録音音声④
女性1「お疲れ様です」
女性2「お疲れ様です。……えーっと、清掃の横畑さんだっけ?」
女性1「えっ、あ、はい。そうです。ええと……」
女性2「あ、ごめんごめん。私はフロントの和田よ。これでも社員だから、バイトも含めてうちにいる従業員は全員覚えてるの。……そっか、貴女が横畑さんか。境さんが仕事ができる人だって言ってたよ」
女性1「……はあ……」
女性2「このままうちの社員になってくれればいいのにって」
女性1「それは……ちょっと」
女性2「あはは、正直だ。まあ、うち、あんまりホワイト企業とは言えないもんね。私としてはやりがいがある仕事だと思うけど、好きでやってない人間にはちょっとキツいかもね」
女性1「そう、ですね……」
女性2「私はホテル業って、結構楽しいと思うよ? 私、旅行が趣味だからさ、こういうホテルに泊まりたいなー、って理想のホテルのフロントをロールプレイするのが割と好きなんだよね。横畑さんは旅行とかする方?」
女性1「いえ、あんまり……。お金も時間もないですし」
女性2「若いのにもったいない! 年取ったら、旅行するのも大変になっちゃうのに」
女性1「そ、そういうものですかね? ……あの、ところで少し聞きたいんですけど……」
女性2「何々? おすすめの旅行先?」
女性1「い、いえ、そうじゃなくて……。和田さん、は佐々川さんって」
女性2「知らない」
(沈黙)
女性2「……横畑さんさ、それ、もしかしていろんな人に聞いて回ってる?」
女性1「え、あ、あの……すみません。あの、忘れ物日誌に名前があって、でも、シフト表には名前がないから、誰なのかなって、思って……」
女性2「忘れ物日誌?」
女性1「はい。あの、忘れ物の記録を書く……」
女性2「……まだ、あるんだ」
女性1「え? ……あ、もしかして、今度、忘れ物の管理のやり方、変わります?」
女性2「え? あ、ああ……ええと……。ううん、そうじゃないよ。そうじゃないけど……」
(沈黙)
女性2「あのさ、やめた方がいいよ。彼女について聞いて回るの。佐々川なんて、うちにはいないんだから」
女性1「彼女……? 佐々川さんって、女性なんですか?」
女性2「あ――。し、知らない! 私、知らないわよ!」
(バタバタと響く足音)
(乱暴に扉が開閉される音)
女性1「佐々川さんは女性……。やっぱり、境さんの浮気相手……?」
(沈黙)
女性1「ああ、止めるの忘れてた。……2026年3月12日」
(小声で女性がつぶやいた後、女のうめき声のようなものが、かすかに聞こえる)




