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フィガロの攻防

 さあ考えろ。どうすればケフカを倒すことができる。

 まず正攻法では無理。俺は論外としてロックの装備はその辺のダガーだし、ティナの魔法はまだまだ威力に乏しい。何ならケフカにも負けるんじゃないか。

 ならばやはりあれか。フィガロの潜行に巻き込んで砂中に埋めてしまう方法か。実際にゲームではそうなる流れなんだが、あくまでフィガロ城が逃げ切る事を目的としている為ケフカがどうなるかという所までは配慮していない。とはいえケフカが脱出する前にフィガロは潜行を開始していて、その時に起こる流砂に巻き込まれているはずなのに平然と生きている。ケフカは相当しぶとく、運もいい。となれば、事前にケフカに身動きが取れなくなるほどのダメージを与えておき、なす術なく砂中に沈みこませるしかない。

 そんな事を考えている内、城内が騒がしくなり始めた。

 俺は身支度を整え、部屋から出て王座の間へ向かう。そこにロックとエドガーがいた。丁度いい。

「帝国が攻めてくるのか」

 エドガーが驚いた顔をしてこちらを見る。

「鋭いな。その通りだ」

 あなたは一体何者だ。などという問いかけにマランダ出身である事と、今はリターナーに手を貸している事を伝える。それより逃げ切れるのか。俺は問いかけ返すが、エドガーは自信を含めた表情で返答する。

「この城は問題ない。あなたも自分の部屋に戻っていてくれ」

 安全は保障する。と微笑みかけてくる。

 それはそうだろう。この城には砂中への潜行が可能で火をかけられようが完璧に逃げ切れる事ができる機能がある。

 このエドガーの素振りでは、俺はこのままここに残って身を守れと言っているのだな。

 ロックもエドガーと同じ表情で俺を見る。今まで付き合ってくれてありがとう。そんな事を言いたそうな顔だ。

 だが、俺だって今ここでやるべき事がある。

「侵攻してくる帝国軍の指揮官はケフカだろう。あいつをここで始末したい」

 エドガーは眉を潜める。確かにここに向かっているのはケフカだが、始末とは穏やかじゃないな。丁重にお帰りいただくってのは駄目なのかい。一応フィガロは体裁上、帝国の同盟国って事になっている。帝国とて無茶は出来ないと思うんだがね。

 そうじゃない。俺は首を振る。

 あいつを生かしておけば、今後多くの人が悲しい思いをする事になる。それにケフカがいなくなるという事は、帝国が滅びる事と同義だ。

 おいおい、それは言い過ぎだろ。ロックが口を挟む。

「確かにケフカは帝国でも小さくない影響力を持っているけど、あいつを倒せば帝国がなくなるなんて事は無いだろ。あいつは魔道の人体改造者だ。仮にいなくなったとしても、代わりは作れるんだぜ」

 違うんだ、ロック。あいつはイカれているだろう。毒を平気で使ったり、目的の為に手段を選ばない奴だ。何かあってからでは遅いぜ。

 ロックは困惑の表情を隠さない。明らかに俺に同意しようとする気配は無い。

「わかった。ならまずは聞かせてくれ。いったいどんな方法でケフカをやろうって言うんだ。場合によっては検討しようじゃないか」

 時間はないぞ、手短にな。エドガーが諦めたように腕を組む。

 よし、乗ってきた。俺は声を潜める。

「やる事は難しいことじゃない。エドガー、あんたは城内にケフカをおびき寄せて時間を稼いでいる内にロックとティナを逃し、城を潜行させるつもりだろう。その時に狙撃手を忍ばせておき、ケフカの隙をついてオートボウガンを撃ち込んでやるのさ。仕留められなくても暫く動けないようにするだけでいい。後は勝手に流砂に飲まれて地の底だろうぜ」

 うーん。エドガーは唸る。狙撃手は初めから準備する予定だった。だがそれはあくまで不測の事態が起こったときの為で、先制攻撃の為じゃあない。余りスマートな作戦ではないな。

「俺はエドガーに任せる。悪いがティナを逃すことだけに集中させてもらう」

 ロックの言葉にエドガーはため息をつく。

「あってはならないのはティナを帝国に奪われる事。その確率を下げる為なら、ケフカを攻撃する事は有効だな」

 よし、決まりだ。あと俺もティナの護衛に加えてくれ。マランダにいた時に帝国の事はよく調べている。有益な情報を提供できると思う。

 エドガーは少し思案するが、人手は多い方がいいという理由で同行は難なく承諾された。


 あついあついあつい…

「この砂!熱いですよ!」

 砂漠の真ん中でヒステリックな叫び声が響く。

 皇帝の命令を受けてティナを連れ戻す為、フィガロに派兵を命令されたケフカである。

 慌てて取り巻きの兵士がケフカの靴を脱がせて中まで入り込んだ砂を掻き出す。

 もう一人が額の汗を拭い、首元に風を仰ぐ。

 うむ、苦しゅうない。気取ってみるが、暑気が和らぐわけではない。

「脱走した魔導少女の行き先が分かったからって来てみたらこんなド田舎だったなんて。分かってたら来なかったわよ!さあ、とっとと見つけて連れて帰るのよ!もうシンジラレナイ!」

 悪態に次ぐ悪態をつきながらケフカ率いる帝国軍は侵攻する。


 帝国襲来の第一報がエドガーの元に届けられてから半日ほど経っただろうか。ようやくケフカがフィガロ城門まで辿り着いた。

 おやおやケフカ殿。こんな辺境までお伺いいただきまして。偵察か何かですかな。

 門番が恭しく礼をする。

「帝国の少女が一人ここにいるはずだ。さっさと出せ」

 はて、何の事やら。という返答を聞き終わることを待たずにケフカは門番を払いのける。

「つまらん手間を掛けさせるんじゃあありませんよ。ここで匿われていることは知っているんです」

 ズカズカとケフカ率いる帝国兵は城内へ侵入する。

「おやおやケフカ殿。こんな辺境までお伺いいただきまして。偵察か何かですかな」

 応対するのはエドガーだ。もちろんまともに受け応えるつもりなど無い。

 田舎の王様風情が。ケフカは腰に下げた剣を鞘から抜き、切っ先をエドガーへ向ける。

「娘をどこへやった。隠すとためになりませんよ」

 エドガーは首をかしげて額を掻く。

「娘は砂の数ほどいるんでね…何とも」

 ケフカの表情に憤怒が揺らぐ。

「それがフィガロの国王の回答と受け取って良いんだな」

 さっきまでのふざけた空気はここにはない。斬り合うような緊張が走る。

 それはエドガーも同じこと。向けられた剣先に向かって一歩、距離を詰める。

「フィガロは帝国の同盟国ですよ。誠意を以て応対するに決まっているじゃあないですか」

 でも、それが信じられないと言うのなら。

 エドガーの雰囲気も一変する。

「フィガロは帝国と一戦交える覚悟ですよ」

 その凄みにケフカは後すざりする。間合いの離れ始めた剣先はそのまま鞘に仕舞われる。

 むむ、むむ、むむむ!いいのかな、いいのかな。あの時やっぱりケフカ様の言う事を聞いていればよかったなって、聞いていればよかったなって。

「思わせてやる!目にもの見せてやるんだ!放て!火を放て!こんなクズ城、燃やし尽くしちゃえ!」

 突如として見せる癇癪。それを合図にしたように取り巻きの帝国兵が軒並み生気が抜けたような虚ろな表情になる。途端に携帯していた油袋に火をかけ、そこら中に撒き散らし始めた。

 催眠か。恐らくティナと同じようにこの兵士たちにも操りの輪とやらがかけられているに違いない。人を何だと思っていやがる。あいつの提案じゃあないが、今この場でたたき斬ってやろうか。

 そうするのも正解かと思ったが、やはり優先すべきはそれではなかった。逆に再び抜いた剣を振り回してくるケフカから少し間合いをとる。辺りを見渡すが火の巡りが早い。

 対してフィガロの兵士の姿は一人も見当たらない。手筈通り、全員城内への避難が完了したようだ。

 ようし、頃合いだな。

 エドガーは背後を振り返る。視線の先、城の最上部の塔にいる大臣は瞬く間に色めき立つ。

 合点承知。帝国風情が、フィガロの勇姿、とくと見るがいい!

 その声を合図に、城全体が振動を始める。意表を突かれた帝国兵はケフカも含め、立っていられない。

「どうしたケフカ、目にもの見せてくれるんじゃあなかったか」

 エドガーは城外の階段を駆け上がり、離れの塔へ向かう。その間もフィガロ城は内部のあらゆる機構が作動し、まるで砂上に浮かぶ軍艦のように砂を漕いで航行を始めた。

 むぐぐ、一体どうなっているのだ。しし城が動いているじゃあないかっ。軽やかに駆けていくエドガーを追うこともできず、ケフカは為す術なく石畳に這いつくばっている。

「逃げるのですかっ。こここれは滑稽。このケフカ様が怖くて燃え盛る城を捨てて王様が逃げるというのですかねえ」

 今だ。エドガーはそそり立つ偵察台の塔へ視線をやる。

 合図を受けた狙撃手がオートボウガンを倒れ込むケフカに向かって撃つ。放たれた矢がケフカを貫いたかと思ったその寸前、何かに衝突して弾き返されたかのように矢は金属音を立てて落下した。

 エドガーは一瞬立ち止まる。しくじったか。

「駄目ですねえ。この僕を出し抜こうなんて100年早いですよ」

 すかさずケフカの両手から放たれた火炎の球がエドガーに繰り出される。しまった。身を躱すこと適わず、それをまともに喰らうエドガー。

 ケフカは襲撃を予期して防御の魔法を使っていたのだ。とはいえケフカも揺れる足場では体勢を立て直せず、これ以上の反撃は敵わない。

 エドガーは歯を食いしばって身を起こし、どうにか立ち上がる。

「油断大敵って奴だな。授業料と思って受け取っとくぜ」

 じゃあな、道化将軍。塔への渡し通路からエドガーは身を翻して飛び降りる。落下地点には駆け抜けるチョコボがいる。うまく鞍に腰を掛け、手綱を引く。

「どうした、その傷。大丈夫か」

 ロックとティナも合流してチョコボで駆けるが、エドガーの姿を見て驚く。

 だがエドガーは気を使わせまいと、笑顔で応える。

「見くびらないで欲しいものだ。レディの前で無様な姿を見せることはできないからな」

 ブラボー、フィガロ。

 脱出する俺たち。背後でフィガロ城は見る見るうちに砂漠へ沈んでゆく。

 俺はエドガーの姿を見て身震いしていた。

 本編ではこんなシーンはない。脱出したエドガーは颯爽とチョコボを駆るのだ。

 だが一手、俺がオートボウガンでの不意打ちをケフカに浴びせる事を提案したばかりに結果が変わってしまった。

 どうやら致命傷に至るダメージを受けた訳ではないことが不幸中の幸いだったが、ストーリーの改変は全ての結果に影響を与えてしまうようだ。慎重にならなければいけない。

「すまないエドガー。俺のせいだ」

 エドガーは首を振る。下手を打ったのは私だ。

「それよりあのケフカという男、見くびるのはやめた方が良さそうだ。次に機会があれば、もっと慎重に戦うべきだと思ったよ」


 帝国の追跡がない事を確認し、チョコボを止めて休止を取る。とにかくエドガーの治療をしなければ。手際よくロックが手当を行う。

「あの様子じゃあケフカは取り逃がしたようだな」

 多分な。傷薬が滲みるのか、エドガーが顔を引きつらせる。

「ティナがここにいる以上、ケフカは追跡をやめない。戦う機会はいつかまたある。その時はしっかり準備しよう」

 すまなかった。俺はみんなに頭を下げる。

「よせよ。あんたの言う通り、次の戦いに備えるべきだ。しかし厄介な奴に目をつけられたもんだな」

 ロックがため息をこぼす。

「あの人の事は知っているわ。私に輪をかけた人よ」

「それは許せんな」

 手当てを終えたエドガーが身を起こす。

 私もケフカをこれ以上野放しにしてはいけないと思ったよ。

「ところでティナ、君にお願いがある。リターナーの指導者、バナン師に会って欲しいんだ」

 ケフカはもちろん、帝国の目論見を阻止するには、君の力が必要だ。

 ティナは俯く。

 答えられないのだ。当たり前だ。

 俺はティナの心境を知っている。自分の特別な力を誰かに利用される。これまではそうだった。そして、これからもそうして欲しいと要求されている。

 承諾出来るわけがない。本人がそうしたくないと言っている。

 エドガーはそれを理解した上で聞いている。理解しているからロックも止めない。

 帝国と戦う為には、ティナの力は必要なのだ。

「ごめんなさい。私、やっぱり…」

 絞り出すようなティナの言葉をエドガーは諸手を広げて受け容れる。

「構わないよ。でもお私達は帝国から君を守る。守らさせて欲しい」

 ティナは静かに頷く。


 早く戦いを終わらせなければ。

 どうしてこんな少女が戦うか否かで悩まなければいけないのだ。

 俺が何とかする。人知れず、そう誓った。


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