴隷の所有権を放棄したに等しい。セダムはさらに怪訝な顔を浮かべると

「……本当にそれで良いのか…」


「頼む♡ では奴隷達は暫く預かって貰い、次は場所決めだな」


 そう言ってサトウは部屋を後にする。

 一言だけ

「これからお前達は客を取る事になる。その時に一人辺り報酬を出してやろう。お前達は自分の値段を良く覚えておけよ。倍返しにしたら晴れて自由の身だからな♡」

 キョトンとする奴隷達

 意味の分からないセダム

 一瞬で無表情になる奴隷商人

 その一人一人にゼシカが書類を渡していく。


「我等がマスターはこの様に契約為さるそうです。字の読めない者は覚えなさい。そうで無ければ自らを買い戻す時に困らますよ。そのまま奴隷でいたいのなら構いませんが。なお、奴隷契約終了後、誰かに身請けされるものそのまま娼館に残るのも自由です。ここは大魔宮、多くの冒険者が集まる場所ですから客には困ら無いでしょう」


 そうゼシカは言い残しペコリとお辞儀をするとサッと部屋を後にする。


 二人はグレイスの元に向かう。


 残されたセダムと奴隷商人、さして買われた十人の奴隷達は言葉も無かった。


 そして、奴隷商人がセダムに口を開く


「……何者だ? あの男は?」

「……知らんっ!」


 吐き棄てる様にセダムは言い残し、部屋を後にした。


(やれやれ、おかしな奴が現れたな)


 しかし、これは商売だ。

 奴隷商人はザワつく十人の奴隷達を見て「さあ、支度を整えるぞ」そう言って配下の者を呼び出し湯浴みをさせるのだった。

 引き渡す前に支度をさせるのは慣例だ。


「……さて、あの男に買われて良かったのか悪かったのか」


 ただ、買われた十人の表情は今まで見た事が無い者だった。

 もしもあの男が言った事が本気ならば、もしも一割でも報酬になるのなら五年、いや、早ければ三年もあれば自らを買い戻せるだろう。それほどこの森の神殿は冒険者で溢れており、実入りの多い者もかなり居る。


(本気ならな)


 ただ、この奴隷商人はもしかするとあの男はこれからも良い取り引き相手になるかも知れ無いと予感していた。


 商人の勘


 ただ、今は何の確証も無い。


♢森の神殿キャンプ 繁華街裏通り


 繁華街を一歩裏通りに入ると、そこは娼館が立ち並ぶ通りになる。既に十軒近くが営業をしており、賑いを見せている。

 そこに今か今かと紫の髪を靡かせてグレイスがサトウを待っている。


「……遅いわね!」


 目立つ訳にはいかず、仕方なく建物の陰から通りを伺うグレイスはそれでも待つしか無い。


 エルベの組織を壊滅させられたグレイスには他に手立てが無い。与えられた三つの使命も未だ果たせていない今の状況ではサトウに頼る他ないのだから。


 それが分かっているからこそサトウの提案を受け入れたのだ。


(この私に娼館を経営させるなんて!)


 だがこれでグレイスは再び細やかとは言え拠点を手にする事が出来る。

 直接動かせる手下はほぼ全滅したが、まだ協力者は多い。


 溜息をつきながら通りを伺うグレイスは遠くからヒョコヒョコと歩いてくるふざけだ男を見つける。その後ろには場違いなメイド服に身を包んだ金髪の美少女とセダムが歩いて来る。


「もう、おそいわよ! サトウ!」


「わりぃわりぃ! 契約に手間取ってな」


 そう言ってサトウは懐から取り出しグレイスに見せる。

 それは先程取得した二枚のカード

 グレイスは手に取りそれをじっくりと確かめると

「ふん、一応は準備は出来たみたいね」


 そう言うと「こっちよ」とサトウ達を案内する。

 裏通りを少し進むと、奥まった所に大き目の建物が見える。管理は行き届いているらしく特に傷んだ箇所は見受けられない。


「ここは最近まで営業してたんだけど、稼いだ資金を元に王都に店を構え直すそうよ。だから居抜きでそのまま営業出来るわ」


「ふむ、中々に理想的だな」


 サトウとゼシカは中に入り間取りなどを確認していく。一階は酒場の様な作りになっていて、二階に個室が幾つもある。

 元は宿屋だったらしい。

 余剰スペースも申し分ない広さを確保出来そうだ。


「よし、ここを拠点にしよう」


 サトウはグレイスに言う。


「分かったわ。では契約をするのにもう一度商業ギルドに行って貰うわよ。サトウで無ければ契約は出来ないから」


 そう、グレイスとセダムは元は冒険者である。その時組んでいたメンバーがさらに上を目指す為にある組織に雇われた事が始まりだった。

 しかし、その一人であってドノヴァンは行方不明となっている。先にサトウ仕掛けたのはドノヴァンであるし、グレイスを欺く様な行為に及んだのもドノヴァンだ。そしてそれを食い止めたのは紛れも無くサトウである。


 グレイスは複雑な想いで目の前のサトウを見ていた。


 その数十分後


 契約を終えたサトウとグレイスが戻って来た時、ゼシカから改めて経営方針を書いた紙を渡され、当然の様にグレイスの怒りの声が響きわたり、セダムからさらに補足説明を受け、やっと怒りの感情を抑え込む事が出来た。


「……サトウ、本気なの……」


「ああっ、もう奴隷達にも約束したからな。よろしく頼むよ。あと残った利益は折半でよろしく!」


 気が付けば資金は全てサトウからの持ち出しだ。恐らく出処はドノヴァンの裏金だろうと推測は出来るが、それを知った所でどうにもなら無い。


 諦めるかのようにグレイスとセダムは準備を始めるのだった。


 この後、サトウは下働きをする子供を五人雇い入れる様にセダムに命じ、それをグレイスとセダムは了承する。


 そしてその日の夕刻には真奈美の従者である残りの四人と姫騎士エアリスがゼシカに連れられやって来た。


 その時


 サトウの姿は娼館には無い。


 サトウは森の神殿の中に居た。


 皆それを知ってはいるが口には出さない。


 そしてグレイスが集まった全員に命じる。


「じゃあ、ここを使える様にするわよ! 営業開始は明後日の夜! さあ、忙しくなるからね!」


 そう言ってグレイスはセダムと共に皆に大掃除に取り掛からせる。


 忙しい日々が始まった。


 奴隷達は別にして


 グレイスとセダムだけはやりきれない思いが渦巻いているのだが、それを二人が口にする事は無かった。


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