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あいつを倒せば全てが終わる

 ロックに連れられた先は鉱山の外れにある家屋だった。裏口に回り込み、扉を変わったリズムで叩く。恐らく仲間内での暗号なのだろう。だが暫く待つも扉が開く気配がない。どうした。俺の質問にロックは首を傾げる。おかしいな。誰もいないのかな。などと訝しがっているが、こっちはそれどころではない。一刻も早く暖を取らないと、凍え死んでしまいそうだ。何だよ俺、シャツ一枚って。さっさとこの世界の服に着替えたい。

「俺だよ、ロックだよ。誰かいるなら開けてくれよ」

 たまらずロックは中にいるであろう仲間に向かって大声を上げる。程なくして内側から鍵の開く音がする。扉が開かれるや否や、俺たちは屋内へ雪崩れ込む。その様子を楽しげに眺めながら、この扉を開けた男は再び施錠する。

「帝国兵が侵入してきたって事で鉱山自体が過敏になっている。警戒はするに越した事はないさ」

 尤もだけれど何のための暗号だよ、少しは俺を信じろ。悪態を付くロックにカップに入った飲み物が差し出される。そう言うな。御苦労だったな。そう言う男の視線はティナに向けられている。

「この娘がそうか」

 ロックは頷く。確証は無いけどね。少し話を聞いてみないと何とも。

 そうか。男はおもむろに立ち上がり、男はティナへ飲み物を差し出す。寒かっただろう。ゆっくりと休むといい。ティナはカップを受け取り、それをじっと見つめる。

「ありがとう、って言うんだよ」

 俺が耳打ちすると、ティナは不思議そうにこちらを見た後、男に向かって、ありがとう。と言葉を発した。

 ロックと男は顔を見合わせ俺の方を見る。

「ところで、あんたは」

「マランダから逃れてきた。帝国兵がここにやってくるって聞いたんで一泡吹かせてやろうかと思ったが、仲間がやられてしまって」

 男の問いかけに適当な嘘で答えた。マランダから。男は顔を顰める。

「帝国に国を追われたんだな。大変だっただろう。私はジュン。リターナーの一員だ」

 思った通り、マランダは帝国に侵略された国という共通認識は出来上がっているようだ。そこの者であるなら帝国に対する敵対心も持っているだろう、という理解でリターナーであるという素性も明かしてくれる。

「帝国のおかげで散々さ。また当てをなくしてしまった。すまないが、替えの服を貰えないか。この通りボロボロでね」

 洞窟で転げ落ちて服は擦り切れて破れかけ、風雪に当てられびしょ濡れだ。気の毒に思ったジュンは備蓄の衣類をおろしてくれるという。有り難い。好きなサイズを選べと倉庫まで案内された。

「あの少女、あんたの連れという訳ではないんだろう」

 ジュンが小さく耳打ちする。

「知っての通り、あの娘は魔道の力を持つ少女さ。どうやら意識的な帝国の支配から逃れているようだが記憶をなくしている。自分が何者かもよくわかっていないようだ」

 ジュンは驚いてこちらを見る。確かか。切迫した問いかけに俺は頷く。魔法を使うところを見た。そう言うとジュンは少し考える素振りを見せ、ロックの元へ向かう。

「ロック、ここにもすぐに帝国兵がやってくる。お前は急ぎ、フィガロへ向かえ」

 食事の準備に手をかけようとしていたロックは目を丸くする。おいおい、急だな。今の今だぜ。と言ったところで手を止める。

「今、帝国って言った?ナルシェの追っ手じゃあなく?」

 そうだ。ジュンは頷く。ロックは反射的にティナを見る。やっぱりそう言う事か…恐らくティナの素性を理解したのだろう。

 表情一つ変えないティナ。落ち着いた様子で温かいお茶を飲んでいる。

「すまないがティナ、今すぐここを発たなきゃあならない」

 わかったわ。ティナは不平一つ言わずに立ち上がる。佇まいはか細いが、妙な強さを感じる。俺はその姿を見て、追っ手に対して躊躇せずに魔法を放った事を思い出した。こう見えても戦士か。いつでも戦う準備は出来ているって訳だ。

「あんたはどうする」

 着替え終わった俺にジュンが問う。無論、彼らに着いて行く。でないと物語が進まないんでね。

 とはいえ、本当に休みなく出発するんだな。喉まで出かかった愚痴は、何とか引っ込めた。


 誰にも見つからないように再び裏口からこっそりと出発する。

 来た時とは違い、防寒具を身につけ当面の食料も持っている。何だか、旅に出るんだな。妙に俺はワクワクした気分になった。

 鉱山を降りると次第に気候は穏やかになり、険しい岩肌の地帯を抜ける頃には見渡す限りの平原が広がっている。もう防寒着は要らないな。衣服を畳んで仕舞い、代わりに水筒を出して一息いれる。

「こんな景色が続いているのに信じられないと思うが、もうすぐ砂漠地帯に足を踏み入れる」

 ロックが言うには1000年前の魔大戦の影響らしい。特に激しい戦闘のあった地域は今でも魔道の力が浸透していて、こんな風に砂漠になったりするらしい。

「向かう先はフィガロだな」

 俺の問いかけにロックが頷く。フィガロの王はリターナーの活動に理解がある。帝国から追われていると知ればきっと助けてくれるさ。俺はティナを見る。疲れなど感じさせないような涼しい表情を変えることなく、歩き続けている。ティナから話しかけることはないが、道中、魔物に襲われる事があると、率先して防衛してくれる。当たり前だが俺は戦闘はからっきしだ。ナイフ一つまともに扱えない。ティナに感謝しろよ。などとロックに軽口を叩かれる。

 しかし酷いもんだ。ティナの表情は本当に変わらない。帝国で魔導兵器として育てられ、操りの輪みたいな精神操作を受け、これまで戦いしかして来なかった。表情が変わらないのではない。感情を持っていないのだ。

 生まれながらに魔道の力を持つ少女か何か知らないが、余りに残酷な扱いじゃないか。

 とはいえ感情を持てない訳ではない。彼女も心の動きが何なのか知りたがってもいる。何とか幸せな生き方が出来るようになって欲しい。俺はその為ならどんな協力も惜しまない。

「ロック、フィガロの王様はティナを受け入れてくれるかな」

 俺は答えを知っている質問をわざとする。何というか、事前の答え合わせみたいなもんだ。俺の知っているファイナルファンタジーとこの世界が同じ物なのか、どこかで確認をしておきたいのだ。

 心配無用。ロックは笑顔で応える。

「あいつを見たらそんな心配なんて、する方が馬鹿らしいって思えるんじゃないかな」

「どうしたのロック。何か楽しいことでもあったの」

 ティナの言葉、一拍置いて理解する。ロックが笑みを浮かべているので、気分が楽しいのかと聞いているのだ。

「そうさ、楽しいさ。ティナとこうして旅をしている事がな」

 ティナは首を傾げる。構わずロックはティナの手を取る。さあ行こう。フィガロ城はもうすぐだ。


 広大な砂漠の中央にフィガロ城がそそり立つ。

 流石に砂上の行進は堪える。平然な顔をしているロックとティナが信じられない。お前らどんだけタフなんだよ。城門までたどり着くと衛兵が厳しい顔つきで警備に当たっているが、ロックの顔を見るなり、何だお前か、とでも言いたげな表情で道を開ける。

「この城の王様は俺の友達なんだぜ」

 フィガロは表向きには帝国と同盟を結んでいるが、リターナーと協力関係にある。ロックと国王は旧知の仲で、ティナを匿うにはここが最適と踏んだのだ。

 場内を我が物顔で進み、階上からさらに奥へと行く。そこに一際大きな扉があり、中は他の部屋とは雰囲気の違う真っ赤な絨毯が敷かれた広間だった。

 奥に鎮座する豪勢な椅子には長身の男が座っている。

「その娘か」

 王座から立ち上がった男がティナに歩み寄る。ティナは進み寄る男の顔を見据える。まっすぐな眼差しだ。淀みのないその瞳。大抵の男はこれにたじろぐ。この男も例外なくその部類のようだ。

「おっと失礼。まず自分が名乗らないなんて、初対面のレディに対してする態度ではなかったな」

 男は右手を左胸に当て、恭しく礼をする。

 私はエドガー。このフィガロの国王だ。

「フィガロは帝国の敵でしょう。あなたも私の力が欲しいの?」

 歯に絹着せぬティナの物言いに俺とロックはたじろぐ。だが、エドガーは歯牙にも掛けない。

「確かに君には興味がある。もちろん理由がある。まずは君の美しさが心を捕らえたから。第二に、君の好きなタイプが気にかかる」

 魔道の力の事は、その次かな。

 微かに口元を上げウインクをする。ティナは表情を変えずにエドガーを見つめる。少しの沈黙。やがて根負けしたようにエドガーは手で覆った顔を伏せる。

「私の口説きのテクニックも錆び付いたかな…」

 落ち込むエドガーの肩に、ニヤけた顔をしたロックが腕を回す。

 心とかタイプとか、よくわからないけれど、普通の女の子なら何か特別な感情を抱くのね。それが私にはわからない。

「ごめんなさい。私、なんだかよくわからなくて」

 ティナ。ロックが声をかける。君が謝ることなんて何も無い。励まそうとするも、ティナは顔を上げない。

「君の魔導の力を気にしない、なんて嘘は言わない。君をこのフィガロまで連れてきた理由の一つもそれだ。でもエドガーも言ってたように、君と一緒にいる理由は魔道の力だけじゃない。それでも、それでも敢えて言うけど、魔導の力を持っていることも、君の中の一つなんだ」

 ティナは顔を上げる。私は魔法を使うことしか出来ない。それ以外に、私に出来ることがあると言うの?

 もちろんさレディ。

「私なら君の全てを受け入れよう。ああ、君とずっと話していたいが大臣たちと作戦を立てなきゃならない。王様の辛いところさ、失礼するよ」

 颯爽と背を向けるエドガー。ティナは振り返りその背を見つめる。

「変な人」

 正解。あれで王様なんだもんな。

「ティナ、今は深く考えないほうが良い。道はいずれ見えてくるから」

 ロックの言葉が聞こえたか、エドガーは背中越しに人差し指を掲げた手を挙げて大きく首を頷かせる。

 やれやれ。こっちがヒヤヒヤするぜ。

「ティナ、君はやっぱり自分の持つ魔道の力を誰もが欲しがっている事は理解しているんだな」

 俺は敢えて言葉にして確認しておこうと思った。

「私は生まれながらに魔道の力を持つ兵士。帝国には他に魔法を使えるようにされた兵士はいるけれど、私より弱いわ。私がいなくなったから帝国は私を追うし、あなた達は私の力が欲しい。もちろん理解はしているわ」

 淀みなくティナは答える。

「記憶を無くしたと言っていたから、俺たちはてっきり自分自身の存在すらも忘れてしまっているのかと思っていた」

 ごめんなさい。俺の言葉にティナは謝罪する。はじめから分かっていたわけじゃないの。ここまで追っ手や魔物との戦いで魔法を使う度、自分がどういう存在なのかは思い出してきたわ。でも…ごめんなさい。

 ティナは重ねて謝罪する。これ以上は俺もロックも押し黙るしかない。

 私はもう、戦いたくない。

 彼女はそう言っているのだ。


 本日はごゆっくりとお休みください。

 城内で歓待を受け、有り難く頂いた言葉通りに俺は思うままに飲み、食い、風呂で旅の垢を落として床についた。

 ここまであっという間だった。

 ナルシェで帝国の支配から逃れたティナをナルシェのガードと帝国兵から匿いつつフィガロに逃れる。

 物語としては序盤も序盤。けれどもティナが自分の存在が各組織のパワーバランスの要になっている事を自覚していることに驚いた。帝国に戻る事は無いとしても、だからと言ってリターナーに手を貸す訳では無い。まあこの辺りはティナが本当の自分の正体に気付かなければ決断できないからしょうがないもんな。

 さて。この先だ。

 もうすぐティナを捕らえるために帝国がフィガロに侵攻してくる。指揮をするのは将軍ケフカ。悪の元凶だ。

 もしも今ここでケフカを亡き者に出来れば誰の身にも何も起こらない。

 けれども俺たちにはもちろんフィガロにも帝国軍を殲滅できるだけの戦力は保有していない。

 だからと言ってこのチャンスを見限るのか?何のために俺はここにいる?

 そうだ、何のために俺は今ここにいるのだ。

 そう考えると急に頭が冷静になってきた。さあ考えろ。何とかしてケフカをやるのだ。今、ここで。

 そして手にするのだ。ファイナルファンタジー6のハッピーエンドを。

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