第三十五話 惨劇
第三十五話 惨劇
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その時、オークション会場に現れた影に気が付いたのは四人だった。
一人はサトウ、一人はデニス公爵の護衛、一人はドノヴァンの護衛、そして主催者であるドノヴァン本人。しかし、行動に移せたのはサトウただ一人しかいない。
三人はあくまでも気配を察知しただけであり、それも本当に微かなモノでしかなかったため、判断する事が出来なかったのだ。
ジルとクリスに武器を手渡した後、サトウは隠密と忍足を発動し、その姿を消した。隣にいたジルとクリスだけは事前の打ち合わせで意図を察し、合図を待つ。
その時、ジルは背後に迫る気配を察し、そっとクリスに合図を送り、サトウの言った通りになったと少しだけ動揺し、直ぐに臨戦態勢を整えると、気取られぬように目線をステージで行われている五人の美しい戦争奴隷に向ける。ワザと隙をつくり誘いを掛けたのだ。
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サトウはオークション会場を隠密と忍足を使い移動していた。
ステージ上では一人づつその衣装を脱ぎ去り、その美しい肢体を晒す事を強要されてる。女調教師の命ずるままあられもない姿を晒す女達はどうやら脅されてでもいるのか、精神支配を掛けられている訳では無く、あくまでも自分の意思でやる事を強要されているかのように、その表情には苦渋に満ち、美しく歪んでいる。
(そそるな! 是非俺もやらせよう!)
サトウはニヤリと笑いながらステージに駆け寄りそっと脇に身を寄せ、その時を待った。
(さあ、アサシンギルド! 思う存分恨みをはらせよ!)
次の瞬間ーーオークション会場に鮮血が舞った!
ドノヴァン配下の私兵達の首が突然斬り落とされる。
ステージ上の痴態に目を奪われている客の何人かが〈ゴロリ〉と転がり落ちる首と噴き出した血に気が付き、徐々に騒ぎだし、逃げ始める。
「な、なんだ!」「人殺しだ!」「に、逃げろぉ!」「た、たすけてくれぇ」
慌てて逃げ出そうとして一部でパニックになったのをドノヴァンが気が付く。
「!!! な、なんだ! 何が起こった!」
そして次々と配下の私兵が首を斬り落とされていくのを、ドノヴァンは呆然として見る事しか出来なかった。
「な、何が起こってるんだ」
突然の事に状況判断が追いつかない隙に、ステージでは熱狂する客の前に豪奢なレースにその顔を隠した高貴なる姫巫女が連れ出され、歓声が沸き起こっていた。
異変に気が付かない司会役の男と、姫巫女を引き摺り出した女調教師に、ドノヴァンの声が届くのは数秒の時間がかかってしまい、既にステージ中央に連れ出され、五人の戦争奴隷の痴態の真っ只中に立ち尽くしている哀れな姫巫女の前で、遂に惨劇が牙を剥き始める。
最初の犠牲者は司会役の男だった。突然姿を現した白いローブを身に纏った男はその手から特異な短剣を取りだし、唖然とする司会役の男の背後にスッと周り込みその首をスルリと切り落とした。パクパクと転がり落ちた首が何かを言おうとするが当然言葉にはならない。
そして次は女調教師が犠牲になった。その手に鞭を持ち、美しい戦争奴隷達を無慈悲に打ち据え、支配者として振舞っていた女は、次に現れた男に銀色に光る細い糸を首に掛けられ背中越しに背負われ、必死に抵抗しようとするが、どれほど掻きむしろうともその首を締め上げる銀の紐を引き剥がす事は出来ず、血塗れになりながらビクビクと身体を痙攣させ、最後は血を吐いて動かなくなった。そして男がその紐を一気に引き絞るとゴトリと首が転がり落ち、ステージの下にゴトンと消えていくのを見て、事態を把握した客達の歓声が止まり、一瞬の静寂がオークション会場を支配する。
「アサシンギルドか!」
ステージ上で首を斬り落とした男の手にある特異な短剣ーーアサシンダガーにドノヴァンが気が付き、配下を呼ぼうと振り返るその瞬間《ギンッ!》眼前に迫るアサシンダガーを隣に控えていた護衛が跳ね上げた。
「!!! な、何故アサシンギルドがここに! 何故俺を襲う!」
ニヤリとローブを纏った男は囁く様にこう言った。
「お前達は我らの仲間を皆殺しにし、大切な仕事の邪魔をした。その借りを返させて貰う。今日は大切な日らしいからな、思い知って貰おうか。まあ、既に手遅れだかな。あの女達は始末させて頂こう。これでお前とあの男は破滅だな」
「どういう事だ! お前らの仲間をやったのはサトウと言うヤツだ! 俺には関係無い!」
「お前らは仲間だ。そして貴様らの仕事を引き受けている。ならそれで十分だ。そして今日サトウが落札する事になっている女には我らも用があるんでな」
「なんだと!」
「ドノヴァン様! お逃げ下さい!」
《ブンッ!》と振るわれたロングソードをローブの男が後ろに飛んで躱す。
「奴らは強い! せめて貴方だけでもお逃げ下さい!」
ドノヴァンが周りを見渡すと既に大半の部下は首を斬り落とされていた。慌てて騒ぎを聞きつけた部下が会場に走りこんで来るが、ことごとく首を斬り落とされて命を失っていく。
もはや会場には僅かな私兵しか残っていない。それでも必死で戦っているが、その力の差は歴然としていた。辛うじて対抗出来そうなのは自分と隣にいるランガ位のだろう。
既に混乱した会場からは多くの客が逃げ出しており、このオークションが失敗した事は間違いない。そして肝心の姫巫女はまだステージに取り残されたままだ。
そしてデニス侯爵も呆然と立ち尽くしていた。最後の最後で起こった惨劇を止める事も出来ず、呆然としている。
アサシンギルドの一団はどうやらこの失態を広め、アサシンギルドに敵対する事の恐ろしさを知らしめ用としている様だった。そして姫巫女と戦争奴隷にはアサシンギルドも用があると言う。
ステージの片隅で聞き耳を立てていたサトウはふと考えた。
(……アサシンギルドの奴等が用があるどいう事はやっぱり…)
その予感は的中する。
サトウはその内情までは気がつかなかったが、アサシンギルドが狙っていたのは姫巫女だった。依頼をかけたのはローランドである。敵の手に落ち、自らの国の宝が穢されるくらいなら、いっそ先に暗殺し、自ら自決した事にして再び戦意高揚に利用しようとしたのだ。
そして白いローブを纏った男達がその手を姫巫女にかけようとした時、その影から黒い羽根と無数の手が伸びる!
「!!!!!」
慌てて飛び退く暗殺者達の背後に、サトウが隠密と忍足を駆使し忍び寄る。
「やれやれ、やはりこうなったか」
姫巫女の影から現れたのは
「オウングス! なぜ貴様がここにいる!」
「妾もきたくなかったのじゃがの、無理矢理じゃよ。その後ろの男に頼まれての」
その時ーーサトウの風切り丸が暗殺者を背後から斬り裂いた。
「ぐっ! き、貴様! いつの…」
サトウはその首を掴み喉を掻き切ると《ドサリッ》と崩れ落ちる暗殺者をみてニヤリと笑いながら、もう一人の暗殺者を見据える。
「お前は銀の糸を使うんだな。と言う事は糸操士か? さて、お手前拝見といこうか!」
「!!!!!」
サトウが飛び掛かるのを察知した暗殺者は、その身のこなしから力量を的確に捉えていた。後ろに飛び退くと距離を取り決して攻めようとはしない。
「やけに慎重なんだな。それでは仕事がこなせないんじゃ無いか?」
そう、アサシンギルドの目的は俺と俺と手を結んだ組織を壊滅させる事にある筈だ。
そしてサトウは会場に視線を移す。そこには暗殺者たちと切り結ぶジルとクリスがいた。
『アムル、二人をこちらに』
『手強いのか少し苦戦してます!』
『武器には毒が塗ってある筈だ。傷付られたら最後だと伝えておけ』
『!!! なんと親切な! きっと涙を流して喜びますよ』
『だろ! さあ、急がせろよ!』
そしてサトウはショートソードを手に取り両手を広げ暗殺者と対峙する。




