下書き⑤
それはコワーキングスペースについて文句を言っているレビューである。
城宮さんが亡くなり、ホテルで何か揉め事があったのでは、と調べた際に、コワーキングスペースに居座る女性の問題があったことをわたしは知った。
清掃の従業員はコワーキングスペースのある新館側ではなく、旧館の従業員出入口を使う。しかも、わたしは新館の清掃担当ではないので、新館の方へと足を運んだのは、バイトの面接をするために来たときが最初で最後だ。そのときに、女性がいたかどうかなんて、もう覚えていない。無人ではなかったような気はするが。
なので、この居座り女性の問題は全然知らなかった。共用日報は担当ごとにファイルが違うので、見ようと思わなければ他の担当のものは見ない。清掃担当用の共用日報ですら、早く仕事を終わらせて帰るために流し読みしかしないのに。
閑話休題。
そのコワーキングスペースにいる、という女性がわたしは気になった。
城宮さんが亡くなる少し前の共用日報では、女性の特徴は、左手がない可能性がある、というものだった。両手がない、とは書かれていない。
それなのに、いつの間にか右手が生えている。
勿論、特徴が似ているだけの、別人、という可能性もあるが……。手がない、という特徴なんて、そう被るものだろうか? 可能性はゼロじゃないけど……。
多分、この女性が、喧嘩を吹っ掛ければ辞められる、という女性だろう。喧嘩を吹っ掛ければ辞められるというのは確かなのかもしれない。渡辺さんがそれで辞めた人がいると言っていたし――もしかしたら、その人は、あの辞めるための心得を見て、喧嘩をしたのかもしれない。
――もう少し、あの紙を早く見つけられていたら。あの、塗りつぶした部分も読めたのかもしれないのに。
レビューを荒らせば問題ないか? 実情をばらまいて、わたしが書いたのだと分かるように――そうだ。
佐々川さん、とやらをもう少し調べて、その内容を盛り込んだ、低評価のレビューを連投して荒らそう。境さんにも、渡辺さんにも、佐々川さんについて尋ねている。この名前を出せば、一発でわたしだと思ってくれることだろう。
案外、境さんの不倫相手とかだったりして。それで揉めて、大ごとになったから、それ以降、佐々川の名前はタブーになった、とか。佐々川という人物が、男か女か、分からないけど。苗字でしか見たことないし。せめて下の名前が分かればな……。
それか、こっそり雇っている、わたし以上に労働基準法を無視させて働かせている人物とか。
境さんが知られたくないようなことを突き止めて、ネットの海に放流してやれば、ずっと辞めさせてもらえなかった鬱憤も貼らせる。
一石二鳥。
忘れ物日誌に佐々川さんの名前があるくらいだし、本気で探せば、他にも佐々川さんの痕跡があるかもしれない。
多分。




