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ホテルN旧棟-A203号室の忘れ物  作者: ゴルゴンゾーラ三国


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録音音声③

女性「お疲れ様です」

男性「あ、お疲れ様でーす」

女性「……フロント、の方ですか?」

男性「いえ、カフェとかコワーキングスペースの方のバイトっす!」

女性「そうですか……。……あの、佐々川さんって、知ってます?」

男性「佐々川……佐々川……。うちのとこにはいないですけど、どっかで見た名前だな……」


(沈黙)


男性「あ、思い出した! この間の新メニューのイタズラした人じゃないっすか?」

女性「イタズラ?」

男性「今度カフェの期間限定が切り替わるんですけど、その新メニューのレシピに、変なのが混ざってて。指がどうとか、血液がどうとか、みたいな。いや、普通に考えて、そんなもん提供できるわけないじゃないっすか」

女性「……ああ、確かに。そんなの、見ましたね」

男性「でしょー? ホラーとか、そういうの、好きな人なんすかね? まあでも、なんか言われるの嫌なんで、ぐしゃっと丸めてぽいっすよ。……ほら、城宮さんがこの間、あんなことになったばかりだから。普通に縁起悪いじゃないですか」


女性「城宮さんっていうと……」

男性「……駅で自殺した人です」

女性「じ、自殺、なんですか?」

男性「じゃないですかねえ。城宮さん、真面目でいろんな仕事押し付けられてて、大変だったみたいですし。パートなのに、サービス残業とかもさせられてたみたいで。朝はともかく帰りはシフト上俺と会わないはずの時間帯なのに、普通によく顔を合わせてた時点でちょっとアレっすよね」

女性「……そっちも、そんな感じなんですか」

男性「ここのホテル、どこの担当もそんな感じっすよ。自分は夜から朝にかけてなんでそんな残業とかないんすけどね。カフェとかは朝から人が増えるし、夜もやることって言ったら、カフェの片付けとかコワーキングスペースの管理とか、そんなんだけで一人でも余裕で回る仕事量なんで、残るものもなんもないですし。多分、うちのホテルで一番楽な仕事かも。その代わり、マジで一人なんすけどね」


(沈黙)


男性「……あの、ここだけの話。実は、城宮さんが死ぬときに使った包丁、ここのカフェのキッチンから持ち出されたやつなんすよ」

女性「えっ!?」

男性「だから、警察がちょっと来たりしたんすけど。でも、普通に営業はしてたんですよ、カフェ」

女性「え、ほ、ほんとですか……?」

男性「やばいっすよね! 人がひとり死んでるのに、なーんの配慮もない。ここ、絶対過去にも他に過労自殺した人いても、そのまま営業続けたりしてますよ、きっと」

女性「そんなことあります……?」

男性「絶対そうですよ。いや、実際に自殺した人が他にもいるのかは知らないですけど。でも、城宮さんの対処が対処だから、もしいたら、絶対隠したりして、普通に営業してますよ。終わってますよね、ここのホテル」


(扉が開く音)


女性2「吉松くん、ここにいたの! トイレに行ったんじゃなかったの」

男性「あはは、すみません。ついでに水飲んでおこうかと思って」

女性2「まあいいわ。ちょっとごめん、上の方の皿、取ってくれる? 今いるメンバー、誰も届かないのよ」

男性「はーい、了解でーす。……それじゃあ」


(扉が閉まる音)


女性「……2026年3月10日」


(小声で女性がつぶやいた後、女のうめき声のようなものが、かすかに聞こえる)

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