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第三十八話 守護する者

第三十八話 守護する者



 サトウが隠密と忍足を使いその姿を消した直後ーー女アサシンとの激しい一騎打ちが始まった。


 先手はサトウ

 無詠唱無挙動で繰り出されたサイコブロウを、まるで予知でもしていたかの様に女アサシンは一歩だけ躱した。当然の様に床が砕け散っても顔色一つ変えず、女アサシンはそのデスバタフライナイフで誰も居ない筈の虚空を斬り裂く。

 その刹那キンッと言う剣戟が響き渡る。

「!!!!!」

 そしてーーサトウはユラリとその姿を現わした。

「……そのナイフの力か…それとも単なる力の差か…」

(ここまで完璧に捉えられるか)


 女アサシンは流石に棟梁らしく、今までの誰よりも手強い。

 しかしーーそれで怯むサトウでは無かった。一気に四体の影分身を繰り出し四方より一斉に斬りつけると、実体の放った破斬を軽く受け切り、そのまま残りの三体をクルリと斬り裂いて霧散させ、サトウを斬りつける!

 一瞬《ギンッ!》と火花が散った直後、今度は吹き飛ばされずに踏み止まったサトウに、ほんの少し反応が遅れた女アサシンは先手を許してしまう。

 サトウはサイコブラストを至近距離から放ち、すかさず[雷遁 飛雷針]を連発した。右に左に有り得ない至近距離からの忍術を躱し続ける!

 その攻勢の最後を女アサシンは見逃さ無かった。すかさずデスバタフライナイフを今度は全力で振り抜く! それをオウングスの影羽根と影手の影術の結界が防ごうと展開するのを

「無駄よ!」

 さっきまでと同じく打ち砕かんとそのまま振り切ろうとしたその時ーーほんの数センチーーナイフの太刀筋がズレる!

「!!!!!」

 その時、影羽根の中から風切り丸が飛び出して来た!

 サトウは時空魔術の一つ[ディストーション(歪空間)]を自らに掛けていた。何度も打ち砕いていた影羽根に油断してそのまま断ち切ろうとしたその心の底を突き、空間を歪曲させる事により刃を合わせる事なく反撃に出たのだ。

 そしてサトウは首を刎ねると見せ掛けて、女アサシンの手首を一閃する。

『何故止めを刺さぬ!』

 驚愕したのはオウングスだった。あれ程実力差を突き付けられながら、この後に及んでまだ手に入れるつもりなのか! 有り得ないサトウの判断に衝撃を受けたのはこの会場に居た全員だった。

 そしてそれはーー女アサシンにとっても同じだった。首を刎ねられる必殺の間合いからのまさかの手首への一撃は、この生死を掛け凌ぎを削る場において有り得ない、理解出来ない事

 だからーーやすやすとその手のデスバタフライナイフを叩き落とされたのだ。

 そして、いつの間にか無手になっている左の拳がサイコブロウの魔力と身体能力強化LV3の全てを注ぎ込み、裏拳を女アサシンに叩き込んだ!

《バゴンッ!》

 しかし吹き飛ばされたのはーーサトウだった。

「「「!!!!!」」」

 サトウも何が起こったのか理解出来ないでいた。

(何が起こった!)

 必中を確信したサトウは壁まで吹き飛ばされながらあらゆる可能性を探っていた。しかし、あの状態から、しかも体術と魔術を完璧に融合した必殺技を跳ね返される事を理解でき無かった。しかしこれは現実だ。

 だが

 その答えは意外な所から与えられる。

「佐藤くん! 守護天使よ! 貴方では倒せ無い!」

 それはステージの上から発せらた

 そして懐かしい声

 フラフラと立ち上がりながらステージを見ると、豪奢なレースをたくし上げ必死に叫ぶ女性がいた。

「……真奈美……お前もか…」

 それは俺の幼馴染みであり、俺が囲い続けていた奴隷でもある。

「てか! なんでお前が高貴な姫巫女なんだよ!」

「ううっ! ほ、ほっといてよ!」

「いや、お前はエロすぎて失格だろ! だって処女はくれ無かったけどいっつも後ろのーー」

「きゃあああああっ! や、やめて! 私はこの世界では佐藤くんの奴隷じゃ無いんだもん! 余計な事言わ無いで!」

「なにいっ! そもそも真奈美が奴隷にしてくれって無理矢理ーー」

「やめてっやめてっ! うるさあああい! 神様! 佐藤くんに天罰をお与え下さい! かなりキツイ奴を!」

「なっ! 酷い! 俺はお前の五人の従者を助けて、その上に命懸けで姫巫女を助けようとしてたのに! 横暴だ! それにお前の年で姫巫女だなんて詐欺だ! お前は俺と同い年だからーー」

「だめぇ! それは永遠の秘密なの! 私は童顔だから処女なら構わ無いって大神官様に言われたんだから!」

『バカ者! よけんかっ!』

 その時、倒れていた筈の女アサシンから光の奔流がサトウを直撃した。それを寸手の所でオウングスの影羽根が食い止める。

「!!!!!」

「「「!!!!!」」」


「な、なんだよ…それ」


 女アサシンはまるで宙に浮くように漂っていた。

 そして

 まるで光が溢れ出るかのようにユラユラと煌めいている。

 それを表現する言葉をサトウは読んだ事がある。それは神の使い。六枚の羽根を持つ最高位の天使がーー「セラフィム…なのか?」ーーその羽根で女アサシンを護るかの如く覆っていた。


『触れるでないぞ! あの羽根一つ一つが途轍もなく危険じゃ! 妾も初めて見たわ(しかし何故アサシンなどにその加護を与える!)!』


「えっ? 真奈美からの天罰来た?」

『違うわ! 何故か分からぬが、あの女アサシンには守護天使がついておるのじゃ! しかもセラフィムなど多々毎では無い!』


 しかし、女アサシンも何故かフラフラしている。それは力を振るうと言うよりも、自動的に反撃するかのようにも見える。

 もしもサトウがあのまま首を刎ていたら、凄まじい反撃が下されたのは間違いない。恐らくは即死レベルの。サトウの邪な考えがその命を救ったのだった。


「佐藤くん! 引いて! その守護天使は今の貴方では相手になら無い! ここは逃げましょう! 今ならまだ間に合う筈よ! だから、私達を連れて逃げて!」


 サトウは女アサシンをジッと見ている。その眼を見据え、読み解こうとしていた。

 その時また光の奔流がサトウを吹き飛ばす。

「ぐおおおおおおっ!」

「も、もう! 佐藤くん! 何をしたの!」

 サトウは超能力を使いその心を読もうとしたが見事に反撃を加えられた。

(精神接触も反撃対象か! しかも一発が途轍もなく重い!)


「……なるほど、触れる事すら許さ無いと言う訳か」


 サトウは女アサシンとステージの間にたち、ありったけの油の入った壺の全てを投げ付け、そこへ火遁 豪炎弾を撃ち込んだ。

「「「!!!!!」」」

 ありったけの熱量を爆発させ、守護天使と女アサシンを爆炎が包む!

 ドノヴァンが、デニス侯爵が巨大な炎の塊に押し潰されそうになるのをギリギリの所で救い出し、会場から逃げ出そうとしているのをサトウは悠然と見送り、自らはオウングスの影羽根と影手を駆使し炎の奔流を退けた。

『アムル、皆を連れて外へ! そのままこの街を出る!』

『は、はい!』

 慌ててジルとクリス指示を出し、ステージの上の六人を連れて裏口へと向かった。

 燃え盛る紅蓮の炎の中ーーサトウは女アサシンと対峙していた。


 先程までとは眼付きがガラリと変わっている女アサシンはサトウに語りかけて来た。


「……何故あの樽に炎をぶつけられた? 反撃が来ないのを知っていたのか?」

「……勘だよ。最初にナイフを叩き落とした時にも反撃は無かった。直接害を与える気が無ければ、発動しないだろうと読んだだけさ」

「……いい加減な奴だな」

「……お前こそ暗殺者のくせに守護天使なんざ反側すぎるだろ? なんの間違いだ!」

 しかし、女アサシンは何も答えない。


「……貴様はもう俺の奴隷にする事が決定した。暫くはそのキラキラ目障りな天使とやらに譲ってやるが、その時が来れば名前を知らねば不便だろう。名など聞いておこうか!」


 するとーー女アサシンはニコリと笑うと

「……我が名はセラヴィ…アサシンギルド第五位の刺客だ。この借りは必ず返そうぞ!」


 そう言って女アサシンーー第五位の刺客セラヴィは炎の中に消えて行った。


「美人だったな」

『!!! ば、バカ者! まだそんな事を! 急がねばこの建物も燃え落ちるぞ!』

「いや、残った奴隷で燃えそうな美人を助けよう!」

『!!! そんな事はジルとクリスに任せておるわい!』

「なんだ、楽しみが一つ減ったじゃ無いか」


 呆れるオウングスを尻目にサトウは後を追って炎の中に消えて行った。そして、この街から忽然と姿を消してしまうのだった。



♢♢♢


 燃え盛る奴隷娼館をドノヴァンは呆然と見ている。既にデニス侯爵はこの場を去って行った。彼の野望は此処に潰えてしまった事になる。


 それをグレイスとガイがジッと加減から見ている。

 事前にサトウから連絡を受け、事の詳細を確認に来たのだ。アサシンギルドの事があり、グレイスも大っぴらには動けなくなっている。


「……これは無茶苦茶ね」

「……置き手紙では【翡翠】は任せておけとの事だ」

「ふぅ、任せておけね。サトウのせいで組織が壊滅しそうなのに。どこ吹く風ね」


 ガイは「関わるべきでは無い」と言おうとしたが止めた。何故ならすでに手遅れなのだから。このまま行ける所まで行くしか無い。そう思っていた。



 そして二人はドノヴァンを残し闇の中に消える。


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