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第五十三話 娼館経営始めます!

第五十三話 娼館経営始めます!


☆森の神殿キャンプ


 潜入に成功したサトウ達は予定通りに二手に分かれて行動し始めていた。


 ジルとクリス、真奈美はアルマを警戒用と連絡用に付けて組織から派遣されている筈の三人と合流する為に冒険者達の中に紛れ込んで行く。

 真奈美は元はサトウと同じ一般市民なのでその意味でのオーラは全く無く、追跡者も第一位の姫巫女だと言う先入観を持ってしまうと発見な困難だった。


 そして

 サトウ達は商業ギルドに向かう。

 娼館経営の許可を取る為には商業ギルドに登録する必要があるのだ。

 当然そこら辺を詳しく知る者は居ない。

 ただ、全員を奴隷登録しているので、オウングス曰く「何とかなるじゃろう」となった。

 不安気な六人の女達を尻目にサトウは初めてみる迷宮キャンプに興奮している。

 エルベとは違う猥雑で淫猥な雰囲気はサトウの心を惹きつけた。


(あ〜あ、このままここで暮らしてぇ)


 コレは紛れも無い本音である。


 決してサトウはしたくてやっている訳では無い。何故か展開がそうなるのだ。

 出たとこ勝負では無い。

 出てみてら何時も勝負に成っているだけなのだ。


 それも嫌いでは無いが。

 それを気にしている訳では無いが


 そう、【災厄の渦】を所持している所為かどうかは分からないが、サトウは騒々しのが大好きで混乱した状況になればなるほど闘志が燃えるタイプだった。

 だからこれ程追い込まれても全くストレスを感じる事は無い。

 胆力──と言うより性分だろう。


 真奈美がこれ程の事態にサトウを巻き込んでも平然としているのは、その性分をよく理解しているからでもある。

 そう、サトウはこの状況に興奮し愉しんでいる。


 サトウは普通では無い。

 どうせ言っても分からない。

 サトウには一般論は通じないのだから。

 サトウは気配りや優しさがある筈なのに恐ろしいまでに自分本意なのだ。周囲の状況などお構い無し、空気を読む事など一切しない。


 サトウの周りに居た女達は皆が皆、それを受け入れた者達だった。


 特に最後に残った七人は

 ある意味

 真奈美ですら異常だと思っていたのだから。


 そのサトウは本当に娼婦として客を取らされると覚悟を決めている六人を引き連れ、キャンプの中を楽し気に見ながら商業ギルドに辿り着く。


「……ここか」


『そう、ここがヴァンデミオン商会が率いる商業ギルドじゃな』


 影の中からオウングスが囁いて来る。


(ヴァンデミオン……言霊を感じるな)


 入り口には門番が二人立っていた。

 サトウは声を掛ける。


「やぁ、娼館を出したいんだが、ここで良いんだろ?」


 門番はサトウ達一行をジッと観察し始める。


(ふむ、教育は行き届いていそうだな)


「……そうだ。ここで登録が必要だが、初めて商業ギルドに登録するのか?」


「ああ、少し泡銭が入ってね〜、このキャンプに人が集まってると聞いたから挑戦しに来たんだよ」


 門番はニヤリと笑い


「そうだ、このキャンプは活況だからな。目の付け所は悪く無い。ただ、今日だけで二軒の娼館が営業許可を取りに来ているからな。負けるなよ」


「分かった! 健闘させて貰うよ」


 門番はその扉を開いた。


 サトウはサッと手を振り六人の奴隷達を引き連れギルドの扉を開く。その奥には違う意味で手強い奴等が犇いている。

 そこは駆け引きと情報収集能力、そして天に愛された運の持ち主達が凌ぎを削る場所だ。

 そして、それはサトウが元々闘っていた場所に酷似している。


 それがこの世界における商業ギルドの持つ意味だ。そして冒険者ギルドに並ぶ民間組織でもある。


(何故か剣技LV3に引っかかるんだよ? どういう事だ)


 カランと扉を開ける。


 そこには少し毛色の違う奴等が集まっていた。



 室内は外の喧騒が嘘のように落ち着いた雰囲気だった。


(まるで役場にでも来た様だな)


 身なりの良さそうな男達が忙しそうに何やら取引をしている。


 内部は様々な受付と商談用と思われる衝立で仕切られた椅子と机のセットが十箇所、そして奥にはパブの様なスペースがありお茶を飲んでいる者が結構いる。


 繁々と観察しているサトウに執事の様な男が声を掛けて来た。


「今日は当商会にどの様なご用件でしょうか」


 その物腰は柔らかいが低く通る良い声をしている。

 どうやら警護を兼ねている様だった。かなり腕も立ちそうだ。


 サトウはニコリと笑う。


「ええ、このキャンプで娼館を経営したくて思い、営業許可を取得しに参りました。宜しければ手続きの仕方をお教え願いたい」


 すると、男はペコリと頭を下げると


「畏まりました。ではこちらのお席にどうぞ」


 そう言って商談の席に案内してくる。


「奴隷達はこのままでも?」


「ではあちらに控えの間を用意させましょう」


「お任せします」

『本気か! 幾ら手枷足枷がダミーとは言えなんと短慮な!』

『よい、オウングス、いざとなったらお前が護ってやれ』

『くっ! 知らんぞ!』

 オウングスは慌てて五人の護りに付く。


 一人護衛兼金髪ご奉仕メイドゼシカを残して──


「……こちらの方は?」


 (当然そう来るよな)


「この者は護衛兼メイドです。お気遣い無く。秘書でもありますので(嘘だけど。頭は良いから出来るか?)」


 さようですかと席に案内され、説明がはじまった。


「サトウ様は初めての登録ですな」


「そうです。商売そのものも初めてですね」


「なるほど、では商業ギルドへの登録から始めさせていただきましょう」


 この世界には住民台帳があるのはあるが、当然抜けも多い。

 出身よりも重要なのは何処に住んでいるかなのだが、商業ギルドが重視するのは其処では無かった。

 一番重要なのは


「商業ギルドでの最も重要な点は、そこに所属した者は必ず商業ギルドの標榜する商業規則を守るという事です。貴方が何者であろうとも、例え貴族であろうとも蛮族であろうとも亜人獣人関係無くその一点なのです」


「商業規則……ですね?」


 流石に国家を股にかける商業ギルドだった。


(つまり商業ギルドにとって世界は一つ、そして一つの商業規則が支配しているという事か)


 この世界では貿易も殆どが豪商と呼ばれる商人か行うのが慣例となっている。

 つまり物流を支配していると言う事でもある。


(そして情報網も発達している筈だ)


 この世界でも最も利益を得るのは戦争消費だった。

 しかし全面戦争では損害が大きい。あくまでも領土を巡る小競り合いが望ましいのだ。

 その点において、商業ギルドは裏から手を回しているとの黒い噂が絶えない。それは国王の率いる国家ですら迂闊に触れる事の出来ない部分でもある。


「一つは統一通貨、一つは信用取引、一つは商業規約、この三つです」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 商業規則


・統一通貨


 これは普通に流通している金貨、銀貨、銅貨の事では無い。

 交換レートは金貨一枚が銀貨百枚、銀貨一枚が銅貨百枚が基準となっているが、商業ギルドが管理しているのは宝貨ジュエルと呼ばれる物だ。

 特別に造られた宝石に儀式魔術により暗号呪紋を組み込み、それを読み取る事により偽造防止を可能にした物である。


 日本円の価値に直すと


・赤宝貨 100万円

・橙宝貨 200万円

・黄宝貨 300万円

・緑宝貨 500万円

・青宝貨 1000万円

・紫宝貨 5000万円

・白宝貨 10000万円

・黒宝貨 ?????


 これらは国家間の大規模取引にそれぞれの商業ギルド間で行う為の物である。

 稀に迷宮の宝箱の中から見つかる事もある。


・信用取引


 これは契約、誓約などの様に、物ではない部分を含む取引に使われる。

 奴隷契約、土地の賃貸、売買、保険、借入金、それらを魔法を利用して管理する為の取引である。大規模な傭兵契約などもこれにあたるが、全ての契約を商業ギルドが管理している訳では無い。この世界の取引のおよそ三分の一が商業ギルドの管理下にあると言われている。

 その都度精製されるカードによって管理され、世界に広がる商業ギルドネットワークで一元化されている。

 


・商業規約


 これは様々な商習慣を管理している。

 たとえば小麦一袋の重さ、品質と値段の相関関係、ありとあらゆる物、例えばワインやビールひと樽の量まで明確に基準化されており、これによって遠い異国の地であれども安心して商品のやりとりが出来る。

 恐ろしいのはその国家間貿易にある。

 平行価格概念により、発展途上国であろうとも品質により値段が付けられるせいで、極端な市場破壊が起こらない。そしてそれを商業ギルドのバイヤー達が世界中に飛び回り生産調整を行うせいで、極端な飢饉が起こりにくくなっている。

 迷宮や辺境の管理を行う冒険者ギルドと同じく、商業ギルドもこの世界における一翼を担っている所為で、簡単に国家の権力支配を受けない組織として成立させていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 その説明はおよそ一時間に及んだ。


 悶絶するサトウ


(異世界半端無い)


「ではこれより娼館の営業許可に関して説明させていただきます」

「!!! ……は、はい」

『主様! 気をしっかり持て! きっとこれは嫌がらせじゃぞ!』

『やっぱりそう思うか……』


 そう、本来なら書類を渡して検討して来いで済みかねない話では有る。

 相手は巨大組織なのだ。

 今さらサトウ一人の娼館営業許可など瑣末な話なのだが


 たが、事実はもう少し複雑である。

 なんと、この男はグレイスの協力者だった。


 そして情報をキチンと得た上でサトウを待っていたのだ。

 偶然では無い。


 その男はニヤニヤと笑い、嬉しそうに書類の束を手渡し来る。

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