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第四十話 遠い想い

第四十話 遠い想い


☆オウエン大森林


 多くの冒険者達が森の神殿に向かって街道を進む中、サトウとその一行は森の中を進んでいた。

 だがエルベの街を出てから半日、殆どモンスターと遭遇する事は無く、平穏な旅が続いている。

 一応、オウングスの索敵能力によって近ずく事すら許さない鉄壁の布陣により、追跡してくる可能性のあったアサシンギルドの補足を狙っていたが、未だ接触は無い。


「……その気配は無いな」

『最後に残った棟梁は報告もせねばならんからの。一端組織に戻ったと考えるほうが合理的じゃろうな』

「まさか責任を取って始末されたりはしないよな?」

『可能性はあろうな。しかも、あやつ第五位と言うておったろ?』

「……あいつよりも強い奴か」


 サトウは何度もあの戦いを振り返っていた。しかしどうやってもあの守護天使を突破出来る方法が想いつかないのだ。無敵チートでは無いにしても、あの守護天使は反則的なのは間違いない。サトウには対抗手段が無かった。

 今の所【魂の器5/100】の足枷により満足なレベルアップが見込め無いままでは、早晩手詰まりになるのは目に見えている。

 勇者と魔王もどきとの遭遇もいつ起こるか分からないのだ。

(流石にまずいな)

 自分一人だけならどうとでもなるが、これだけ引き連れていてはまともに逃げる事は出来ないだろう。サトウは珍しく想い悩んでいた。


(あの佐藤が珍しく考え込んでます。何故だか嫌な予感しかしませんね)


 アムルにしても何らかの方策を考え出さねばならい。このまま【魂の5/100】では満足なフォローすら叶わないのだから。


(参りました。何処にも【魂の欠片】どころか【魂の雫】すら無いとは)


「[タイムアウト]」

『……了解です…』


 二人は再び虚空に跳んだ。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


♦︎魂の器


「さて、どうするかね」

 サトウはスキルを確認する。


∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


・剣術LV3

・投擲術LV3

・身体能力強化LV3

・魔力量増加LV3

・魔力回復量増加LV3

・超能力LV3

・時空魔術LV3

・風水術LV3


・保留1


∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


「取り敢えず獲れるのは獲ってるが」


『そうですね、あの超絶技巧には驚くばかりです。あの女アサシンだって守護天使さえ付いていなければ一蹴出来そうなんですけどね〜☆』


 そう、剣術と魔術を組み合わせた超近接剣魔複合戦法はサトウの狙い通りなのだ。瞬間最大火力こそ低いものの、分身の術と組み合わせる事によりほぼ無敵に近いと自信はあるがーー


『どうしても仲間を助ける事が出来ないんですよね』


 その通りだった。

 一騎打ちなら問題は無いだろうが、この大所帯ではどんな不測の事態が起こるか分から無い。

 そして本国から見捨てられた真奈美達には、帰る所は最早この世界の何処にも無いのだ。

(流石にまた見捨てるのは心苦しいな)


『取り敢えずなるべく早く森の神殿に辿り付き、【翡翠】を奪取しましょう。あそこは冒険者ギルドの管理下なので、アサシンギルドの追っ手をある程度牽制は出来る筈ですから。その後、ジルとクリスの領主の秘密を暴き出してから、一旦消えるのが得策です。このまま無防備にアサシンギルドと敵対するのはやめておいた方が良いでしょうね』

「だよなあ〜」


 答えが今は出なくても、状況が変われば打つ手も出てくるものだ。そうサトウは考えていた。これは経験から得たサトウなりの処世術である。


 そしてサトウはスキルリストから、保留してある最後の一つをどれにするか思案していた。

(仙術か妖術か……どちらも取るつもりだが、どちらからが良いのか)

 この二つには共通点も多い。

 それは回復能力を持つ所と、自分の能力に付与効果を与えるモノが多いと言う事である。


「……まだ保留だな。森の神殿をどう攻略するかによってどちらを取るか決めよう」

『意外と慎重なんですね』

「心外だな」

『それで、オウングスに聞きたい事があるんではないですか?』

「……そうなんだよな。あいつ物知りっぽいよな」

『特に森の神殿の事を知ってそうですよね』

 サトウはニヤリと笑う。

 それは何処か確信めいた不敵な笑みだった。

「俺もそう思うよ」

『でしょう?』

「なあ、オウングス、そう思うだろ?」

 サトウがそう言うと、スルリと影の中からオウングスが現れる。

「ふんっ! どうせ勘何じゃろうがの」

 不貞腐れ気味のオウングスだが、どうせ何らかの理由があるのは間違いない。

「そもそも、お前の能力ならアサシンギルドなんか目じゃ無いだろうが」

 それはその通り

 影、闇、霧の三系統を自在に操り、それ以外にもチート能力を多数保有しているオウングスは、少なくとも人間に捕らえられるものではない。

「用があるんだろ? 森の神殿にーーいや【翡翠ヒスイ】に」


 そしてオウングスはその重たい口を開く「他言無用じゃぞ」それはオウングス本人の秘密にも関わる事でもある。



 そして


 その密談は小一時間ほど続き、サトウは一頻り悩んだ後「[ログアウト]」して行った。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



 [ログアウト]して来たサトウは周囲を見渡し、ロケイトとサーチを使い索敵を行う。

 念には念、サトウはオウングスが偵察をしているのを確認した上で、さらなる索敵行動に入った。

 そして丹念に地図を確認すると、アムルを森の神殿に向けて放つ。

「アムル、森の神殿に設営されているキャンプの動向を探って来てくれ。新たに入り込んだ冒険者を調べておいて欲しい。もしもアサシンギルドからの刺客が紛れ込むならその中に居る可能性が高いからな」

『分かりました。【魂の器5/100】の回収がてら行ってきますね☆』

「頼む。後、気になるのは冒険者ギルドがどんな管理下に置いているかだ。併せてそちらも」

『了解! ご期待に添えられるように頑張ります☆ では明後日には合流しま〜す』


 そう言ってアムルは〈ヒュン〉と森の神殿に飛んで行った。サトウは先ず情報戦を仕掛ける事により優位に立とうとしているのだ。

 続けて周囲に放ったオウングスの影にはつぶさにモンスターの確認を行わせ、訓練がてら戦闘を行わせる事にした。

 姫巫女である真奈美は別にして、従者である五人の能力はまだ未知数である。森の神殿に突入する迄に確認を済ませておかねばなら無い。

「色々と面談が必要だな」

『何の面談をするつもりなのかの。ほれ、影がモンスターを見つけおったわい。どうする? キャンプに入る前に狩りつくしておくんじゃろ?』

 エルベを離れて一日近く歩き、ようやくモンスターを見つけた。流石に冒険者の街の近くは狩り尽くされていたようだが、この辺りは街道からも外れており生き残っていたようだ。

 日暮れまであと三時間、周囲の殲滅を行うには良いタイミングだろう。


「で、何処にいるんだ?」

『前方の森の中、三キロ程にオーク、右の草原にはグレイウルフの群れ、その奥の森の小高い丘の上にはハーピィが集まっておるようじゃ。この辺りではその位じゃな。まあ、エルベの冒険者は真面目に仕事をこなしておるようじゃの』


 この辺りが日帰りで討伐に来れる限界らしく、狩り残されたモンスターがチラホラと現れはじめる。街道からズレればなおさらだ。


「ジル、クリス、このまま三時間すすみ、今日はキャンプに入る。日暮れ迄に良さそうな場所を探しておいてくれ」

「良いけど、サトウはどうするの?」

「そうだよ、アイテムボックス持ちはサトウだけだからね」

「心配するな、それ迄には帰って来る。なに、五人の従者の腕前拝見だ。少し周囲のモンスターを狩りに行って来る」

 二人は納得しつつも「本当に狩りだけなのかしら」と疑っているが敢えて口には出さなかった。ここ数日で奴隷姉妹はサトウとの関わり方を覚え初めており「考えたら負けだ」と自分に言い聞かせていた。

 ただ、サトウがチラリと振り返り、姫巫女と五人の従者をニヤニヤと眺めているのを見て、胸の奥に不快な感情が渦巻くのを感じていた。

 そしてサトウは二人を強引に抱きすくめると激しく唇を奪う。当然二人は抵抗するが、それは形ばかりのものとなる。奴隷姉妹には拒否する事は出来無いのだから。そしてまるで見せ付ける様に散々身体を弄ばれ、二人の頰にキスをして、サトウはモンスターの殲滅に向かうべく五人の従者に歩み寄る。

 そして二人に振り返り「姫巫女を頼む」そう言い残し、オウングスを姫巫女の護衛に付け、サトウは五人を連れて眼前に広がる森に向かって行った。


「……本当にサトウって好き放題ね」

「……う、うん、そうだね」


 本来なら最低の男であるサトウだが、この異世界の様に生と死が非常に身近になっている場合、その心理状態は単純では無い。現に残された四人はそれでもサトウと一時とは言え離れる事に不安を覚えている。それはあのオウングスといえど同じ事だった。

 そしてサトウは決して乱暴でも傍若無人でも無い。善人でも優しい訳でも無い。何も考えていないのが正しいのかも知れないのだが、この世界でそれは圧倒的な強さの証でもある。

 ジル、クリス、オウングス、それと真奈美は小さくなって行くサトウの後ろ姿をジッと見つめていた。

 心の中に起こった小さな変化は、化学変化と同じく決して無かった事にはならない。そして徐々に積み重なっていく。そしてさらなる変化をもたらしていく。


「変わらないな、佐藤くんは」


 真奈美はそう呟くと、サトウから視線をジルとクリスに戻し、どこか懐かしい目で二人を見ている。そして『私達にもそんな時があったな』と、そんな想いがふと頭の中に浮かんだ。


 あの頃の佐藤を愛した女達の様に


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