第二十四話 話し合
第二十四話 話し合い
屋敷の中を疾走するサトウはサーチを使い移動する男達を捉えた。階段から降りて来ようとする三人に風切り丸を振るい[風斬]を放つ。大気の刃に斬り裂かれた三人が肉塊となって転がり落ちていくのを掻い潜り、二階へと駆け上がる。
クリスの[ファイアーエクスプロージョン]で半壊した屋敷の廊下を突破し目の前の炎を[破斬]で吹き飛ばしながら奥へと進んで行った。
「クリスには注意しとかなきゃやばいな」
あまりの破壊力に巻き込まれる恐れを感じていた。至近距離から放つのは自殺行為的なレベルの火術は屋敷を一撃で半壊させている。
その時廊下の向こうからさらに走って来る五人にサトウは[マインドブラスト]を放った。このレベルの相手にはかなり効果がある事が実戦で分かって来た事により、その戦闘能力はさらに磨きがかかっている。
その上、隠密と忍足で一気に間合いを詰められ有り得ない至近距離から放たれれば防ぐ事は困難だ。身体的ダメージは無いとはいえ意識を削り取られれば接近戦では致命的な隙を作ってしまう事になる。
そしてーー動きの止まった敵に風切り丸とショートソードを抜刀したサトウが圧倒的なスピードで飛び込んでいき刃を合わす事なくすり抜けていった。
不運な五人は何が起こったかすら分からないだろう。骨ごと両断され肉塊となった人間だった物がゴトンと転がり落ちて行く。
そして、その先の四人の目標までの間にはもはや遮る者は皆無だった。
「この奥か」
その廊下の向こうにある扉の奥にリーダーが入る。しかし、その扉の向こうからはただ事ならぬ殺気が漏れ伝わって来る。
「ふむ、どうやら本当に怒らせたようだ。どうもこの世界での俺は槍玉に挙げられやすいようだな」
そして四人は微動だにしていなかった。
「……何故だ?」
サトウはサーチを使い索敵を行うが異変は見当たらない。
「……手の内を、読まれてるのか?」
そう、サトウも実際は遠距離攻撃の手段が殆ど無くどうしても接近しなければなら無い。この様に守りを固めた相手に乗り込むのはかなりリスクが高くなるのだ。
(時空魔術のプロテクションかバリアでも掛けて突っ込んでみるか? リフレクションもありかもな)
所が、サトウは少し思案した後、風切り丸とショートソードを鞘に納めると、スタスタと歩き出し、なんと扉をノックした。
「夜分に失礼します。今日は話し合いに来ました。よろしければ是非ご挨拶だけでもさせていただければと思いますが如何でしょうか?」
そして一瞬の間が空いた後
「ええ、よろしければその扉を開けて入っていただければ助かりますわ。どうぞ、お茶でもご一緒いたしませんか」
サトウはニヤリと笑い扉に手をかける。
「どうも〜異世界から来ました! サトウでごさいます。以後お見知り置きを」
その扉の中には四人
一人は武器屋の主人、一人は重装備の騎士、一人はローブを纏った男、そして大きな机の向こうには怪しげな紫の長髪をたたえた女が一人座っていた。
「どうぞお座りになって、お噂はかねがね伺ってるわ。ガイ、お茶をお出しして」
武器屋の主人が慣れた手つきで紅茶と思しき飲み物を準備し始めた。
「お互い意地の張り合いが好きなのはよく分かった。だが火事も発生しているようだし、直ぐに衛兵もやって来るだろうから、先ずはお茶を飲みながら話をさせて貰おうか」
「懸命な判断ね。では何か言いたいことがあるのかしら?」
「うむ、残念な事に今回の騒動は全くの誤解では無い。だが少なくとも俺から襲った事は一度も無いんだ。全て自己防衛だったし、アジトを襲ったのは俺では無く蜘蛛の呪詛に囚われた奴等だ。そいつらは俺がその呪詛を解いてやったがな。でだ、出来ればここで和解したいんだよね。ジルとクリスは俺の奴隷だから、譲る訳にはいか無いがね。後はかなり譲歩しても良いんだよな」
「まあ、随分都合の良いお話なのね。実際こちらは手勢を殆ど壊滅させられこのアジトも引き払わなければなら無いのよ? 本当にタダで済むとでも思ってるの? しかもジルとクリスは渡さ無いつもりですって? 話になら無いわね!」
「だろうな! では力づくでお願いしようかな!」
騎士と思しき男が剣に手をかけるのを女が止める。
「……サトウ、本気で私達四人を相手にするつもりなの……」
「いや、逃げるつもりだ。だってお前らなんか使命でも抱えてんだろ? 俺は生き延びるのに必死なだけだからさ、なんならお前らの使命とやらに協力して組織を壊滅させたお詫びがしたいのさ」
そう、既に組織は壊滅している。確かにこの室内にいる四人が中心人物なのは間違いないだろうが、この居座り方はこれ以上人員がいるとは思え無い。スポンサー位ならいくらでもいるだろうが。
「どうせ手詰まりなんだろ?」
「さてどうかしらね。案外伏兵でも潜ませてサトウの隙を伺ってるのかもよ」と挑発的な笑みを浮かべて来る。
「それは無いな。それなら最初の武器屋を出た時に全力で俺を消すはずだ。それが出来ないからなるべく事を荒立てずにケリを付けようとしてたんじゃ無いかな?」
「……確かめてみたい?」
「……いや、遠慮したい。だってまだ奴隷にしたジルとクリスの処女をいただいて無いんだよね。せっかく奴隷にしたのにそれっておかしいよね?」
「……サトウ…あの二人を奴隷にしたの?」
「ああ、ジルは実力で打ち倒したしな。妹は自己申告だが」
するとーー突然リーダーと思しき女が笑い始めた
「ぷっくくくっ! はっはっは! これは驚いた! あの暴れん坊二人を奴隷にしたなんて凄すぎる! そうなの、ならこのまま二人を手な付けてくれるのなら、一つ賭けをしない?」
「ああ、確かに暴れん坊だな。で、賭けとは?」
「お、おい! グレイス! 正気か!」
騎士が慌てて女を止めようとして来た。そうか、グレイスと言うのか。ワザと違う名前を呼んだ可能性もあるが
「そうです。この男を信じるなど、まともな神経とは思えない」
ローブの男は何かを仕込んでるな。魔力が漏れ伝わって来る。なんだ? この嫌な感覚は?
「この男の所為で計画は大幅な変更を余儀なくされたわ。それに話し合いに来たってこのバカは言ってきてるし、殺す気なら何時でも襲いかかって来れるのに、ワザワザ命の危険を犯してまでこのテーブルに着いた。まあ、バカはバカなりな交渉術なんでしよ? それにこちらがやられたのって、無駄に集めた雑兵だし、壊滅したのはジルとクリスの配下でしょ? あいつらがそれでいいならもういいじゃない。それに、その代わりをしてくれるって言うなら、やって貰いましょ」
ローブの男は深い溜息を吐きながら「無駄に集めた雑兵とは言い過ぎだぞグレイス」と呆れ顏だ。
そうかーーこの女は女王様タイプなんだな。う〜ん、是非組み敷いて陵辱してみたいが、先ずはジルとクリスだな。てかバカは余計だ紫頭
すると、紅茶の準備を終えた武器屋の主人が銀盤を持ってやって来た。そして俺をジロリと睨み「この男は最初に間違い無く話し合いをするつもりだったよ。だから最初の争いになった時、剣を鞘に納めてから一人も殺さずに壊滅させたんだ」と吐き棄てる様に言った。不満たらたらなのはあの手勢に関係の深い奴でもいたのだろうか?
グレイスと呼ばれる女は机の中から巻物を一つ取り出して来た。
「私達の目的は言えない。言っても信じ無いでしょうからね。だから出せるのは依頼だけ。しかも貴方は私達が仕込んだ組織を壊滅させたから、これ以上の報酬は出せないわ。それでいいならお試しにジルとクリスに出した依頼と、ボルトに出した依頼、そして貴方が締め上げて再起不能にしたエイガンに出した依頼、これを達成できたら無かった事にしてもいいわよ。こちらも目的は達成できるしね。でもーー時間は無いわよ」
そして悪戯に笑った後「どう? 受ける自信がある」と悪女に相応しい視線を投げかけて来た。
そして「ジルとクリスにご執心みたいだけど、あの二人も曲者よ」と付け加えた。
「元よりこの世界にはなんの縁も所縁も無いからな、取り敢えず受けてみよう。で、その紙を頂いて行けばいいんだな?」
「依頼は簡単じゃ無いわよ。これから連絡はこのグラムがするから、あの汚い武器屋を使いなさい。それとあの宿屋も仲間の一人よ。定宿にするといいわ。料理は中々だったでしょ? まあ、私達の事は知らないんだけど、資金提供は私達がしてるのよね。だからあれほどの騒動を起こしてもちゃんと使えるし、いい部屋に回してもらえるから安心して。そこでジルとクリスを散々鳴かせてやってね。覗かせて貰おうかしらね」と好色な笑みを浮かべている。
「何時でも参戦してくれて構わない。心からお待ちしているよ」
俺は三枚の依頼書を受け取り、部屋を出ようとすると後ろから声が掛かる。
「内容を確認しなくて良いの」
俺はチラリと振り向いて答えた。
「彼奴らが受けた依頼なんだろ、それにリーダーが発注してるんだ。俺なら問題無いだろう。それにこの依頼が気に入らなければ今度は俺がお前らを潰せば良いんだしな。問題は無い。それとジルとクリスの処女は一人づつ奪う予定なんだ。お互いにじっくり調教してから堪能させて貰う。だからあいつら二人はこれでお咎め無しにしてくれると助かる。どうやらこの辺りが地元みたいだしな。俺は何処へなりと消えるから安心してくれて良い。お前らに手は出さ無い」
グレイスは『代わりに俺にも手を出すなと言いたいのね』と思ったが口には出さなかった。そして他の三人もジッと見ているだけでそれ以上は何も言わない。
そしてサトウは何事も無かった様にこの部屋を後にして、燃え盛る屋敷の中を平然と帰って行った。
グレイスはジッとサトウが出て行った扉をみている。
「……グレイス、そろそろ逃げよう。どうせ表の奴等は何も知ら無い寄せ集めだ。これから始末して後を追うから先に抜けろ」
騎士はそう言って甲冑を脱ぎ準備を始めた。目立たぬ様に平服に着替え様としている。
「そうです。先ずは貴方が逃げてくれなければ」
そう言ってローブの男は魔石を一つグレイスに渡すと扉の向こうに視線をおくり
「……あの男、恐らく造作も無く依頼を達成するでしょう。ですがその後ーーどうなさるおつもりですか? まさか仲間に加えるとでも?」
グレイスは首を横に振る。
「それは無いわね。あの男、飄々としているけど曲者よ。それに生粋のトラブルメーカーね。このまま消えてくれても良し、争いにならなかっただけめっけものよ。ねえグラム、貴方ならあの男に勝てる?」
武器屋の主人でもあり連絡者に使命されたグラムは即答する。
「万に一つも勝て無い。恐らくどんな剣士もどんな魔法使えも勝て無いだろうな。あの不可思議な戦術に対応できる奴を俺は想像出来ない。話し合いでケリがつけたかったが、本当はこのまま消えて貰う方が良かったのかもな」
そう言ってグラムは部屋を出て行った。
「……サトウか…」
一言だけ呟くと、グレイスは魔石を使い何処かへ転移して行った。
そして、残った二人はかつての仲間を始末するべく部屋を後にするのだった。




