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第二十七話 屋台巡り

第二十七話 屋台巡り



 エルベの街の目抜き通りをサトウとジル、クリスはジッと観察して歩いていた。本来ならジルとクリスはそんな場合では無いのだが、二人を支配しているサトウの全く周りを気にし無い性格に引き摺られるように、なかば諦めながら付き従っている。


 エルベは元の世界でいう所のヨーロッパ寄りの中央アジアに近い文化を持つ国らしく、一応コメとパンの両方が入り混じる複雑な食文化を持っているようだった。


 雑多な民族よ要求に応えるように屋台も全く節操のない食べ物が並んでいる。しかしサトウにとっては最高のラインナップだった。


「あのウドンみたいなのは?」

「アレは焼きパスタね。面が太いのとナッツ類が入っているのが特徴よ。乗せる具材を選ぶのよ」

「よし、あのバラ肉みたいなのを煮込んだヤツを入れて貰ってくれ」

「はいはい、二人前でいい?」

「いい! あの鍋で焼いてるのは?」

「焼き飯の一種だよ!トマトやマメ類も入れるんだ」

「それも二人前だ。あの肉を焼いてるのは?」

「カモの香草焼きね。香草に漬け込んで肉を柔らかくしてから串に刺して炭火で炙り、最後にタレで焼き目をつけるのよ」

「アレは八本貰おう。あの白い煮込んでるヤツは?」

「干し貝柱のクリーム煮ね。スープの一種だよ。この辺は海が遠いから貴重品なんだ」

「アレは三人前だな。そこの魚を揚げてるのはなんだ?」

「多分アレはマスの丸揚げよ。甘酢で揚げた野菜ごと食べるのよ。……まだ頼むの?」

「あと野菜も食べないとな! おおっ! あの赤い漬け込んだヤツも二人前頼む! 辛いんだろ?」

「!!! 後悔しないでよ! アレはキュウリを漬け込んだヤツだけど、効くからね!」

「大丈夫! 俺は辛威張りん坊なんだ! 決して辛い物に背は向けない!」

「大丈夫かな〜? さあ、じゃあさっきの茶店に戻る?」

「いや! あのジャガイモみたいなのを蒸してるのとウリ見たいなヤツを和えてるのも頼む! やっぱりバランスが大切だろ?」


 呆気に取られているジルとクリスは「食べ過ぎ無いのが一番じゃない?」と思ったがサトウには言うだけ無駄だとため息を吐いた。


「じゃあクリス、頼んだのが出来たら全部もって来させて。あと飲む物は?」

「レモン炭酸水だ!」

「えらく気に入ったのね」


 当然の様にサトウは茶店の中でウキウキと料理をまっている。ジルもクリスも本来ならそんな態度は許さないほど気が強いのだが何も言わず料理を運び続けていた。


 数分後、茶店のテーブルの上には所狭しと料理が並ぶ。


・カモ香草漬けタレ串焼き

・貝柱クリーム煮込み

・焼きパスタバラ肉煮込み添え

・焼き飯トマトとマメ入り

・マスの丸揚げ野菜餡かけ

・蒸しジャガイモ

・ウリ炒め胡麻和え

・キュウリ辛味漬け


 しかしテーブルに着いているのは三人だけ。ジルとクリスはどちらかといえば華奢な見た目だし、サトウはこの世界の男にしては背も普通だし身体付きは細身である。そして黒髪に黒い瞳はこの世界では大変少なく、恐らくこの街では初めて現れた人種のはずだった。


 街の人々が興味津々で茶店を覗き込んでいるが声はかけない。それはサトウが脇に置く風切り丸とショートソードが、冒険者であり武芸者である事を無言のうちに伝えて来るからであるが、やはり愚か者は何処の世界にもいるものだ。数人がチラチラと様子を伺っている。



 そして「…バカが! 目立つなとガイが言っておいた筈なのに」人混みの後ろからローブを着た男がそう呟いて足早に立ち去って行った。恐らくは昨日の四人の中の一人であろう。サトウも気配を察知していたが敢えて無視していた。


 この茶店では小皿ではなく大きな皿にどんどん持って食べるのが流儀の様だった。そしてジルもクリスも器用に箸を使いこなすらしい。取り敢えず取り皿を各人の前に並べ食事が始まる!




 ガバッとサトウは串焼きに手を伸ばした。香草漬けにしてあるせいか多少臭いが気になるが焼き加減は秀逸て噛み締めると肉汁がほとばしる。タレが焦げてカモの味に良く合っている。

「コレはあと五本頼もう!」

 始まったかとジルはお店の人に手であと五本を指し示すと店主も分かっていたのかニヤリと笑い焼きにかかる。


 そし貝柱のクリーム煮込みをレンゲですくいグイッと一飲みした。

 クリスは「熱く無いのかな?」と呆気に取られていたがサトウはさらに追加した。

「これはもう一杯貰おう。ただし大盛りでな!」

「!!! わ、分かったよ」


 そしてここで焼きパスタと焼き飯を取り皿にゴッソリ取る。半分以上は乗せて取り皿からはみ出るほどにモリモリになっているのをゴッソリレンゲですくい口に運んでいく。


 ガツガツと言うより、モリモリといった感じだ。余りにも豪快過ぎて周りで様子を伺っていた人達も思わす魅入ってしまう。


「うん! この肉の煮込みが甘辛くて美味い! 焼き飯のパラパラした焼き上がりに染み込んで堪らん美味さだ!」


 その満面の笑みはとても平然と人を殺す男には思えなかった。襲ったのは自分であったのだが、それでも目の前の男は一応は盗賊団だったとは言え仲間を葬った敵である筈なのに、実力が余りにも違い過ぎるのと、その度量が広いと言うよりは無頓着な気風に流されてしまう。しかも立場はジルとクリスは奴隷同然なのにそれすら忘れているとしか思えない。


(本当に何考えてるの? 助けてくれたのはありがたいけど)


 しかし確かな事が一つある。サトウとテーブルを囲むと何故かお腹が空く。それは間違いなかった。一時も緩む事なく食べ続けるサトウには不思議なオーラでも出ているかのように惹きつけられる。


 ザッとパスタを箸で掴み口に送り込むと〈ズルルルルッ〉と啜った。一気に呑み込まれるパスタに思わす目が点になるジルとクリス。このすすると言うのは日本独特の様で外国では余り好まれ無いらしい。そしてまた〈ズルルルルッ〉と吸い込まれていく。


「これはナッツが香ばしい! 次は違う味を頼む!」

「はいはい、二人前でいい?」

「うむ、あとレモン炭酸水をジョッキで頼む!」

「サトウって飲むのも早いんだね」

 呆れるクリスに飲む物を頼みジルはパスタの追加に向かう。店主達もサトウの食べっぷりと追加が順番に出るのが気になるのかチラチラとこちらを見ている様だった。確かにこの状況で自分の店だけ追加が無いのは困るだろう。


(……まさか気を使ってるんじゃ無いよね?)


 そして屋台に向かったジルは視線に気がつく。それは余り風体の良く無い男たちだった。


 チラと視線を流し茶店に戻るジルはサトウに耳打ちする。


「サトウは人気者ね。興味津々な男が何人かこちらを伺って来てるわよ」


 マスの丸揚げを骨から外すのに苦戦しているサトウにサッと取り分けると素知らぬ顔で囁くと、ニヤリと笑うサトウはジルとクリスに耳打ちした。


「もしも依頼の一つである預言者様が本物なら、俺が探している事に気がつくはずだろ? だから目立って俺が人畜無害だと証明してるんだよ。男が釣れたのは想定外だかな」


 ガイにあれほど目立つなと念押しされているのに、何を考えているのかと呆れるジルはその時異質な視線を感じた。


「動くなよ、視線も向けるな。そのまま飯を食ってろ」


 そういってサトウはパクリと丸揚げに被りつく!


「うめえわ! これもう一匹行っとこう!」


 そういって残った骨まで齧り始めた。ジルとクリスは一欠片も食べては無かったが、苦笑いしながら「サトウ、マスの骨まで食べるの人は初めてみたわ」と言うとニヤリと笑って「カルシウムも取らないとな」と一言


 ジルは肩を竦めて追加を頼みに行った。そして後ろからコッソリと「視線を探すなよ」と言った。


 そして蒸したジャガイモとウリ炒め胡麻和え和え物に被りつき、当然の様に追加を頼み、箸休めの赤い辛味漬けに直撃を喰らい、口から火が出るほどの辛さに転がりまわっていた。


 さすがのサトウにも耐えられないその辛さ


 ジルとクリスは「勝った!」と思ったが敢えて何も言わなかった。


 そしていつの間にか消えた異質な視線に一抹の不安を覚えながら、追加の料理を集めに周りつつ、一つ思い出し気になる事があった。


「「私の処女とか奴隷の話はどうなるの?」」


 それは早ければこの後すぐにでも起こりうる。このトンデモ無い男は何をしでかすか分からない。ジルとクリスはヤキモキとしながらまだ食べ続けているサトウの給仕をテキパキとこなしていた。その顔は少し紅く染まり、まるで新婚夫婦のようなかいがしさ。


 だか二人はそれに気がついてはいない。サトウは何故かそんな事には気が回るのかニヤニヤと二人にはみえないように笑っていた。


 

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