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自由な空の下  作者: 月陽
第九章 心機一転
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避けたい話題

 

 リュシオルは朝から大公家の仕事を行っている。

 今日はシルヴァンが皇子達の視察に同行し、護衛も担っているという事も有り、リディアーヌが起きてくるのを待っている間に出来ることを終わらせておこうと書類を捌いている。

 

 

「うちのお姫様はまだ寝ているのかな」

「先程エヴァに様子を聞きましたが、まだお眠りのようです」

「昨夜遅くまで起きていたからね。今日は自分から起きてくるまでは寝かせておいてあげて」

「畏まりました」



 既に昼前ではあるけれど、昨日の調査と激しい戦闘に昨夜のリュシオルとの会話に疲れたのだろう。

 眠れないと言っていたけれど、よく眠れているようで一安心だ。

 リディアーヌが起きてくるまでにこの書類の山を片付けておこうとまた手元に視線を落とした。


 リディアーヌは夢も見ずによく寝ていた。

 時々エヴァは様子を見に来ていたが、顔色も良くぐっすりと寝ているので安心して部屋を後にする。

 既に日は高く、正午を過ぎていた。



「ん、んー……」



 そろそろ起きそうな、リディアーヌは身じろぎ寝返りを打つ。



「う~ん…………」



 リディアーヌは ぼんやりと目を開けまた閉じたけれど、時間を置かずに目をぱちぱちとし、うーんとベッドの中で伸びをする。



「…………あっ!」


 

 暫くぼんやりとしていたが、急に声を上げてがばっと起き上がる。

 今何時なのか慌てて時計を見ると、すっかりお昼を過ぎていて慌ててベルを鳴らす。

 時間をおかずしてエヴァが部屋へと入ってきた。



「ごめんなさい! 寝過ごしちゃった!」

「おはようございます。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。若旦那様から起きるまで寝かせてあげなさいとの指示でしたので」

「シオルお兄様が?」

「はい。ですからゆっくりなさっても叱られませんよ」

 

 

 昨日眠れないと話していたからきっとゆっくりさせてくれたのだろう。

 取り合えず目はぱっちりと覚めたので、顔を洗って身支度を済ませる。

 軽く軽食が準備されたので食べながらこの後の予定を聞くと、昨日の報告をリュシオルにしなくてはならないのだけど、それをティータイムの時間帯にする事となった。

 時間的には後一時間半くらいあり、ゆっくり過ごす様に言われたけれど寝すぎたせいか体が固まっている気がする。

 エヴァに庭園を散歩することを伝えて部屋を後にする。

 屋敷の中だから一人で出歩いても何も言われないから楽だ。

 外に出ると、未だ真昼間なのでとても暑い。

 エヴァに持たされた日傘をさして日陰を見つけてそこで一休み。

 暑いけれど、風が吹いていて心地いい。

 あれからよく眠れたおかげですっきりと目が覚めることができた。

 昨夜は疲れていてからあんな些細なことで悩んでしまったのか、今は然程気にならなかった。

 しばらく陰でぼーっとしていたけれど、また散歩を再開した。

 散歩と言っても大して時間は進まなかったが、少し歩きだけでも体が軽くなった気がする。

 冷たい果実水を飲んで一息ついたあと、少し早いけれどティータイムを行う場所へと向かった。



「おはよう。よく眠れたようだね。顔色もよくなって安心したよ」



 早く来すぎたのに既にリュシオルが待っているのは何故だろうか。



「おはようございます。お兄様、私遅すぎましたか?」

「そんなことないよ。私が早くからここにいだけだから気にしないで」



 そう言えば昨日シルヴァンからリュシオルに叱られるようにと言われたのをふと思い出したが、昨夜叱られなかったところを見ると大丈夫かな、と少しほっとした。

 卓上に美味しそうなスイーツが並べられた。

 さっき軽く食べたばかりなのにまだ食べたいなんて、余程疲れているのだろうか。

 じっと美味しそうだからと見つめていたら目の前から笑い声が響いてきた。



「そんなに見つめてないで、食べていいよ」

「ありがとうございます!」



 エヴァに取り分けてもらい早速パクリと食べる。

 今食べたのはパイ生地の間にクリームと新鮮なぶとうをサンドしたプチケーキだ。

 一口サイズだから食べやすく、口の中で果汁が広がりとっても美味しい。



「食べながらでいいからお兄様と少しお話しようか」



 リディアーヌはお口の中がなくなってから「はい」と返事をした。

 話というのは昨日の出来事。

 シルヴァンから報告を受けているが、今はリディアーヌ視点、言わばリディアーヌの知識からみた報告が欲しかったのだ。

 途中経過は省き、あの竜種もどきを作ったのは禁術だというのはローランからも報告を受けているようなので話が早かった。

 あれが構成されていたのは人、竜種に近い魔物、単純にこの二種だ。

 二種だといえど、たったの二体であれだけの規模を造り出すことは不可能で、禁術の贄にされた数はこちらが思っているよりも多いだろう。

 正確な人数までは分からなかったし知りたくもないのだけれど、あれだけの魔力、個体を造りだすには魔力の高い人が贄に使われているはずだ。

 ここから分かることは、人身売買を行ったり誘拐したりする連中が高い魔力を持つものを拐かす理由がここに通じるのかもしれない。

 それだけではないのかもしれながら、それも理由のひとつだろう。

 リュシオルは冷静にリディアーヌの話を聞き、リディアーヌから見ての質問し、最後は竜種もどき(あれ)を構成していた魔石についての質問に及んだ。

 禁術で造られたものは必ず核となる魔石が存在する。

 そこの刻まれた魔術陣はとても複雑で昔よりもその精度が上がっていることを考えれば、ルーセルが死んだ後も更に禁術を研究し造りだし続けた者がいるということ。

 リディアーヌが見た核は既にリディアーヌ自身で核を割った後だから完璧な陣を見て覚えたわけではないけれど、何となくなら分かるが、リディアーヌとて禁術の知識があっても使ったことはないから全てを理解しようと思ったら調べる必要があるので、今答えられることは少ない。



「禁術で編み出されたものは初見で分かるのかな?」

「何と掛け合わされているかにもよるかと思うのですが、気配や魔力の質、単純に見た目に特徴が出ることもあります」

「前に捕らえた者がそうだね」

「はい」



 以前、リディアーヌを誘拐しようとした者は目が異常だった。

 そのように見た目ではっきりとわかるものもいるので、よく見たら分かるだろう。



「リディに頼みたいことがあるんだけど、時間がある時で構わないから禁術の魔術陣の解析をお願いしてもいいかな?」

「あの魔術陣を覚えていますけど、かなり時間がかかりますけどいいですか?」

「あぁ、自分の時間を優先的に、空いている時に片手間でいいよ」

「分かりました。 出来る限り頑張ってみますけど……」

 


 リュシオルが禁術を乱用したり悪用したりすることはないだろうけれど、じっと見つめているとリディアーヌの考えている事が分かったのか、安心させるように微笑んだ。

 

 

「リディの心配も分かるけど、悪用はしない。私の命をかけてもいいよ」

「お兄様、軽々しく命を掛けるなんて」

「そうでもしないとリディは納得できないでしょ。その危険性を知っているのだからね」

「だからって、それはダメです」

「ふふっ。だったら、リディもあんなに無茶なことをしたらダメだよねぇ」

「え?」

 

 

 リュシオルにじっと見つめられて、いつもと同じ笑顔のはずが怖くて、昨日シルヴァンに『明日兄上にたっぷりと叱られておいで』と言われてい事を思い出した。

 

 

(もしかしたらそちらに誘導された!?)

 

 

 リディアーヌは顔を青褪めさせた。

 それだけリュシオルの圧が凄いからだ。

 

 

「私に命を掛けるなというなら、リディもあんな無茶して体に大きな傷を負って沢山血を流して……どういうことなのかな?」

「そ、それは、急に皇女殿下が現れたから助けただけで……」

「そうだね。それは褒められることだよ。けどね、リディだったらもうちょっと上手くできたんじゃないかな?」

「既に魔術を構築していたから直ぐには変換できなくて……それで」

「咄嗟に自分の体で護ったと」

「はい」


 

 ずっと変わらず笑顔で話しているのが余計に怖くてしろどもどろになってしまう。


 

「それで?」

「え?」

「リディがあんなに大怪我を負って私達が心配しないと思った?」

「それは……」

 

 

 正直戦っている時は集中しているからそこまで考えていないし、怪我をしたとしても止血は自分でできるし簡単な治癒ならできる。

 それに戦うのならば怪我はつきもので……。



「その顔は何も考えていなかったんだね」

「……はい」

「まぁ何にしても誰かと戦うのならば怪我はつきものだしリディが何を言いたいかもその顔を見れば分かるよ。けどね……リディは過去の事を覚えているのに、大事なことが抜け落ちているよね」

「大事な事?」

「そう、大事な事。過去をほじくり返すようで言いたくないんだけど、リディは、ルーセルの時、師匠の前で命を落としたと言っていたよね。その時の師匠の顔を覚えている?」

「あ……」



 そうだ、あの時師匠は泣いていた。

 それは今もはっきりと覚えていて、目を閉じると今でも鮮明にその時の光景が脳裏に浮かぶ。

 流石にリュシオルが何を言いたいのか、何を想っているのかを感じ取り、リディアーヌは肩を落とした。



「心配をかけてごめんなさい」

「謝ってほしいわけじゃないんだよ。調査をお願いしたのは私達だけれど、リディには自分を大切にして欲しいんだ。リディの戦い方は自分を犠牲にしているように思えてならない。人を上手に使うことも覚えないと。リディは立場的に指示を出すことに慣れないといけないよ。自分で動いた方が早いと思っているのかもしれないけれど、それだと周囲の者達が成長出来ない」



 リュシオルの言っている事が図星過ぎて益々縮こまる。

 人にいうよりも自分で動いた方が早いと思っているからだ。

 今の自分はまだ子供だけれど、記憶がある分動けるし魔術の扱いもそれなりに出来ると思っている。

 実際動けるから動いてしまう、といった方が正しいかもしれないが……。

 けれど、以前の様に家族にあのような表情をしてほしくないのでより一層強くなるか、リュシオルが言ったように人を使う事を覚える事に努力しなければならない。

 心の奥では自分が強くなることが一番早いと思っているけれど、それでは同じことの繰り返しになるだろうことは安易に想像できてしまう。

 

 

「というわけで、リディが療養を言い渡されている今、そっち方面の教育をすることにしたよ」

 

 

(そっち方面?)

 

 

 行き成りすぎて追いつけずに首を傾げるとリディアーヌの表情が面白かったのか笑いながら補足した。

 

 

「さっき言ったように、人を上手に使うための教育だよ。座学をみっちりと、ね」



 可愛らしく……いや、二児の父に向って可愛らしいというのもおかしな表現だが、年齢よりも若く見え見目麗しく整っているリュシオルは、今の様に「ね」と微笑むと可愛らしいという言葉が似あうのだ。

 面と向かってそれを口にする勇気はリディアーヌにはない。



「皇都の屋敷に戻ったら早速始めるからね」



 今度は逃げる事は許さないとばかりに圧のある微笑だ。

 


(やっぱりシオルお兄様を怒らせるのは怖い)



 リュシオルの言葉にリディアーヌは静かに頷いた。

 叱られるというより諭された感じもしなくもないが、叱られた後はこちらに来てからの事を話していたのたけれど、何となく裏を感じる。

 リディアーヌが少し警戒しているのを感じ取ったのかにっこりと微笑まれる。



(ますます怪しい……)

(警戒している姿も可愛いなぁ)



 二人は正反対の呟きを心の中で漏らす。

 にこにこにこと笑うリュシオルに、何を考えているのかと探るようなリディアーヌ。

 対照的な二人の静寂を破ったのはフォルスだ。

 今回こちらに来た気も、シルヴァンとエルネストの二人の不毛な争いを止めたのもこのフォルスだ。



「若旦那様。あまり意地悪されるものではありませんよ」

「酷いなぁ。別に意地悪をしているわけではないよ」

「ですが、お嬢様には不信感をお与えになられているのですから、その内本当に嫌われてしまいますよ」

「リディは私の事嫌わないよ、ね?」

 

 

 リディアーヌはリュシオルに応えず曖昧に笑うと「え?」という珍しくうろたえる。

 そしてプイっと顔を逸らされると明らかに動揺した。

 

 

「え、え? リディはお兄様の事嫌いにならないよね?」

「…………あまり意地悪されると嫌いになるかも」

「お嬢様、おかわり如何ですか?」

「いただきます」

 

 

 うろたえるリュシオルを尻目にフォルスがお茶のお代わりを淹れてくれる。

 

 

「若旦那様は如何ですか」

「……もらうよ」


 

 しゅんと落ち込むリュシオルはフォルスが淹れた美味しいお茶に少しばかり復活すると、改めてリディアーヌをそっと窺う。

 

 

「リディ、意地悪したんじゃないからね」

「意地悪じゃなくて、……昨夜の話の続き、ですよね?」

「おや、気付いたの?」

「気付きたくありませんでした」

 

 

 リディアーヌはフォルスが出してくれた桃のタルトケーキをつつきながら答えるのを見て、リュシオルは表情を曇らせた。

 

 

(そんなに皇女と関わるのが嫌なのか。思ったよりも重症かもしれないな) 

 

 

 リュシオルはどうしたものかと考えていると、折角リディアーヌとの久々の時間に邪魔ものが入った。

 部屋を訪れたのはエドガールで、リディアーヌ達が捕らえた者達がようやく口を割ったようでその報告だった。

 リディアーヌは当事者だけれど自分がいては邪魔になるかと気を使って部屋を辞した、基い逃げた。

 あの者達の事が気になっているはずなのに逃げるなんて、よっぽどあの話題を避けたいらしい。

 あまり詰めすぎても良くないから、これでよかったのだろうと、今はエドガールの報告へと耳を傾けた。 

 

ご覧いただきありがとうございます。


次回も楽しんていただけたら幸いです。


よろしくお願いいたします(ꈍᴗꈍ)

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