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自由な空の下  作者: 月陽
第九章 心機一転
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地鳴りの正体


 調査二日目は昨日調査をした所まで転移で移動した。

 魔力温存の為に調査した箇所に魔石を仕込み一方通行の簡易転移陣を帰り際に仕掛けておいたのだ。

 今朝早くからさらに奥へと進むと、辺りの空気に圧が増したというか、少し重苦しい空気感が漂ってきた。

 更に進むが異変を感じてピタリと止まった。



「如何され……」

「しっ!」



 リディアーヌがピタリと止まったのを見て先頭をナゼールが先を注意深く見詰める。



「微かですが人影が視認できます」

「怪しさしかないな」

「お嬢様の予想が当たっているかもしれませんね」

「まだそうと決まったわけじゃないけど……」

 


 様子を見ていると、この場にいるのは二人で他に人影はない。

 ギーに周囲を探るようお願いをしたリディアーヌは慎重に感覚を研ぎ澄ます。

 口ではあぁ言ったが、リディアーヌは自身の鋭い勘で確信しているが、やはりちゃんと確認は必要だ。

 確信しているといっても全てが当たっている事はないので、油断することなく、勘に全てを頼るわけでもなくちゃんと確信を得るような情報が得なければ騎士達はリディアーヌに対しての疑問を払拭することは出来ず、下手に負傷者を出すだけになるかもしれないと思うからこそ慎重に行動をとる。

 息を潜め目の前の二人に注視しているとギーが戻ってきた。



『どうだった?』

『目の前の二人はこの辺りの監視が主な目的のようですが、その奥に更に四人、そこに件の鳴き声の主がおります』

『その姿を確認した?』

『はい。ですが、確かにそうだと明言できず、申し訳ありません。一応文献で竜種の絵を拝見した事がありますが……』

『現代において竜種が存在しているかどうか怪しいと言っていたから謝らないで』



 やはりあの声の持ち主に関してはリディアーヌ自身が見なければ断言はできないようだ。

 ひとつ気になることと言えば、仮に竜種だとしてリディアーヌがそう断言してもその姿を知らない者達からすればそれすらあっているかどうかの確認が出来ないわけだが……。

 


『一旦それは置いといて、人間は全部で六人、という事?』

『はい。今の所その周辺に他の人影はありません。ただ、その竜種と思しき個体は鎖で繋がれ魔術陣で縛られているようです』



 その魔術陣がどのようなモノかは見ないと分からないが、鎖でつないでいるという事は完全な支配下に無いという事だろう。

 下手に暴れてこの辺り一帯を吹き飛ばされても困るし、鎖から外れ領都を蹂躙されるわけにもいかない。

 あまり時間はないかもしれない。

 ギーの報告では前方の二人はこの辺りの見回りを主としているようで、こちらには気付かずに遠ざかっていく。



「お嬢様、如何されますか」

「周囲に注意しながら休憩がてらこの後について話します」

 

 

 この先悠長に休憩出来はしないだろうと、先ずは一息つくことにしたが勿論周囲の警戒は怠らない。

 休憩中、何度か唸るような、苦しそうな音が響いてくる。

 なんとも嫌な感じだ。

 心の奥底から何故か怒りのような、ざわざわとし少しばかり痛みのようなものを感じる。

 それを表に出さず、休憩後の計画を話し合う。

 その話の大前提として、あの地鳴りを竜種だとして行動する事。

 これを伝えると騎士達は動揺までいかずとも、ごくりと喉を鳴らす。

 未知なる敵と相対することになる為、流石に緊張が走る。

 だが、まだ竜種とは断定せず、竜種だろうと相手が強敵と仮定し、それに沿って作戦を練った方が逆よりはずっといい。

 相手が格下とし作戦を練り、強敵でした……では全滅もあり得る。

 これも伝えると全員が納得した。

 エドガールはさすが副騎士団長としてルヴェリエ大公領を護る騎士としての気構えがあり最初の動揺後はすでにそれをおくびにも出さずリディアーヌの話に真剣に耳を傾けている。

 これにはローランも安堵した。

 ローランの危惧は、リディアーヌの言葉を軽んじて彼女の足を引っ張らないかという事だった。

 けれどリディアーヌの言葉を聞く内に、他の騎士三名も軽んじることなく真剣な表情を崩さない。



「……取り合えずは後手後手に回りたくないし、要らぬ犠牲も出したくないのでもし本当に竜種だった場合、無理だと判断したら人を全て引き受けてください」

「もしかしてお嬢様が相手をなさるのですか?」

「はい。ローランと共にそちらは引き受けますので、私達の邪魔をしないよう、敵を一掃してください」

「さ、流石に無茶ですよ!」

「無茶ではないから言っているのですけど」


 

 エドガール達は調査員としてついてきているが、主な仕事はリディアーヌの護衛だ。

 その護衛対象が竜種を相手にするという。

 その言葉に素直に従えるはずもなく、けれど彼女の目を見て息を飲んだ。



(なんて迷いのない……)



 竜種だと仮定をし話を進めているが、どこか確信に満ち迷いのない言葉に視線。

 全く怖がっておらず、だからと言って自信に満ちているわけでもない、ただなんというか……。

 ぐっと一度目を閉じすっと開く。

 そして彼女の前に跪く。

 それはエドガールだけでなく、ナルシスにジネット、ナザールが示し合わせたように一斉に頭を下げた。

 その様子にきょとんと不思議そうにするリディアーヌを余所にエドガールは口を開く。



「お嬢様、今迄の我々の態度を謝罪いたします。今後、お嬢様のお言葉に全面的に従います。ですが、領主代行であるシルヴァン様とのお約束をお守りいただけないようでしたらその限りではありません」



 最後の最後はきっちり釘を差すことを忘れない。

 どういう表情をしていいか分からないリディアーヌはちょっとばかり変な顔になり、ローランを見上げるが、彼は笑顔で頷いただけだった。



「お兄様との約束は出来る限り守りますが、この先の状況次第です」

「分かりました」



 最後は何となく纏まったところで素早く片付け、再び騎乗してこの先へ、敵が待ち受けているであろう場所に向かった。

 奥に行くほど獣のような唸り声が低く辺りに響き渡り空気が重く圧し掛かってくるような感覚に陥る。



『姫様、その先です』



 ギーに言われ戦闘のナルシスに合図をし止まった。

 馬もこの圧に怯えそわそわしているので流石にこれ以上は可哀想だ。



「この先は歩いていきましょう」

「はっ」



 馬から降り、この先に待ち受ける者達へ意識を向ける。

 二人一組となり、距離を保ちつつ先へと進む。

 そして、茂みの先は少し開けており、そこに巨大で真っ黒い靄を纏った禍々しい気配を放つ竜の姿を持つモノがいた。

 隣のローランを見ると、初めて見るその姿に少しの恐れと、好奇心が見て取れた。



「ローランってどこに行っても生きていけそう」



 ぽつりと呟いたが隣のローランにはしっかりと伝わっており、リディアーヌを振り返らず、目を輝かせていた。

 何処に行ってもブレない彼に何故かとても安堵を覚える。

 これで(あれ)と戦うときも問題ないだろう。

 それに、あれはやはり作られた存在だ。

 本来の竜とはかけ離れている。


 

(ふざけた事を……!)

 

 

 リディアーヌはくすぶっていた怒りがぐっと増した。

 その怒りを呼吸で鎮め、注意深くあの魔術陣と鎖を確認すると、あの魔術陣はあの上に乗るものを支配する為とこの気配を周囲に悟らせないように隠蔽も組み込まれているが、そちらは殆ど意味を成していないようだ。

 あの魔術陣を維持するためには相当な魔力が必要で、あの三人で完全に維持出来ていないのが見て分かる。

 だからこそのあの鎖なのだろう。

 まだあの竜は完全に支配下に置かれていないという事、魔術陣を起動させている三人は顔色が悪い。

 相当な負荷がかかっているはずだ。

 自分達が維持できない存在を造り出し、御しきれないその姿はあまりに浅はかなことをしていると言わざるを得ない。

 人は分不相応な事をするべきではない。

 あのように人為的に生物を造り出すなど、人の領域を超えているからこそ禁術なのだ。

 命を弄び、あのように縛るなど憤りが湧いてくる。

 その荒れ狂う心中をかさかさっと草を踏みしめる音がし、一瞬でひやりと静まる。

 そちらに視線を向けると、先程見た二人組が戻ってきた。

 

 

「周囲に異変は?」

「異常はありません」

「大公家といえど、暢気なもんだな。これの存在に気付かないなんて相当な間抜けと見える」

「けど、こいつ、大丈夫なんすかね? 今にも荒れ狂いそうで……」

「どうせもうすぐ此奴を放つんだ。問題ない」

「本当に街へ行きますかね? 荒れ狂って俺達を攻撃したりは」

「あぁ、それはない。完全に支配出来ていなくても、これを街へ設置したからそっちへ向かう準備は終わってる」

「あぁ、だからあの二人は街へ行ったんすね」



 今の言葉を聞き、リディアーヌ達ははっとした。

 後二人仲間がいること、そしてこのままこれを野放しには出来ない。

 あれが街へ向かってしまうとどれ程の被害が出るか……。

 領民達が一番被害に合うだろう、それは避けなければとリディアーヌは今此処であれらを止める決断をした。

 


「お嬢様、如何なさいますか?」

「今此処で止めます。今の彼等の言葉はお兄様が私に付けた人が報告に行ったでしょう?」

「気付いていらっしゃったのですか?」

「え? うーん、何となく?」

 

 

 何となく、とは言ったけれど、ベルトランから調査をお願いされリディアーヌの護衛のローランの他に護衛として騎士を付けられるかも、そして護衛が騎士だけではないような、と思っていたらやはり当たっていたらしい。

 シルヴァンの鷹は流石に今は距離を取っているのだろう姿は見えない。

 さて、この後の動きだが、あれを縛っているのは魔術師が三人、もう一人はその様子を見守り残りは辺りの警戒をしているが、あの魔術師三人は動けないと推測する。

 今下手に解けば真っ先にあの三人が犠牲となるのは流石に分かるだろうから、警戒する者が二人なので先ずはあの二人とあのリーダー格の者は出来たら生け捕りにしたい。

 配置的にはエドガールとナザールが丁度リーダー格に近い位置に、ナルシスとジネット、そしてリディアーヌとローランは見張りと魔術陣の三人に近い位置だ。

 半周を囲っている状態で身を潜めている。

 本当はローランをジネットかナルシスと組んで貰って反対側にいて貰おうと思ったのだけど、ローランとてあれは初見だからやはり側にいて貰って指示しようとこの組み合わせにした。



「私はあの魔術陣の解析と竜種擬きをどうにかするから補佐をお願い」

「畏まりました」



 事前にエドガール達騎士には魔術陣を維持している魔術師ではなく、リーダー格の男を生け捕りにし、その他をこちらへ向かわないようにしてほしいという事だ。

 それが終わったらリディアーヌのサポートだ。

 


「もし、危険だと思ったら私の事よりちゃんと自分の身を護って」

「それはお約束できませんよ」



 じっとローランを見るがいい笑顔で首を振った。

 絶対ダメだと全身で語っている。



「お嬢様はご自身の力を過信なさらないと思いますが、無茶はされる方ですので、くれぐれも、ご自身の身の安全を優先になさってくださいね」



 最後の「ね」にとても圧があり、笑顔に押されて思わず目を逸らす。



(余計な事言うんじゃなかった)



 自分のうっかり発言を反省するも直ぐに切り替える。

 今は自分のミスを気にしている場合じゃなく、もう一度そっと周囲を窺う。

 奴等は目の前の竜種擬きに一番注意を払っているようで、ずっと前を凝視している。

 その竜種擬きは先程よりも首を振り、支配されないようもがき苦しんでいる。

 リディアーヌはちらりとエドガールに視線を送るとひとつ頷いた。

 そしてそのエドガールは更にナルシスへと合図を送ると、ナルシスの近くにいたジネットは直ぐに行動に移した。

 小石をリーダー格の近くへ投げる。



「っ!? 何者だ!!」



 リーダー格の男が小石が落ちた方へと体ごと向けると、ナルシス側にいた者が彼等の方へと向かっていくのと同時にエドガールとナザールはリーダー格の男へと向かっていった。



「なっ!? まさかルヴェリエ騎士団!?」

 

 

 ルヴェリエ騎士団のマントは濃紺で留め具は大公家の紋章が刻まれている為、奴等は直ぐに騎士団だと悟り、リーダー格のその場にいたもう一人は護る様にナザールと対峙する。

 エドガールはリーダー核の男に向かっていったが、ナザールと対峙していた男が阻もうとするのえおナザールはそうはさせなかった。

 苛立たしそうに舌打ちをする男を見つつ、リディアーヌとローランはさっと魔術陣へ向けて走った。



「な、何をする気だ!?」

「おっと、お前を向こうへ行かせない」

「邪魔をするな!」



 リディアーヌ達に気が付いた男はそちらへ駆け出そうとするも、エドガールに阻まれ盛大に舌打ちをし、剣を抜いて臨戦態勢だ。

 ナルシスとジネットはあっさりと向かってきた男を切り伏せ、魔術陣の方へと向かっていた。



「ローラン、あまり良くないかも」

「どういうことです?」



 リディアーヌは魔術陣と魔術陣の更に外に設置された魔石を中心に小さな魔術陣を見て顔を顰める。

 ローランも彼女の視線を追うようにして魔術陣を見ると瞬時にその意味を理解した。

 四か所に設置された魔術陣から鎖が伸びて竜種擬きを押さえつけているのと、大きな魔術陣は連動しているようで、どちらかを解くともう一方も解けてしまうので、そうなれば竜種擬きは即座にこちらを攻撃してくるだろう。

 解き方は簡単だ。

 大きな魔術陣は三人の魔術師によって制御されている。

 それは膨大な魔力が必要になるのだが、魔術師達の様子を見る限り、それも時間の問題だろう。

 顔色は悪く、リディアーヌ達が近づいているというのに反応すら鈍い。

 今は維持している、というよりも完全に魔力を吸い上げられてその場から動けないといった様子だ。

 言い換えれば魔術陣が勝手に作動し、魔術師達だけで制御する力が既にないという事だ。

 どちらにしても時間はない。

 リディアーヌはエドガールの方へと視線を向けると彼方はリーダー格の男が捕われ、自死しないよう口に布を噛ませ縛られていた。

 戦力は何とかなる。



「お待たせいたしました」

「早く彼方を捕らえていただいたので、私が合図したら三人の魔術師を同時に始末してください。直ぐに魔術陣が解け、竜種擬き(あれ)が動き出します。あれの特徴は概ね先程話した通りかと思いますので、気を付けてください。ローランは術が解けたと同時に出来るだけ動きを鈍らせて、私から注意を逸らしてほしいの、というより拘束してほしい」

「「「はっ!」」」



 全員が頷いたのを見て、リディアーヌは少しあれから距離をとり、逆に騎士達が魔術師達にさらに近寄る。

 リディアーヌもすらりと剣を抜き、すっといつでも魔術を使えるように魔力を巡らせる。

 竜種擬きはグルルと低い唸り声をあげ、リディアーヌ達の動きを忌々しそうに睨みつける。

 ふっと深呼吸をしてリディアーヌはエドガール達に向かって合図をすると、ざしゅっと三か所同時に魔術師達を切裂くと同時にパリンッ! という甲高い音と竜種擬きの咆哮が重なった。

 

ご覧いただきありがとうございます。


ブクマをありがとうございます(ꈍᴗꈍ)

励みになります!


次回も楽しんていただけたら幸いです。

よろしくお願いいたしますm(__)m


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