第三十話 偽りの預言者
第三十話 偽りの預言者
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定宿である黒猫亭の屋根の上、サトウは月を見上げていた。正確には月を見上げるふりをして周辺をサーチとロケイトで監視しているのだが、もっと正確に言うのであればアサシンギルドを警戒しているのだ。
あの預言者オウングスを助けるついでとは言え、面倒くさい事になったと流石のサトウも少し反省している所である。証拠隠滅に問題は無い筈だが、アサシンギルドには自分には分からないスキルがある可能性が高い。何処から足が付くかは未知数だった。
しかしこのままここに留まる事は出来ない。【翡翠】を探し出さなければならないし、ジルとクリスの悲願もある。まんじりともせずサトウは屋根の上で寝っ転がっていた。
『おやおや、サトウさんは奴隷姉妹の相手もせずにこんな所で何をしているんですかね? 』
『アルマ、遅いよ! で、収穫はあったのか?』
『残念ながらありませんでした。この周辺には【魂の雫】すらありませんでしたね。ですからまだ【魂の器5/100】のままですね』
『それで、相談があるんだが』
サトウは現在の状態を説明し、さらに二つの情報を引き出そうとした。それは【翡翠】と預言者オウングスに関してである。
『[タイムアウト]!』
二人は再び虚空に戻る。
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「先ずは【翡翠】だ」
『また厄介な物を探す羽目になったんですね』
「と言う事は知ってるんだな?」
『それはもう! この世界では有名な貴石ですからね〜』
「へえ〜、そうなの?」
『はい、だってこの世界で最も有名な七人の女神を象徴する石、正確には結晶体ですね〜』
「……結晶体?」
『そうですね。【翡翠】【瑪瑙】【琥珀】【玻璃】【瑠璃】【珊瑚】【真珠】これらはそれぞれが七人の女神に対応しており、その昔魔王を封印する時に七人の女神が使ったと言われているんです』
「それは元の世界でも聞いた事があるんだが、同じ物なのか?」
『いえ、別物ですね〜成分的に近い物もありますがね〜、ただ、それらは自然のマナを集めて構成されているのですが、今回依頼された物がどの程度の物かが分かりかねますからね』
「それは種類と言うか、質が色々あるのか?」
『はい、等級が色々ありますね。何でも良いなら結構見つかりますが、上位ランクの品は極端に少ない筈です』
「……なるほど、それであんなレベルの奴らに頼んだのか」
『なんらかの必要に迫られて数を集めようとしているんではないでしょうか?』
「……必要ねぇ…」
『この辺りならーー[森の神殿]ですね』
「ふむ、そこへ行けば良いんだな?」
『ただ封印されているので、簡単には入れませんがね』
「それは好都合だな」
『おおっ! さすが良く気が付きましたね! その通り! 直ぐにでも探索に向かう事をお勧めしますね!』
「その前に預言者オウングス何だが」
『本当に居たんですね〜、てっきり都市伝説みたいなもんだと思ってました』
「都市伝説?」
『オウングスは偽名なんですよ? 凄まじいチート持ちらしいですからね。幾つもの通り名を使い分けているんですが、要は彼女はトリックスターと呼ばれる騒動屋だという事ですね』
「騒動屋? どう言う事なんだ?」
『ええ、トリックスターが騒動屋と呼ばれる由縁は彼女が決して何れかの陣営にも組みする事なく、その時の気分で好き放題するからなんですね〜』
「…好き放題……やるな」
『一番の謎はその時々で持っているとされるチート能力がバラバラなんですよ〜因みに一番古い記録では500年ほど前に現れた記録があるんですよね。その時は女神の子孫を助けて魔王を封印したらしいんですよ〜』
「ちょっと待て! じゃあどうやってオウングスを特定しているんだ?」
『ですから、色んな事が終わった後で『あれはオウングスだったのでは?』てな感じになるんですよね。分かっているのは忽然と姿を消すという事なんです』
「でもあいつは自分でオウングスだと名乗ったぞ?」
『そうです! それは初めて聞きましたね! 新しい登場パターンを模索してるんでしょうかね?』
「でもあいつ何処にいるかも言わず消えて行ったんだけどな? まあ、預言者だから探し当てて来るんだろうけどな」
『まあ、要は変わり者だという事なんでしょうがね〜』
「やれやれ、散々な言われようじゃの」
「!!!!!」
『!!!!!』
虚空に響き渡る声はとても澄んていた。その言い回しは大変古いものだが、それは昼間聞いた声と酷似している。そう、あの白いフードを被っていた少女と同じだったのだ。
ただし、目の前の少女が本当に預言者オウングスかどうかは分からない。けれど、一つだけ間違い無い事がある。それは魔王と勇者が突破したこの結界を目の前の少女も易々と突破していると言う事だ。
「呼んでもいないのに現れるとは、余程暇なのか?」
「何をいうとるか? 準備を終えてまた現れると言うておいたじゃろ?」
『…………』
「で? ここへどうやって浸入してきた?」
「仮にも妾は伝説の預言者オウングスじゃぞ? 本体は無理でも意識体だけならどうとでもなるわい」
『精神干渉ですか。なら魔王や勇者がやったように物理干渉までは出来ないのですね』
「恐らくの。まあ、その辺はやってみんと分からんがの」
「その伝説の預言者が何の用だ?」
「うむ、早速匿って貰おうと思っての! 元々サトウにはマーキングしておいたし、間も無くこの街を出る所だったんじゃろ?」
「……【翡翠】探しについて来るつもりなんだな?」
「ご明察じゃ! もうこの街も飽きたしの!」
「お前のせいでアサシンギルドを敵に回す事になったぜ(俺が原因でもあるが)」
「何を言うとる! お主が蜘蛛の呪詛を阻止したせいじゃ! 妾はそれを引き換えにアサシンギルドに保護を頼んでおったのじゃが、どうも彼奴らは妾をその手に収め用としおっての〜、だから逃げておったのじゃよ。そこへお主が来たわけじゃ! 渡りに船という奴じゃの!」
「一つ聞くが、なんでお前は俺の事を預言出来なかったんだ? 俺も含めて預言するなら、蜘蛛の呪詛が食い止められる事も分かってたんじゃないのか?」
「やれやれ、そんな事も知らんのか⁉︎ それはそなたが持っておる【災厄の渦】のせいじゃよ」
「……これと何の関係があるんだ?」
『…………』
「【災厄の渦】とはの、その存在によって未来を改変する時、神ですら見通す事の出来ぬ特異点を発生させてしまうのじゃ。つまり未来を不確定化させるわけじゃ。あらゆる運命の流れを変えていくのが【災厄の渦】じゃからの。お主は神ならぬ人の身なれどその一点に置いて神を凌駕しておるのじゃ。神と言えどもこの世の理から逃れる事は出来ぬ。じゃがお主はその神の命運すら改変する事が可能なわけじゃな。じゃから恐れ、忌み嫌われるのよ」
「そこのアルマからは何の魔力機構も無いと言われてるんだが?」
「そうよ! じゃが結果として運命が改変される時に何故かお主がその場所、その時にそこへおるわけじゃ! 一回二回では無いからの。これからもお主はそう言う運命の流れに身を委ねる事になろうて」
「やれやれ、じゃあお前が現れたのもその改変の一環なのか」
「それはお主次第じゃろうよ。その時、お主がどんな判断を下すかによってその未来が変わり、妾の運命にどう影響するかによってはその一環となろうし、もしくはなんら影響を及ぼさぬかも知れん。全てはお主次第じゃな。まあ、考えても無駄じゃぞ。神ですらお手上げなんじゃからの。我等の手に負えるモノでは無いの」
『…………』
「さて、どうやらお客様が訪ねて来たようじゃ。妾はお主に隠れさせて貰うからの、よろしく頼む。くれぐれも秘密にしてくれよ!」
そう言ってオウングスはブレスレットを手渡して来る。そしてニコリと微笑み虚空から消え去って行った。
「アルマ、どう思う?」
『……サトウさんの【災厄の渦】に関してはその通りかもしれません。事実元の世界からは放逐された訳ですからね』
「ただの名称だけと言うのは単にその原理が理解出来ないからだという事か」
『お答えしかねます』
「だろうな。さて、お客様らしいからな」
『分かりました。[ログアウト]!』
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[ログアウト]すると、ジルとクリスが俺を探す声が聞こえて来る。どうやらオウングスの言う客人らしい事が推察できる。
「サトウ、何してたの?」
「そうだよ! いなくなるからビックリしたんだよ?」
「二人があんまり美人だから覗き見してたのさ」
「!!!!!」
「!!!!!」
「ば、バカな事言わないで!」
「そ、そうだよ! 何言い出すんだよ!」
それでも二人は顔を赤らめ視線を逸らす。どうやら照れ屋のようだな。これからもっと恥ずかしい目に合わせてやろうと心に誓っていると部屋をノックする音がする。
「……ちょっと! 何時まで待たせるつもりなの!」
ドアを開けると、そこには紫頭の美女が本当に不機嫌そうな顔で立っていた。二人の男を従えたグレイスが開口一番切り出して来る。
「……あんた! やってくれたわね!」
「……ばれた?」
取り敢えずそう言っておこう。
その顔は本気で怒っていた。




