第三十六話 激闘
第三十六話 激闘
☆
サトウは隠密と忍足を発動し、そっとステージ上を移動していた。
暗殺者の背後に回り込み、風切り丸でその頸動脈を貫こうとしたその時、気配を察知していた暗殺者は身を翻し逆にアサシンダガーを突き立てた! が《バフンッ》その姿は掻き消す様に消える。
「空蝉か⁉︎《ドズンッ!》ぐううっ!」
その背後から風切り丸が暗殺者を貫く。崩れ落ちる暗殺者を振り返る事もせずサトウはステージの上から暗殺者達を見下ろしている。
忍術を駆使し、今度は多重影分身を発動し、ステージから襲いかかって行った。間違い無く五つのサトウは影分身なのは間違いない。しかし、その禍々しい殺気は判別出来るモノでは無かった。そしてそれが隙を生んでしまう。
気を取られた暗殺者の背後から《ドズンッ!》と隠密と忍足を発動させたサトウのサプライズアタックが心臓を貫いた。余りにも濃い殺気を周囲に放たれ、捉えられる筈の気配を見逃した者を的確に屠って行く!
サトウはニヤリと笑うと再び隠密と忍足を発動し闇に沈む。
「始まったわね」
ジルは撒き散らされる血飛沫を見ながら、時折キラリと光り弧を描く刃の軌跡に魅入っていた。
全く無駄の無いその光りの軌跡は淀む事無く暗殺者達を切り裂いて行く。
『なんて無駄の無い動きなの』
陽動に五つの影分身を放ち、さらに隠密と忍足を駆使するサトウは、手練れの暗殺者達をまるで雑草でも刈るかの如く両断して行った。
しかし、その中にいる固有能力を持った者達が反撃にでる。
三人目の暗殺者の首を斬り落としたその時剣戟がオークション会場に響き渡った。
隠密を看破した暗殺者の一人がその双剣の一つを投げ付けたのだ。鎖に繋がれた双剣はまるで生き物の様に蠢きまた手元に戻って行く。
サトウは風切り丸を構え隠密を解いた。
「よくぞ俺を捉えたな」
言うが早いか刃を一閃し最大出力の[風斬]を放ち、その大気の刃で足止めを掛ける。一気に間合いを詰め「!!!!!」立て続けに[破斬]を放ち周囲の椅子ごと吹き飛ばすと、そのまま風切り丸とショートソードを連続して叩き込んでいった。
火花散る斬り合いを繰り広げながら、サトウはさらに影分身を放っていく。しかし、その影分身を双剣が宙を舞い立て続けに貫いていった。
サトウが振り返るといつの間にか双剣はフワフワを宙を舞い、男はさらに二本の黒い小剣を抜き構えている。
(操作系能力者か。恐らく何らかの魔力付与が成されているな)
そして背後にまた一人の男が退路を断ち挟み込んで来る。その男の手には刃の付いた手甲が嵌められており、分厚い闘気を放って来た。
(残りはドノヴァンと引っ掛かってる奴が二人、俺の前後に二人、ステージを伺っている奴が四人、そしてーー首領と思しき少し小柄な奴が一人か)
サトウは実に嬉しそうに風切り丸を掲げ、その美しい刃紋にちらりと目をやり、後ろも見ずに旋風を切って手甲を嵌めた魔拳士に連撃を放つ。まるで様子を見るように《カカンッ》と弾ける音が響く次の瞬間
「[マインドブラスト]!」
「!!! ぐうっ!」
ここに来てやっとサトウは魔術と剣術を織り交ぜて攻勢に出る。
一瞬怯んだ男はそれでも反撃の拳を振るった。《ゴオッ》と唸る一撃は椅子と床を吹き飛ばしさらなる追撃をサトウに叩き込む。咄嗟に[サイコブラスト]を牽制に放ち足止めすると、その隙に再び影分身を三体陽動で出し、一気に間合いを詰めた。
間合いの短い魔拳士はカウンターを取るべく大きく踏み込むと三連打を放ち霧散させたーー筈だった。
しかしそれが罠となり魔拳士を窮地に追い込む。
掻き消された三体の影分身を視認した魔拳士は、背後からの殺気を捉え、隠密と忍足を使ってスニークアタックを仕掛けたサトウへ、完全なタイミングでカウンターを放った。
ところが、その時霧散した筈の影分身の一つが空蝉となり、実体化したサトウが魔拳士の背後を風切り丸の[破斬]で捉える。
「いただき!」
振り抜かれた風切り丸からの破斬が《ドォンッ!》と激しい衝撃波を叩き込んだ。
「!!! ちぃっ!」
咄嗟に身体を捻り躱そうとした魔拳士にナイフが投擲される。
「くっ!」
思わず手甲で跳ね上げた所へ強烈な前蹴りが鳩尾を貫く!
しかしその背後から完璧なタイミングで双剣が襲いかかる。
『仕留めた!』
双剣がサトウの背中を突き通す直前、後ろも見ずにテレキネシスを発動し《ギギッ!》と金属の軋む音と共にその刃を空中で静止させた。
「!!! な、なに⁉︎」
そしてサトウは身体を旋回させ双剣を後ろに跳ね上げ鎖を掻い潜ると、身体能力強化で底上げされた脚力で5m近い間合いを一気に詰めるーーと、見せ掛けた!
咄嗟に双剣を操る意識を切り離し、両手に持った黒い小剣を構えようとしたその隙を突き、サトウは[雷遁 飛雷針]を放つ。
「ぎゃんっ!」
雷撃を深く神経系に撃ち込まれ、全身を引き攣らせて硬直する男にサトウの風切り丸が牙を剥く。
一閃された刃が胴体を両断し、血飛沫が舞う刹那身を翻し、倒れている魔拳士がよろよろと立ち上がる所へ、直上から[サイコブロウ]を放ち床に叩き伏せ沈黙させると、そのままサトウは再び隠密と忍足を発動しその姿を消した。
サトウは移動しながらドノヴァンに襲いかかる暗殺者の一人に[ハーム]をかけ隙をつくってやると、そのままステージで奮戦しているジルとクリスの元に疾走する。
辛うじてその気配を捉えたドノヴァンの護衛は、サトウの元いた場所に転がる死体を見つけ、その底知れぬ戦闘能力に驚嘆していた。自らもその腕に自信はあったが、これほど苦戦する暗殺者達を苦も無く撃ち倒すその力に呆れる他ない。
そして心底敵に回さなくて良かったと思ったが、その点はまだ分からない。主人であるドノヴァンとの確執は明確だ。しかしサトウを止める事は例え刺し違えたとしても不可能だろうと読んでいる。
そして頭領と思しき小柄な暗殺者はジッとサトウを目線で追う。当然の様に隠密と忍足を看破しており、その口元には微かな微笑みが浮かんでいる様だった。
手練れの暗殺者達を次々に屠りながら、サトウは実に嬉しそうにステージに向かう。だがその時、自分を捉える視線に気が付いていた。
その視線はねっとりと禍々しい殺気を纏わり付かせてくる。
(何故動かない? 少なくともドノヴァンなら余裕で殺れそうだが)
そして
オークション会場での死闘は最終局面を迎えようとしていた。
サトウはステージに飛び乗ると、風切り丸を振り切り[破斬]を放ち、暗殺者四人を牽制する様にその前に立ちはだかった。
「遅いわい! 妾は前衛職では無いと言うておったろうが!」
「ごめんなさい、手強くて仕留められ無かったわ」
「動きが早過ぎて牽制しか出来なかったよ」
腕の立つジルとクリスではあるが、流石に六人を庇いながらでは限界がある。何気にオウングスは余裕っぽいが、後からお仕置きがてらその身体に聞いてみようとサトウは思った。
そしてニヤリと好色な笑みを浮かべる。
その笑みは禍々しい殺気を孕んでいた。
それはサトウの本質の一つ
それを発揮する事にサトウは限りない喜びと恍惚を隠せないでいた。
そして風切り丸とショートソードをクルリと取り回し、ジッと四人の暗殺者を見据える。
そしてこう言い放つ
「さあ、俺のお姫様達に手を出した奴等の末路を教えてやろう! 何処からでも掛かって来い!」
と言った瞬間にいきなり[マインドブラスト]と[サイコブラスト]を連発し風斬を三連撃した。
「嘘なの!」
「言ってる事と全然違う!」
「それがサトウじゃな」
呆れる三人はそれでも連携を取るべく動き出す。
「「「はぁっ…」」」
サトウといると溜息が尽きない。そう三人は思っていた。そしてチラリと振り返り、またその数が増える事に少し逡巡しながらも、サトウのフォローに入って行った。




