第四十九話 五人の従者 五人目 ④
第四十九話 五人の従者 五人目 ④
☆
サトウと対峙する三人の神殿騎士
その一人一人が高い魔力を持ち、マジックアイテムを装備している。
正攻法ならアサシン達よりも手強い相手なのは間違い無い。
「ふんっ! 厄介な相手だな」
三人のリーダー格、神殿騎士長であり魔法剣の使い手でもあるルドルフは目の前の怪し気な双剣使いの実力を読み取っていた。
(恐らく味方が大魔術を連発しながら、自らはレジストする方法を編み出しているんだな)
初めて見る戦法を冷静に分析しつつ、どうやって任務を遂行するかを考えていた。
「ルドルフ隊長、あの剣技に対抗出来るのはどうやら貴方だけのようです。既に残りはこの三人のみ、どうされますか?」
回復魔法を唱えていた男も帯剣しており、決して僧侶と言う訳では無い。スキル単位で習得していく神殿騎士独特のジョブ特性こそが最大の強みでもある。
「エリオット、生き残りは!」
ルドルフは目の前の双剣使いを視線で牽制しながら正確に状況を判断しようとしていた。
「どこをどう探してもこの三人だけです」
攻撃魔法を放ったシムスは周囲を見渡し、諦めたかの様に言った。
何故ならそれでも簡単に任務を放棄など出来無いからだ。
それは神殿騎士として当然の事でもある。
(刺し違えてもなんて訳にはいきそうも無いな)
目の前の男はそんな甘い男では無い。怪し気な闇術を操り、大魔術を使う仲間を率い、凄まじい双剣を使いこなす。
ルドルフも国では知られた男ではあるが、勝てる気はしない。そしてまんまと逃げ果せられてしまった。馬をなくしたこの状態ではもはや追跡は不可能だった。
しかも目の前の男は全くの無関係な介入者でしか無い。
(そこが一番厄介なんだよな)
そして一番問題なのはこのまま自らの身分がこの国に知れる事なのだ。
思案するルドルフと同じく、エリオットとシムスも同じ考えである。出来れば離脱してもう一度追跡に移りたい所てもはあるが、目の前の男はそれを許す気配は無い。
「来るぞ!」
双剣使いは再度その牙を三人に剥き始める。
(やれやれ、今度は生きて帰れそうには無いな)
それでもなお三人は剣を抜き戦い始めた。
♢
「はぁああああっ!」
一気に間合いを詰めたサトウはその斬撃をルドルフに叩き込んだ。
「はえええっ!」
驚くルドル尻目にサトウは連続して風切り丸と死蝶短剣を放つ。
驚くルドルフは辛うじて盾で食い止める。恐ろしく一撃一撃が重い。
(こんなの人間じゃねぇな)
完全武装の騎士を双剣使いが圧倒するなどこの世界では本来有り得ない。それほどサトウの剣技はレベルを遥かに超えて優秀だった。
(空蝉におかしな魔術を使いやがって! こんな奴が辺境にいるなんてどうなってるんだ)
「[ファイアーボール]! 隊長! ぼうっとしてる場合じゃ無いですよ! 全滅したら任務も糞も無いんですからね!」
シムスの放った火球がサトウを襲うが──全く捉える事が出来無い。恐るべき反応速度が掠ることすら許さない。
(ダメですね、当てられる気がしません)
剣技LV3と身体能力強化LV3の組み合わせによる相乗効果で、並みの人間ではサトウと打ち合う事はもはや不可能だった。
三人掛かりで牽制してようやく致命傷を避けられる程度でしかない。
いや、ルドルフはサトウですら吹き飛ばされていた死蝶短剣の剣戟を、少なくとも盾で凌げるのだから決して弱い訳では無い。
しかし──それだけでしか無い。
そして膠着状態か続き、時間だけが過ぎていたその時、突然呪文が詠唱されたのを三人が捉えた。
「「「!!!!!」」」
「[ストーンクラック]!」
三人がその魔力を察知したその時、唐突に空中から巨岩が飛来する。
それはサトウと三人の間を塞ぐ様に降り注ぐ。
「ちぃっ!」
地系魔法はレジストしても物理干渉が残る所為で如何しても躱さなければなら無い。三人は必死で回避を繰り返す。
その時、視界の端に移ったサトウはニヤリと笑ったかと思うと、再びその姿を森の中に消す。
そして、再びルドルフ達がサトウに目を向けた時には、影も形も無くなっていたのだった。
「……見逃されたのか?」
馬をやられ、追跡する術を無くした三人はジッと森の中を見つめている。だが、このまま立ち尽くしている訳にはいかないのだ。
まだ、任務は終わってはいない。
「ルドルフ隊長、ここは一旦引きましょう。あの男の目的は掴めませんが、このままにはしておけません」
「ですね、本隊に合流し直しましょう」
ルドルフは溜息を吐くと森の中を歩いて戻り始めるのだった。
「仕方ないな、姫騎士の足取りを掴んだのは俺達だけの筈だ。ここで終わらせる訳にはいかん」
三人は森の中の古い道をエルベに向かって歩き出す。
しかし
その時オンウングスの放った影が追跡し始めた事に三人は気が付いていなかった。
影術の情報戦能力は数ある魔法スキルの中でも最上位の運用能力を誇る。
アサシンギルドや聖女達がその手に収めたがったのはその所為でもあるのだが、今は最悪の男の手にあった。
♢
森の中からサトウ達は三人の様子を探っていた。
「やれやれ、奴等ようやく諦めよったな」
「これで狙いがハッキリするだろうからな。おかけであの女騎士に集中出来るよね」
「……本当にあの女騎士を捕捉するつもりなのですか?」
「当然だ!」
「……じゃろうな」
呆れるオウングスだが、女騎士は予測通り馬が走れ無くなり立ち往生している様だった。
「お主の言う通り、森の中を馬を捨てて歩き初めておる。あと暫くすればジルとクリスの元に辿り着く事になろうて」
「ふむ、予定通りか。素晴らしい言葉だな。ではあそこの神殿騎士達の遺体を丁重に弔ってやろうではないか」
「……正気か…お主…身ぐるみはごうと言うのか?」
「……そ、それは命令ですか?」
ゼシカとオウングスはドン引きしている様だったが、これも作戦だという事にしておこうとサトウは思った。
「急ごう、ジルとクリスだけでは止めきれんかも知れんからな」
サトウは三人が遠く離れたのを確認し、そっと遺体のある場所に戻って行く。
(……女騎士か…何をやらかしているのやら)
この時、ゼシカはすっかりこの後の展開を忘れていたが、そうは問屋が卸さなかった。
この直後──何故かメイド服を手渡されたゼシカは、あろう事か──いや、それはさておき、その後、誰も口にする訳では無いが「ご奉仕ゼシカ」は定番となり、その後幾度も皆に目撃される事になったと言う。
ただ、何人かはその後メイド服にいたく興味を持っていた事は間違い無い。
(金髪ご奉仕メイドゼシカ……是非髪を伸ばさせてツインテールだな)
こうやって新たなる騒動の火種を残しつつ五人の従者の面談は終わった。筈だったのだが──恐るべきはサトウの執着心のなせる技、と言う事なのだろうか。話しはコレだけでは終わらなかった。
だが、何れにせよ明日にはサトウ達は森の神殿に辿り着く事になる。
それとは知らずグレイスの配下が今や遅しと首を長くして待っていた。
既に多くの冒険者達が森の神殿に入り込み半ば恐慌状態となっている。つまり、冒険者ギルド的に最悪のタイミングで災いの種が飛び込んでくる事になるのだ。




