第四十八話 五人の従者 五人目 ③
第四十八話 五人の従者 五人目 ③
☆
サトウの放った分身が一斉に斬りかかって行く。
本来ならサトウも同時に動き出し陽動に紛れ込むのが定石なのだが、一步も動かずそのまま斬りかかってくる神殿騎士を鎧ごと両断する。
(ふむ、やはり断ち切れたか)
サトウはそのまま再度分身を放ち、今度は一斉に襲い掛かる。
神殿騎士が大剣を振るいサトウを両断しようとするのを鼻先で見切り、そのまま『サイコブラスト]を放ち牽制すると、そのまま風切り丸から風斬を放つ。
咄嗟に大剣で防ごうと身構えるその直上から《ドズンッ!》と[サイコブロウ]を叩き込み、その動きを止めると死蝶短剣を横薙ぎにして吹き飛ばす。
10m近く吹き飛んだ神殿騎士はピクリともし無い。
(やはりこの死蝶短剣には加重か何かが付与されているな)
そこへ再びゼシカが第五位階の火系魔法を放った。
「[クリムゾンフレア]!」
それをタイミングを見計らってオウングスが闇羽根と闇撫手を展開し結界を創り出す。
いや、正確にはオウングスが放つタイミングを指示しているのだが、少なくとも、この場所にそれに気が付く者など居ない。
神殿騎士とサトウを巻き込む魔法を連発され、味方を巻き添えにするその有り得ない戦術に完全に防戦一方になっていた。
さらに、迂闊に隙をつくるとサトウの刃が襲い掛かって来る所為で、神殿騎士達は遠距離から魔法を放って来るゼシカを捕捉する事すら出来ずにいた。
(ふむ、これだけ大魔術を喰らって全滅しないなんて、流石は神殿騎士と言う事か)
しかし、盾と鎧に護られている神殿騎士達は呆れる程にタフだが、それでも何時までもは耐え切れ無い。
ここで釘付けにさえしていれば、連発される大魔術で何れ力尽きるだろうが、それを待つサトウでは無かった。
大魔導士の放つ第五位階の攻撃魔法には即死効果も付与されている筈なのだが、未だその気配すら無い。
恐らくは何らかの護符の効果だろうと思われるが、それを無効化する方法は今のサトウには無い。
しかし、神殿騎士達もこのまま引き下がるつもりは無い様だった。
(中々に諦めの悪い奴等だな。いや、それが騎士と言う者なのか?)
有り得無い接近戦を繰り広げながら魔法を放つサトウは風切り丸と死蝶短剣の魔力付与効果により、ウォーリア並みのハードヒットとノックバックを連発しながら、ゆっくりと、それでも確実に一人また一人と神殿騎士を屠って行く。
サトウは分身を一旦戻し、残った神殿騎士を確認すると、ゼシカを呼び寄せ遠距離からでは無くツーマンセルでの戦闘を行う様に指示を出す。
その隙を神殿騎士の一人が逃すまいと剣を振り下ろすが──それは《ボフンッ!》と消える。
「空蝉か!」
「へぇ! 知ってはいるんだな!」
「!!! な、何!」
「遅い!」
振り下ろされた刃が《ギンッ!》と言う音と共に跳ね返された。
「!!!!!」
連続して放たれたゼシカの大魔術のダメージから回復したのか、大型盾で防ぐと反撃に出る。
長剣を横薙ぎにしてサトウに距離を取らせると後ろから魔法が放たれた。
「[ウインドショット]!」
風系攻撃魔法である風弾を後ろも見ずに躱すとサトウは「[ハーム]!」を唱え《メキッ》と鎧ごと捻り潰す。本来なら超能力LV3にそこまでの破壊力は無い筈なのだが、死蝶短剣には魔力を増す効果も有り、その所為で超能力LV4に匹敵する威力を産み出している。
(それでも即死は無いか)
しかしワザと止めを刺さず、サトウは隠密と忍足を発動し、その姿を消すと次の神殿騎士に襲い掛かって行く。
森の中に二本の光の軌跡が煌めくと《ギッギンッ!》と連続した剣戟が鳴り響きまた鎧ごと両断される。ドサリと崩れ落ちる肉塊を躱し、次の獲物を狙おうと移動しようとしたサトウに魔力のこもった殺気が襲いかかる。
「[炎熱爆裂斬]!」
「!!!(魔法剣! しかも範囲攻撃か!)」
咄嗟に身を躱すと《ドスンッ!》と言う爆発音と共に眩い光が放たれる。
そして一気に斬りかかって来るその剣速は今迄には無い鋭いものだった。
(普通の神殿騎士では無いな! 神殿騎士長か⁉︎)
「ふんっ! 俺の魔法剣を躱すとはな」
苦々しい顔をしてその神殿騎士長は吐き棄てる様に呟く。
その手に持たれた騎士剣は間違い無く魔力を帯びている。
(恐らくは魔力を帯びた剣…それで無詠唱で放てるのか?)
そしてその後方
残り少ない神殿騎士の中には回復魔法を使いこなす者もいた。
「[ヒールⅡ]! その者は人間とは思えません。貴方で無ければ相手取れませんよ」
「[ファイアブラスト]!」
そして炎熱系範囲攻撃魔法がサトウに向け放たれる。
咄嗟に身を翻し、さらにオウングスの闇羽根がその光の屹立を反らすがその余波で霧の様に崩壊していく。
『いかん! 妾の闇魔術とは一番相性の悪い系統を使いこなしおる! 炎熱系のしかも魔法剣を習得しておるなら、奴等は十字軍の可能性があるぞ!』
『なんだそれ?』
『!!! し、知らんのか!』
『知らん(自信満々にな!)!』
『!!!(いや…それがサトウか)』
呆然となるオウングスだが、流石にそこまて時間を与えるつもりは無い様だった。
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ユグドラシル宗教論
この世界には幾つかの宗教が発展しているが、それは地球の物とは大きく異なる。剣と魔法に支配されるこの世界では信仰としての宗教だけでは無い。
それは力の顕現でもあるのだ。
それは大きく四つに分かれる。
一つ目
【密教】と呼ばれる最も古くからある宗派で、世界各地にその名残があるが、殆どが表立っては駆逐されており、国家形成されてい無い辺境にその片鱗を見る事が出来る。
邪教とも呼ばれ、不思議な魔術を使うと恐れられている。
だが、実際には司祭と呼ばれる自然崇拝を根幹とした物が殆どだったが、後発の宗教が支配地域を増やす過程で難癖を付け改宗を迫る方便だった。
二つ目
【旧教】と呼ばれるこの世界の創世の女神を信望する宗派。
元々は密教の一つとしてそれなりに幾つかの国で栄えてはいたのだが、古い遺跡が発見され(森の神殿もその一つ)、そこからかなりの数の聖遺物が見つかり、世界最終戦争において、本当に女神達の力を受け継いだ末裔達が、その超常の力を用いて魔王を封印した痕跡を見つけ出した事により、一気に勢力圏を増やした。
しかし新しく起きた新教と呼ばれる宗派との宗教戦争に敗れ、その失われた版図を取り戻す戦いを十字戦争と呼ぶ。
十字とは地、水、火、風の四方神と呼ばれるこの世界を創り出した柱神からとられている。よって紋章は縦十字では無く斜十字が使われている。
神殿騎士はそこに仕える騎士の事であり、十字軍とはその中でも最も過激な実働部隊の事なのだ。
神殿派と呼ばれるこの世界でも最大の権力構造の一つ
四方神を信望する一派もあるが、現在は大同団結して新教との対決姿勢を取っている。
三つ目
【新教】と呼ばれる光と闇の二元論を元にした宗教で、教皇と呼ばれる教会の長がその実権を握っている。
元々はこれも密教の一宗派だったが、支配地域を増やそうとする神殿派国家との対抗措置の為に、徐々に合従連衡を繰り返し、現在では単一宗派としてはこの世界最大の規模を誇る。
特徴は政治と深く結びついている事で、その点において神殿派を凌駕している。中でも最大のロンバルディア教国では実に十五の騎士団を擁しており、国王は教皇の任命を受けて戴冠する。
日本における天皇と将軍の関係に近い部分も幾つか見受けられる。
教会にあざなす宗教や組織を壊滅させるべく編成されたのが異端審問官と呼ばれる集団で、流石に異世界だけであり、魔女裁判こそ行われ無かったが現実の闘争としてその力を遺憾無く発揮している。
教会派と呼ばれるこの組織にはもう一つ、聖女と呼ばれる存在もあり、一つの宗派として確立していると言われている。
女神では無く救世主が世界を救い、未来においても光と闇の闘争において世界を救うのは聖女が産み出した救世主だと信じられている。
四つ目
最も最後に現れたとされる一派
【無教】、もしくは【八百万教】と呼ばれる。
日本の仏教に近い位置付けであり、特定の主神を崇める事は無い。
元々は国家が巨大化していく過程で発生したギルドと呼ばれる特定の職人達の組織が、その規模を拡大して行く中で自然発生的に生まれたと言われている。
その最大の組織が冒険者ギルドと商業ギルドである。そこには多くの富が集まり、資金力では最強だと言われている。
自主商工都市国家群を形成し、基本的に中立を貫くのが基本方針なので表立っては軍事力を持たず、市民兵と傭兵が主体となっている。
ただ、最も新しい組織でありながら、元になる幾つかの古い組織はその存在すらろくに確認されていない物も多く、謎の多い組織でもある。
中立派と呼ばれるその組織はその実態の分からぬ国家を超えた超国家組織だと言われている。
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『オウングス、ゼシカを隠れさせろ。止めをやらせる。先ずは残った奴等を少し黙らせるぞ』
『気をつけろ! 神殿騎士は手強いぞ!』
そう言ってオウングスは再び闇術による結界を展開し、サトウを守護し始めた。
ゼシカの接近をとどめ、サトウは一人、神殿騎士に対峙する。
だがその目は今迄にない爛々とした輝きに満ちていた。
生き残った神殿騎士は三人だけ──いや、三人も残っている。そして逃げ出す者など一人もいない。
サトウは「それが騎士か」と一言呟き、再び襲い掛かって行った。




