下書き⑥
コワーキングスペースにいる、という女性を見つけた。喧嘩を吹っ掛けるべき相手はあの人なのだろう。もし、この人について情報を聞き出せたら、この人に喧嘩を吹っ掛けるのもアリかもしれない。
とにかく、早く辞めたい。
一日も早く。
また、今日も原稿が進まなかった。帰ってから食事と風呂を済ませ、寝るまでに少しでも話を進めよう、と思っても、目が滑って集中できない。展開が思いつかない。登場人物が動いてくれない。千字書けたらいい方、というくらいになってしまった。そもそも、座ること自体が辛くなってしまった。小説を書くのは、あんなにも楽しくて、わくわくして、心が躍ったのに。
こんな、死んだような気持ちでは、何も生み出せない。
また一つ、新人賞を見送ってしまった。
こんな生活を終わらせるために、早くあのバイトを辞めないといけない。夢を追いかけることもできない。放っておいたって、夢を諦めなきゃいけない日が来るかもしれないのに。
どんな方法でも、辞められるのなら、何でもいい。
バックレやあのコワーキングスペースにいる女性に喧嘩を吹っ掛けるというのなら、あの黒塗りされた下の言葉が何だったのか、つきとめなきゃいけない。
レビューを荒らして問題を起こすのなら、すぐにわたしだと分かってもらえるように佐々川さん、という人物の情報を集めなきゃいけない。
今分かっているのは、佐々川さんが女性、ということくらいだ。わたしの中にある、境さんの愛人説はちょっと補強されたわけだけど……。でも、境さんって、普通の社員だしな……。
フロントの社員という女性は、佐々川さんの存在にかなりおびえていた。境さんに従って佐々川さんを隠している、というのには、やや、大げさな気がする。
境さんに、そこまでの権力というか、何かしらの力があるようには思えない。わたしはあのフロントの社員の女性と親しい仲でもないので、境さんと何かあるのか、なんて知らないけど。
コワーキングスペースの女に関しては、話を聞ける算段があるし……他にできることは……。
そうだ、あのカフェの新メニュー、あんなのを客に提供しようとしていたんです! って公開したら、炎上しないかな。……しないだろうなあ。あんなの、あからさま過ぎて、逆にただの創作だと、わたしが炎上しかねない。
それに、城宮さんの件もある。
人ひとり死んで、あの対応なのだ。ちょっとした異物混入なんて、きっと大したダメージにはならないだろう。
ああ、早く辞めたい。




