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自由な空の下  作者: 月陽
第十章 熟慮断行
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晴れゆく心


 エレオノールと就寝の挨拶をした後部屋へと入ったが、どうも娘の様子が気になりそっと部屋を出た後、彼女の部屋へと向かった。

 そして話し声が聞こえてきた。

 その相手はあの不思議な精霊であろうフィオリトゥーラだ。

 扉の前で二人の話を聞いていたが、途中からフィオリトゥーラは攻めているわけではないけれど、エレオノールにとってはとても痛い言葉を言われていて、言葉に詰まっている娘を直ぐにでも抱きしめてそんな風に思っていないと伝えたかったが、フィオリトゥーラは間違ったことを言っているわけでもないのでぐっと我慢した。

 娘の本心は違っても、そう思われても仕方のない行動を取ったのもまたエレオノールなのだ。

 だが、親としては娘がこれ以上傷つくのは見ていられず、頃合いを見て部屋へと入った。


 椅子に座り、改めてフィオリトゥーラと対峙するも、フィオリトゥーラは笑みを浮かべたままで、オードリックは少し睨むようにフィオリトゥーラを見ている。



「ふふっ。エレちゃんは大切にされているから安心ね」

「そう言いながら何故娘に対して意地悪なことを仰るのです?」

「あら。心外だわ。私はエレちゃんの分かっていない気持ちを分からせようとしだけよ。そして、憂いなくエレちゃんの進みたい方への道標になっただけ。私の可愛いエレちゃんを私が虐めるなんてしないわ」

 

 

 全くもって心外だと言わんばかりに肩を竦めエレオノールを見ると、ぎゅっと目を瞑った後、何かを決心したように、オードリックを見詰めると、その視線を感じたのか彼はフィオリトゥーラから娘に視線を戻した。

 その目は先程までの剣呑な感じは一切なく、慈しみを持った温かい目をしていた。

 その視線を受けて、少しだけ肩の力を抜くと、またぎゅっと目に力を入れた。

 

 

「お父様、私……お父様のこと、信じてないわけじゃないんです」



 二人の視線を感じて少し居心地が悪い。

 けれど、今話さなければならない気がして、どのように思われるかも分からないけれど、勇気を出して続きを話す。



「私のせいで迷惑をかけたくないんです。私のせいで、お父様達が悪く言われることも嫌なんです。今も色んな噂があるのに、お父様の元に戻ればより一層酷くなるだろうし、私がお父様達の弱点になりたくありません」



 まさかエレオノールがそのように考えているとは思わず、一瞬言葉を失った。


 

「成程。エレンの考えは理解した、そしてその懸念は杞憂だ」

「杞憂?」

「あぁ」



 エレオノールは目を伏せた。

 きっと自分は自惚れていたのだろうと。

 弱点になり得ることはないという意味だと思い落ち込んだ。



「エレンはまた何か見当違いのことを思ってないか?」

「……見当違い?」

「そうた。私が杞憂だといったのはなにもエレンに価値がないとかそう言う話ではない。そもそも貴族達が好き勝手に噂するのは放っておけばいい。噂するような暇人は何も我々の事だけではなく、良くも悪くも色んな噂を好むのだ。それに、私の娘を面白おかしく悪し様に話すような輩は皇家を貶めようと画策する一部の者だろうから逆に分かりやすくていい」



 言わせたい奴には言わせればいいとにやりと笑うオードリックは冷徹なる皇帝の名にふさわしい程冷たい冷笑を浮かべていた。

 エレオノールはそのような父の父の姿を始めてみたが、怖がるどころか驚いていた。

 娘が驚いたのを見て、直ぐに「怖がらせたか」とその表情を引っ込めていつもの父の顔に戻っていた。



「それに、エレンはそんな輩に気を揉む必要はない。堂々としていればいい。そうすれば自ずと馬鹿な噂は風化する。エレンは皇族の末の姫なのだから、下の者の勝手な噂話など、上に立つ者として噂は噂なのだと堂々としていればいい。いつものエレンでいればいいんだ」

「いつもの私?」

「あぁ、そうだ。いつも堂々としているだろう?」

「いつも?」

「無自覚か」



 小さく呟いたと思ったら面白そうに笑いだした。

 笑っているのはオードリックだけではなく、フィオリトゥーラも可笑しそうに笑っているのを見て、自らの行動を振り返る。

 目をつぶってうーんと思い返してみると「あっ」と声をあげた。

 

 

「堂々としているか分かりませんが、あれはお父様達じゃなくて、私自身の噂だからです」

「何が違うんだ?」

「全然違います! 私自身の事を言われてもどうでもいいです。けど、私を通してベルトラン(お父様)達の悪口を言っている人や、大公家を貶める発言をしている人がいるのは私のせいだから……迷惑がかかるから嫌なんです」

「うん? 結局一緒じゃないか?」

「違います」

「私からしたら一緒だ。さっきも言ったがエレンは堂々としていればいい。エレンの気持ちは嬉しいが、些末な事なんだ。というよりも、精査するまでもなく、自分達から疑わしいのだと発信してくれているから助かる。だからね、エレン。噂など、放置でいいんだよ。その噂が私達の情報源でもあるんだ。勿論何も考えずに噂する物好きもいるのも事実だ」

「私の噂で、皆の迷惑にならない?」

「あぁ。ならない。不安だったら何度だって言おう。噂ごときでは私達の足枷にもならない」

「本当に?」

「本当だとも」

 

 

 ちらりとフィオリトゥーラを見ると、柔らかく見守っており、オードリックに対して特に嫌悪等の感情は抱いていないようだ。

 という事は、本心なのだろう。

 

 

「エレン、大丈夫だから。ジュリの事はそう簡単に許さなくてもいいが、少しずつ歩み寄ってくれたらいい。自分の非を認めているのだから、少しはエレンの痛みを知ったらいい」

 

 

 オードリックがそういうのが以外で驚いた。

 彼は子供に対し、というかジュリエットに対してとても甘いのだと思っていたからだ。

 エレオノールのその視線の意味を理解して苦笑した。

 

 

「ただ子供に甘いだけではないよ。間違った事をすれば叱るのは親として当たり前だ。ただ可愛いからと甘やかしてばかりだと、大人になると取り返しがつかなくなる」

 

 

 叱る時は叱る、親として当たり前の事だとオードリックは話した。

 エレオノールも叱られるときは叱られるので、甘いだけじゃないと分かりほっとしたのと、今迄の心に引っ掛かっていたもやもやした気持ちがいつの間にか薄れているのを感じて力が抜けたというか、軽くなった気がした。

 

 

「お父様は……」

 

 

 エレオノールの雰囲気が少し変わった事に気が付いたオードリックは微笑んでエレオノールの呼びかけに先を促す様に頷く。

 

 

「私の事、どう思っていますか?」

「私の可愛い娘だよ。可愛くて強くて頼りになる、けど少し弱い愛すべき娘だ」

 

 

 急に突拍子もない事を聞かれたが、オードリックは間を置かずに答えた。

 その答えを聞き、嬉しそうに、けれどどこか照れ臭そうに微笑む。

 

 

「お母様達は、その……私の事をどう思っているのでしょうか」

「それは本人に確かめなさい。けど、これだけは言えるよ。サンドラはエレンの誕生日に合わせて部屋を毎年整えている。エレンの身長に合わせて家具を入れ替えたり、ドレスを誂えたり……それはエレンがいなくなった日から今までずっと欠かさずに行ってきている。いつでも愛しい娘が戻ってきてもいい様にと、不便がないように、愛情がたくさん詰まった部屋を用意して、エレンが戻ってくるのを待っているよ」


 

 まさかいつ戻るとも分からない娘の為に、そこまでの事をしているとは思わず驚きを隠せないでいたが、その言葉はエレオノールに深く響いた。

 

 

「ノルベールお兄様は……」

「ノルは、妹を護る為にと日々の訓練を欠かさずに行っている。剣に関しては騎士団長も驚くべき程に上達をしていると言っていたな。魔術に関してはエレンには敵わないだろうけど、ノルもそれなりに強いよ」

 

 

 一緒にいた時間は少なく、ノルベールの実力は分からないけれど、彼は皇族として護られることにも慣れているのだろう。

 エレオノールは一度口を開けて、閉じた。

 ノルベールの事を聞いた後、ジュリエットの事を聞こうか迷って、口を閉ざした。

 それに気が付いていたがオードリックは特に何も指摘する事なく娘を見守る。

 少しの沈黙が続き、迷った挙句、ジュリエットの質問に及ぶことはなかった。



「あの、大叔父様は私の事……」

「嫌ったりはしてない。寧ろ溺愛しすぎるくるいだ。エレンが大公邸から姿を消したと私の元へ報告に来た時の様子は前皇帝の懐刀の名が泣くほど慌てていて側近達が驚いていた程だ」

「本当に?」

「あぁ。お前を心から心配している。嫌われることはないから安心しなさい」



 その言葉にようやく力を抜いた。

 ただ、その後に戻れば小言はあるだろうからと言われた。

 

 

「エレン、夜もだいぶ更けているが眠くないか?」

「え? あっ! ごめんなさい。私のせいで遅くまで……」

「謝る必要はない。大事な娘の事だから、少しくらい寝なくても平気だ。それに、仕事で遅くなることもあるから慣れている」

 

 

 オードリックの話では寝ない日もあるというからエレオノールはばっと立ち上がり、オードリックを引っ張って「ちゃんと寝てください」と部屋へと連れていく。

 その可愛らしい行動にオードリックは嬉しくて逆に眠気に襲われるよりも目が冴えた。 

 部屋への中へと入り、ベッドを指さしてちゃんと休むようにと促す娘に対し、オードリックはまさかの提案をした。



「エレン、今日は一緒に寝よう」

「…………え?」



 ぽんぽんっと隣をたたき、こちらへおいでと言わんばかりにエレオノールを誘う。

 呆然と立ち尽くすエレオノールが可笑しくて可愛くてオードリックの顔は緩みっぱなしだが、エレオノールは顔を真っ赤にして「一人で寝てください!」と部屋を凄い速さで出て行ってしまった。

 取り残されたオードリックは残念に思いながらもその可愛らしい行動に笑いが収まらず、だからと言って声を出して笑えばきっとエレオノールは怒るだろうと声を殺して笑い続けた。

 終始見守っていたフィオリトゥーラは手の掛かるエレオノールと親であるオードリックを見定める為に側にいたが、いつの間にかそっちのけで二人の仲の良い会話をしていたことに安堵の笑みを浮かべふわっと姿を消した。

 

 翌日の朝、エレオノールはいつも通り起きだすと、オードリックが休んでいた部屋に彼の気配がない事に焦り、慌てて一階に下りた。

 もしかして朝食を作っているのではと慌てたが、厨房にはおらずに首を傾げるていると、外から鋭い風を切る音が聞こえ外に出てみると、ラフな格好で剣を振るっていた。

 その姿に見惚れていたらエレオノールに気が付いたオードリックに声を掛けられた。

 

 

「エレン、おはよう。早いな」

「おはようございます。お父様こそ早いです」

「私のは日課だな。この時間帯が一番自由に出来るんだ」



 時間は五時半過ぎ。

 一体何時から起きだして体を動かしていたのか、オードリックはかなり汗をかいていた。

 朝の早い時間といえど、季節は夏なのでこの時間だろうと暑いくらいだ。



「リディも一緒にどうだ?」

「いいのですか?」

「勿論だ」

 

 

 父の誘いに嬉しくて、剣を取りに部屋へと戻る。

 直ぐに訓練できる服に着替えて剣を持って外に出ると、休憩をしていたようでエレオノールが来たのに気が付くとすっと立ち上がった。

 先ずは軽く体をほぐしてからオードリックと軽く打ち合いをすることになった。

 

 

「エレン、遠慮せずにどこからでも来なさい」

 

 

 初めて父親と訓練を共にする今の状況にエレオノールは興奮を抑えられなかった。

 じっとオードリックを見据えるも、隙がありすぎて逆に怖い。

 何処を狙っても全て受け止められそうで狙いどころが難しい。

 見極めようとしているエレオノールに対し、オードリックは面白そうに口角を上げていた。

 

 

(報告では魔術の方が得意と聞いていたが、これは剣を使っても中々だな)

 

 

 その見立て通り、エレオノールの剣の腕前は中々のものだった。

 同年代の男子に混ざったとしても圧倒的に強いだろう。

 

 

(実に頼もしいな)


 

 エレオノールの攻撃をいなしつつ余裕で考え事をしていたオードリックはあっさりとエレオノールの剣を弾き飛ばした。

 

 

「……お父様、強すぎ、ます」

 

 

 肩で息をしながら負けて悔しくて小さく呟いたが、オードリックには聞こえていて笑われた。

 

 

「娘に負けたとなってはエクラタンの皇帝としての名が泣くな」

 

 

 確かに娘に負けたとなっては皇帝としての威厳もあったものじゃない。 

 まだまだいけると構えるエレオノールを見て、ふっと面白そうに笑みを深める。

 何度対戦してもあっさりと負けるエレオノールは本当に悔しそうに「もう一度お願いします!」と負けん気が強い。 

  

  

「エレン、再戦はいいが、そろそろいい時間だ。先に朝食にしないか?」

「あっ」



 夢中になっていたのかすでに陽は高く、空腹を自覚してくぅと可愛らしくお腹が鳴ると、オードリックは笑い「ほらな」と家の方へ促されて、きっと顔は真っ赤だけど大人しくついていった。

 


ご覧いただきありがとうございます。


次回も楽しんでいだけたら幸いです。

よろしくお願いいたします(ꈍᴗꈍ)


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