決着
魔術陣が解かれ、竜種擬きを縛っていた鎖が消えていき自由になった途端、大きな咆哮を上げた。
耳をつんざくけたたましい咆哮に騎士達は怯み後ろへ下がりそうになるのをそうになるのをぐっと耐え凌ぐ。
ローランは直ぐに足止めの為に足元から木の枝が蔦のように伸び、足元を絡めていくのを確認し、リディアーヌは剣に魔力を流していく。
あの咆哮を耐える事が出来るならば戦力になるだろうが、これからが本番だ。
完全にこちらを敵認定したのか首をこちらに向け進もうとするが、ローランが足を地面に縫いつてている為直ぐに動けずにローランが目を付けられた。
ローランの側にエドガールとナザールが付いているので彼等が気を逸らそうとしているが、その視線の先はローランしか映ってないように見える。
思ったよりも頭がいいようだ。
ぐっと一歩を踏み出そうとするが、ローランの魔術でしっかりと縫い付けられている為動けないのを忌々しそうに羽をバタつかせる。
その風圧で飛ばされそうになりながらナルシス達は耐える。
どう攻撃していいか見極めようとしていた。
あまり時間を掛けるとこちらが不利になりそうなので早々に片を付けたい。
こちらが様子を伺っているのを感じ取ったのか低い唸り声と共に口の中で大きな力の塊が凝縮させているのを感じ取り、リディアーヌは魔術も仕えるナザールに合図を送ると彼は態と大きな動きをして注意を引くと、ローランから今度はナザールに視線を向けぐっと目を細める。
そしてナザールに向けてその口を開いたと同時に衝撃波が彼に向かって放たれた。
それを防御魔術を展開して防ぐ。
「ぐっ、なんていう威力……」
その力は強く、押されないようにと踏ん張る。
リディアーヌはその隙にすっと竜種擬きへ近寄り翼を切り落とそうと魔力を纏わせた剣を振り下ろすが、気付かれたようで翼をばさりと羽ばたかせる。
「お嬢様!」
ナルシスが心配してくれるが、リディアーヌは冷静に体制を立て直す。
これも予想済みだ。
そして間髪入れずにもう一度今度も下から振り上げるとザンッという小気味いい音と共に片羽が胴から離れると、砂のようにさらさらと消え去った。
(やはり完璧じゃない)
禁術を使っているとはいえ、それが未熟ならばちゃんと形を形成されなくてこうして砂のように跡形もなくなるのだ。
片羽を失った竜種擬きは大きな咆哮をあげた。
今度は尻尾でリディアーヌを排除しようと大きく振りかぶってくるが、それを跳躍して躱し距離を取る。
ちらりとナザールを見ると、怪我もなく無事なようだ。
その間も、尻尾でバンバンと苛立たしそうにナルシス達に攻撃を仕掛けているが、彼等もうまく逃げていた。
禁術の核となっている部分を見つけられたら直ぐに片は着くのだが、今の所その核は外からは見当たらない。
少しずつ削っていくしかなさそうだ。
向こうも前足の大きな爪で踏みつぶそうと振り上げる素振りがあるが、しっかりとローランに捕まっているのでそれも叶わず、だが、そうすることでローランの魔力と気力を削っていっているのであまり時間は掛けられない。
「ローラン、まだ大丈夫?」
「問題ありません」
「予定通り、削っていくからフォローをお願い」
「「「はつ!」」」
彼等は返事と同時に隙を作る為に動き始める。
向こうも馬鹿ではないらしく、かなり注意深くこちらの動きを見ている。
その様子が人間ぽく見える。
嫌な予想にリディアーヌは顔を顰めるが、始末するのが先だ。
幾度か攻防を繰り返しながらもう片羽も切り落とすと同時に大きく前足を振り上げた。
その瞬間に、ぶちぶちっという音と共にローランの拘束が解けたが、後ろ脚の拘束は何とか保っていた。
「も、申し訳ありません」
「それより、今のでローランにも負荷がかかったでしょ? 大丈夫?」
「これくらいは平気です」
平気だというが、拘束の魔術に加えて、こちらのフォローもしてくれているのだからかなり辛いはずだ。
この調子で後ろ脚の拘束も外そうともがいているけれど、ローランは後ろ脚の拘束に集中したので更にきつく縛っていたから、後ろはそう簡単に外れないだろう。
さらに大きな咆哮が続く。
「くっ」
耳を押さえて思わず片膝をつくジネットに、他の騎士達も耳を塞ぐ。
咆哮に魔力乗せているから耳の鼓膜が破れそうなほどの威力がある。
耳をやられると平衡感覚が狂う事もあるので、これは痛手だろう。
エドガールも顔を顰めているが、踏ん張っている。
かなり長い咆哮の後、またこちらに向かって咆哮波でも撃つのかと思いきや、風が渦巻いた。
今度はその風圧に体が持っていかれそうになる。
まさか風属性を有しているとは思わなかった。
奴の体は濃いグレーで遠目で見たときは光の加減で黒竜擬きかと思ったが、その色はくすんでいて純粋な黒竜とは似ても似つかない。
だからまさか風属性だとは思わなかったのだ。
竜種はその個体の色で属性が分かるのだが、これは予想外だ。
といってもまがい物なのだから本来の属性と違う事も有りうるのだから、これはリディアーヌが悪い。
しかも思ったよりもその威力が強くナザールだけで結界を張るのはきついだろうと、リディアーヌも騎士達一人一人に結界魔術を施した。
風圧が無くなり驚いたエドガールは一瞬リディアーヌを見たが、直ぐに目の前の敵に視線を戻す。
こちらが結界を施したのが分かったのか忌々しそうに眼に力が入り細めた。
そしてこちらの結界を吹き飛ばそうとする大きな咆哮が轟く。
周囲の木々が耐えきれず薙ぎ倒され、葉っぱが宙を舞う。
荒れ狂う竜擬きは本当に厄介だ。
しかもあれと戦う事に慣れていない現在の騎士達はようやく慣れてきたと思っていたらのこの攻撃だ。
リディアーヌにしても、まだルーセル時代程の魔力量には届かない。
それでも十二歳という子供で用いる魔力量ではない程にはあるのだけれど、安心感は全くない。
慣れていない騎士達の防御も請け負っていたらいくら膨大な魔力を秘めていてもそれだけでは到底安心できないのだ。
だからと言って何も考えずに魔術を行使すればこの辺り一帯更地になるだろう。
流石にそれは避けたい。
林業も行っている大公家で自然を損なう事をしたくないと、損なわずして竜種擬きを相手にしているのだから手こずっているのだ。
エドガール達も果敢に奴に攻撃を行っているが、純粋な竜種ではなくてもやはりその鱗は固く腹側を狙わなければ貫けないだろう。
ナザールはリディアーヌと同じく剣に魔力を纏わせて攻撃を行っているので、それなりに傷を付けてはいるが、それでも致命傷には程遠く、かすり傷といった程度。
これでは埒が明かない。
ふーっと一度大きく息をつく。
少し大きな被害が出そうな気もするが、リディアーヌはさっと周囲を確認する。
今迄の動きで奴が人間の言葉を理解できているという事は分かっていたので、目線だけでローランに指示を出す。
彼ならリディアーヌの考えを瞬時に理解してくれる、それだけ信頼できる相手だとずっと側にいてくれるから安心できる。
ローランはリディアーヌの視線を受けひとつ頷く。
それを確認した後、リディアーヌは距離を取り魔術を構築していく。
その間はエドガール達があれの気を引きリディアーヌから目を逸らさせる。
やっている事は先程とさほど変わらないけれど、今回はローランがリディアーヌの姿を眩ます魔術を掛けて彼女の姿を隠す。
リディアーヌは構築した魔術を掌に圧縮し、竜種擬きを見据えタイミングを計る。
竜種擬きは周囲をウロチョロする騎士達を鬱陶しそうにその尾と前足で蹴散らそうとするも羽を捥がれた状態では上手くバランスがとること出来ずにいた。
それでも圧倒的な力でこちらを威圧してくるのだから、禁術で造られた存在とはいえ流石竜種だ。
じっと見据えていると、あまりにも苛立たしさに天に向かって大きな咆哮を放ち、その首をこちらへと向け、大きな口を開けた。
(今だ!)
リディアーヌは瞬時に動く。
ぱっと一瞬消えたと思ったら、現れたのは口を大きく開けた擬きの目の前だ。
急に現れたリディアーヌに驚き器用に前足をこちらに振りかぶってきた。
「……え?」
その振りかぶった前足の、というよりもリディアーヌの前に急に現れた人影を見て今度はリディアーヌが驚きの声を上げると同時に「なんでっ!?」という小さな呟きと共に目の前に現れた者の腕を咄嗟に掴みすっと体を入れ替える。
「お嬢様!!」
ローランの切羽詰まった声が聞こえたが、リディアーヌは瞬時に掌に構築し圧縮していたものを奴の口目掛けて放ったと同時に、こちらに振りかぶっていた前足の爪が目の前まで迫り咄嗟に後ろへと庇った者に類が及ばないよう、そしてリディアーヌ自身の致命傷を避けるように体を捻ると背中に鋭い痛みと熱が走ったように切裂いた。
思わず痛みに「ぐっ」というくぐもった声が彼女の口から洩れたが、次の瞬間には地面に足が付いていた。
あのままだと背中の傷だけでなく他にも大きな傷を負う事になるからと瞬時に転移したのだ。
リディアーヌは腕を掴んでいた手を放し、痛みを堪えつつ目の前の人物を見据えた。
その人物とは、此処の場には決していないはずの人物でその整った顔は恐怖で染まっていた。
リディアーヌは彼女の口を塞いでいた布を取り外すが、この場にいると足手纏いなのは言うまでもなく、彼女が何かを発する前にリディアーヌは彼女に転移の魔術を使用する。
「屋敷に送ります、皇女殿下」
そう、目の前に現れあのはジュリエット皇女だった。
ちらりと視線を動かすと、ジネットが誰かを拘束していた。
皇女がこの場に現れた原因だろう。
リディアーヌはすっと心が冷えていく。
護衛は一体何をしているのか、と。
「あ、ち、血が……」
皇女が何かを言っているがリディアーヌは応えることなく彼女を領主邸に転移させた。
目の前からいなくなると、ほっとしたらふらっと眩暈を起こした。
(血を止めないと)
リディアーヌは取り合えず止血だけでもするべく、自身に回復魔術を施す。
「お嬢様! お怪我を、動いてはなりません」
「平気です。それより捕らえた者は?」
「生かしております。後程尋問を行います。それより……」
エドガールと共に振り返るとそこには横たわった竜種擬きが息の蒸しでドロドロとした黒い液体が流れ出ていた。
不測の事態で心配はしたが、先程の攻撃が直撃したので致命傷を与えていた。
禁術で造りだされた紛い物の末路。
その姿は不愉快極まりないものだ。
「あれはもう長くないです。エドガール副騎士団長は他の騎士達と共に捕らえた者を連れて先に屋敷へと戻ってください」
「お待ちください! 戻るならばお嬢様もご一緒に。そのお怪我を早く治療しなくては」
「止血は済んでいますので問題ありません。それにローランが側にいますから。それよりも捕らえた者を早々に屋敷へ連れて行き、皇女殿下が連れてこられた経緯を早々に調査が必要でしょう。あちらでも騒動になっているはずです」
「ですが……」
エドガールはリディアーヌの傷が消して浅くない事を心配するも、当の本人は血を流したことで少し顔色が悪いが痛みを感じているのか分からないくらいいつも通りだ。
これは何を言っても聞かないだろうとそっと息をつく。
「畏まりました。ですが、お嬢様も早々にお戻りくださいますよう」
エドガールは一礼し、捕らえた者達を連れて屋敷まで転移した。
リディアーヌはそれを見届けてから、倒れた竜種擬きを注意深く観察している側へと向かった。
「お嬢様、お怪我の具合は?」
「止血だけしたから大丈夫。さっきはありがとう」
「いえ。咄嗟の事であれぐらいの事しかできずに……」
ローランはリディアーヌに大きな傷を負わせてしまった事を悔いているけれど、ローランが咄嗟に転移させてくれたからあれぐらいで済んだのだ。
「これくらい大丈夫。ローランのお陰で助かったんだから。それより……禍々しい血。……禁術を使うなんて不愉快」
「あの、お嬢様。先程微かに人の言葉を発したように聞こえたのですが」
ローランは何となく察しているのだろう、竜種擬きが何と掛け合わされたのかを。
リディアーヌも近づいた時に微かに聞こえた人の言葉。
「私も聞こえたからローランの聞き間違いじゃない。私も禁術は知識として持っているけど、あれから大分経つし、禁術としての精度も上がっているかもしれない。確かな事は言えないけど、多分……人と掛け合わされているから人の言葉を喋ったと思う」
「っ! なんて非道な事を……」
「……今、楽にしてあげる」
先程のリディアーヌの攻撃がきちんと為されていれば苦しませることはなかった。
けれど、その攻撃を邪魔されたことで余計な苦しみを与えてしまった。
一度目を閉じてすっと開く。
躊躇う事無く、その心臓足る核を剣で貫いくと、パキンッという小気味い音がしたと同時にその姿が崩れどす黒い血のようなものも跡形もなく消え去った。
残ったのは割れた真っ黒でその中央に陣が刻まれた魔石のみだ。
「これが禁術の核、ですか」
ローランが呟く。
リディアーヌは近づき、その魔石を手に取ろうとすると、ローランが慌てて止めようとするが、既にこの魔石は機能を失っているので触っても問題はない。
じっと魔術陣を見ると、複雑で複数の生き物を掛け合わせた事が分かった。
本来の竜種は混じっていない。
リディアーヌはぐっと魔力を込めると今度はばりんっと音がして完全に砕け散った。
ご覧いただきありがとうございます。
次回も楽しんていただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします(ꈍᴗꈍ)




