第二十五話 撤収
第二十五話 撤収
☆
サトウは奮戦する二人の前に忽然と現れる。
「ジル、クリス、衛兵に囲まれる前に消えるぞ」
「サトウ! どうなったの!」
「ああ、穏便に話しは付いたよ」
クリスは自分がやったとはいえ燃え上がる屋敷をみて「……穏便にねえ」と呟いた。
周囲に敵はいるものの所詮雑兵、ジルとクリスの相手にはなら無い。まるで時間でも潰すかの如く二人は動けない怪我人を増やし続けていたが、しかしもうそれも必要無いだろう。
「始末はリーダーがしてくれるそうだ」
サトウは屋敷から迫る気配を察知し、憐れむ様な視線をチラリと向け、そのまま身を翻し立ち去っていく。
「ま、まってよ! ちゃんと説明してくれるのよね?」
「この人数を平気で背を向けて帰るなんて……まあそれがサトウなのね」
そして二人も殺気を察知したのかサトウの後を追う。その背後で肉の斬り裂かれる音と悲鳴が響いていたが、それはものの数分で沈黙に変る。そして暗闇に燃え盛る屋敷だけが何時までも赤い炎を巻き上げていた。
♢一夜明けて
三人は宿屋で朝食を摂っていた。昨日のうちに話が通されていたのか、それとも女将の肝っ玉なのか、部屋こそ直ぐに話使えなかったがそのままここを定宿にする事が出来てサトウは満面の笑みを浮かべている。
「美味い! ここのメシは最高だな!」
そう言ってサトウは三人前程をペロリと平らげさらに追加を頼もうとしていた。ジルとクリスは呆れて見ている。
「……サトウの何処にはいるのかしら?」
「……お腹に穴でも空いてるんじゃないのかな?」
追加で二人前を頼み女将に大笑いされた後、サトウは二人に屋敷での話し合いの事を伝えた。
「……じゃあ、サトウは三人分の依頼を受けたの?」
「そうなるな」
「……私達はありがたいけど…それで良いの? その、サトウには迷惑なのに」
「最初からそのつもりだったからな。まあ、お前ら二人の美人奴隷姉妹を手に入れる為の代金だと思えば安いもんだな。まあ、二人にも手伝って貰う事になるがな」
二人はしばし沈黙し、サトウに礼を言った。
「……ありがとう。これで目的が果たせるわ」
「そうだね、なんとかなりそうだ」
それは二人が受けた依頼とリンクしていた。しかしそれは直ぐには取りかかれそうには無い。
「ジルとクリスの目的は場所の関係もあるから一番最後になるだろうな。それよりも資金が足りないだろ? 暫くは持つだろうが、武具も防具も装備品も殆ど無いんだからな。それに蜘蛛の呪詛もこのままとはいかないだろうからな」
「そうね、その辺はグラムと相談してみるわ。今日はもう動くでしょ?」
「ああ、先ずはあの親父の店にいこう。俺もこの格好じゃ流石に悪目立ちしすぎだ」
そう、サトウは転生した時のままの服装だった。それに武具はあるが他の物がまるでそろっていないのだ。
三人は朝食を終え、宿屋を後にした。
「そういら宿屋の娘ッ子は結構可愛いよね」
そう言うサトウに二人は心底呆れたような顔をになった。
「サトウ、あなた女問題で命を狙われてるんでしょ?」
「本当に懲りないんだな」
「男の嗜みだよ」
『本当に最低の男ですね』
すると屋敷の監視に付けていたアルマが戻って来た。
「グレイスの潜伏先は突き止められたか?」
『残念ながらかなり遠くへ転移した様です。二人の男はこの街でまだ止まって何やらしているようでしたが、サトウに敵対するつもりはないようですね』
グレイスに夜這いをかけてやろうかと思っていたサトウは露骨にガッカリしていた。さらに呆れる二人を気にする素振りもなくサトウは次の指示を出した。
「アルマ、少し調査を行ってくれ。【魂の器5/100】の復活もやらなきゃならんしな。周辺で【魂の欠片】【魂の雫】が無いかを調べ上げろ! 俺のレベルアップも急務だからな」
サトウは少しでも桐子と雪代との差を埋めたかった。そして自らの持つ【災厄の渦】と向き合う為の力を必要としている。
「分かりました。では暫しお時間を頂きたく思いますが宜しいですか?」
「構わん。どうせ暫くは準備期間だ。先ずは三つの依頼をこなさなけりゃいかんからな」
アルマはではと一言消えていった。そして三人はグラムの店に向かう。
♢
昨日の今日ではあるが、唯一の協力者であるグラムの店に着いた三人は店内に客がいないのを確認してから入店した。
三人をチラリと見たグラムは「裏に来い」と言って奥の扉を開け招き入れる。
「金の無心だな」
開口一番グラムは話のわかる男のようだ。
「よく分かったな。衛兵や宿屋にばら撒いたからね」
「はぁ」と溜息を吐いてグラムは袋を机の上に置いた。
「コレは提供する予定だった資金だ。ジルとクリスの分、それとエイガンとボルトの分だな。組織から分配されて俺が管理しているからな。それを渡そう」
その袋はズシリと重い。
「分かってると思うが冒険者登録はあくまでも身分証明書までにしておけよ。買取や必要な物の取次は俺がやってやる。でないと直ぐに足がつくからな。特にサトウ、お前は目立ち過ぎるから登録はジルとクリスだけにしておけよ。まあ、するにしても余計な事はするな」
袋の中には200000Gが入っている。
[203105G:0J]
サトウは二人の装備を見直し始めた。
「ジル、今の装備を見せろ」
ジルは机の上に並べ始める。
・ショートソード
・ショートソード
・スタックスピア
・ポイズンニードル
見事に近接戦闘系だ。おれが近接戦闘特化だから何か中•遠距離系が欲しいところだな。盗賊系だからここは鞭、飛剣あたりだろうか?
「ジル、鞭と飛剣は使えるか?」
「一応手ほどきは受けてるわね。投げナイフはそこそこよ」
「グラム、鞭はスタン効果付きのが無いか? あと飛剣は十本ほど見繕ってやってくれ」
「クリスは魔法の杖だけか?」
「う〜ん、それだけだね。護身用に何か持とうか?」
・魔導士の杖
魔法の効きにくい奴もいるだろうしな。使えるのも攻撃魔法特化なら、槌鉾と防具としてバックラーくらいか? 回復系のマジックアイテムをポーションとは別に装備させようか。
「クリスには打撃系の武具とバックラーを頼む。もしもマジックアイテムで回復系の物があれば見せてやってくれ。それとポーションは回復、治療、解毒、それとマジックバッグがあったら二人分頼む」
すると、グラムは幾つかの見本を見せてきた。
「ジル、クリス、手に取ってよく確かめろ。ジルはこの[荊の鞭]が良いだろう。マジックアイテムの一種で棘が飛び出して相手を拘束出来るし伸びる優れ物だ。あと飛剣は軽いとかえって使いにくいからコレから選べ」
そう言って見本の飛剣を五種類出して来た。
「クリス、お前はこのメイスを使え。マジックアイテムでは無いが剣よりダメージが与えやすいし、丈夫で相手の武器を受け止めても壊れにくいからな。あとこのバックラーを使え。魔法使いでも使い易い小型盾だがいざという時には役に立つからな」
この後幾つかの防具も更新させた。グラムは案外良い奴なのかもしれ無いな。
金は取られたが。
「サトウ、その刀を見せてみろ」
「これか? 一応マジックウェポンらしいぞ」
手渡すとグラムは繁々と見ている。忍刀は大変珍しいそうだからな。
その刀に浮かぶ刃紋はまるで波打つように揺らいでいる。
「懐に入って手数で勝負するお前には相応しい武器だが、十分即死も狙えるし強度もかなりあるからバスターソード相手でも打ち合えるだろう。業物だな」
試してみるかとグラムに言おうかと思ったが何気に達人ぽいグラムに勝てなかったら恥ずかしのでやめておくことにした。
そうかなり強い。恐らく昨日の面子の中では最も手強いだろう。
それが連絡役とはな
油断は出来ないという事か
代金を支払うとまとめて5000Gだと言う。高いのか安いのか分からないがジルとクリスがブツブツ言ってる所をみると割高だったのかもしれない。
そうか、やはり油断出来ない奴だな。




