中間報告
シルヴァンに問われてちらりと騎士達を確認するも、彼等は直立した体制を崩さず視線も変えずに佇んでいる。
「副騎士団長に話を聞いたのですよね?」
「聞いたよ。けどそれは彼等から見た報告だ。まだリディから見た事を聞いていないからね」
彼等と大して変わりはないと思うけど、ぽつぽつとリディアーヌは報告をし始めた。
報告を聞き終えて「なるほど」と呟く。
シルヴァンの様子をみただけでは彼等と同様の報告で失望したのか、それとも食い違いがないかを吟味しているのかよく分からなかった。
「リディ、嘘偽りなく答えてほしんだけど、あの地鳴りの正体が分かったの?」
「まだ分かりません」
「本当に?」
「本当です」
私の答えに納得していないのか、エヴァに視線を向けると、彼女は一礼して口を開いた。
「先程お嬢様は、明日は危険な事になるかもと予想されておいででした」
「エ、エヴァ!?」
焦って彼女の名を呼ぶがすでに遅い。
気まずそうにシルヴァンを見ると、にこりと微笑まれた。
「う、嘘は言ってません。まだ確信はないし、実際に見て確認も出来ていないで中途半端な報告は出来ません」
「そうだねぇ。リディの言っている事も正しいけれど、何か感じているのなら教えてほしいかな。危険な事になると予想されるならなおさらだね」
いやに圧のある笑顔にリディアーヌは思わず顔を背けると、グイっとシルヴァンの手によって目を合わされた。
「それで?」
「それで、とは……」
「どう危険なのか、今リディアーヌが何を思って何を危惧しているのか全部この場で話なさい」
いつもの優しい雰囲気ではなく、領主代理としての顔で言われてしまったので、結局リディアーヌは話す事となった。
リディアーヌが感じている事、あの地鳴りは魔獣よりも厄介な存在の可能性がある事、もしそれに遭遇した時、騎士達の実力が分からないからどう対処しようか悩んでいる事、そしてその厄介な存在が作られた存在かもしれないという事をシルヴァンに伝えるとそれだけで事の大きさが分かったのか真剣な表情で質問された。
「今回の件であれらが関わっている可能性があると、リディは考えているんだね」
「まだ想像の段階です。だから実際見てみない事には何も言えません」
「造られた存在か。その鳴き声を聞いてリディは何を感じたんだい?」
「何となくですが、とても悲しい鳴き声に聞こえました。助けを求めているような、そんな感じです」
「それで、魔獣以上の存在だと予想するのはどうして?」
そこはあまり突っ込んで聞いてほしくなかったが、シルヴァンは逃してくれなさそうだ。
ちらりと騎士達を見ると彼等はこちらの話を真剣に聞いているように見えたが、その間にシルヴァンは防音結界の魔術を展開していた。
「これで話せるでしょう?」
「…………」
リディアーヌはちらりとまた騎士を見ると「彼等なら契約魔術で結んでいるから平気だよ」と笑顔で言われた。
結界を張りそこまで言われてしまっては諦めて口を開いた。
「あの鳴き声に聞き覚えがあります」
この言葉に部屋にいた全員が驚いたような気配を感じた。
「聞き覚えがあるの?」
「はい。けど、以前の話です」
「あぁ、成程。それで、その聞き覚えのある鳴き声の正体は?」
「あれは竜種の鳴き声に似ています。どのタイプかは分かりません」
「竜種!?」
「そんなものが実在するのか!?」
リディアーヌの竜種という言葉を聞き、驚きに声を上げたのは騎士達だ。
その言葉を聞き、リディアーヌは逆に驚いた。
「お兄様、竜種は現在確認されていないのですか?」
「あ、あぁ、そうだね。皇国内の話で言えば、竜種が確認されたという噂は聞かない。まして近年では存在しているのか怪しいとまで囁かれているから既に絶滅したものと思われている」
シルヴァンの話では、ここ百数年ほど確認されておらず、文献で読み知識として知っているくらいだという。
という事は、戦うにしても経験もなければどのように攻撃すればいいか分からないだろうから同行されると面倒だとリディアーヌは思った。
下手に人数を増やされても的が増え犠牲者が増えるだけだろう。
ローランの実力なら分かっているし、ギーもいるので、やはり騎士は外してもらった方がいいかもしれない。
「お兄様。明日は私とローランだけで行きます」
「リディ、それは許容できない」
「ですが、今の反応を見ると、無駄に負傷するだけです」
「ひとつ聞きたいのだけど、リディは竜種と対峙した事があるの?」
「はい、あります」
この言葉に酷く驚いたのは騎士達だ。
けれどシルヴァンのひと睨みで驚きの言葉を飲み込むと、部屋に入ってきたとき同様直立不動で視線を前に向ける。
「その時はどうしたの?」
「倒しました」
「一人で?」
「いえ、私の他に二人いたので三人で倒しました」
「それだとリディとローランだけでは心許ないのではないかな」
「大丈夫ですよ。それに、騎士の方々の実力が分からないので、本当に竜種がいたとして彼等を見ながら戦うのは骨が折れます」
「確かに、リディの言ったことが本当なら戦い方や実力が分かっている者と同じがいいだろうね。けど、騎士は連れて行きなさい。初めての経験なんて必ず通る道だ。それに、もし本当に竜種ならば、彼等もいい経験となる。私も同行しよう」
「「「それはいけません!」」」
ありとあらゆる方向から静止の声がかかった。
フォルスを始め、エドガールにローラン、そしてリディアーヌだ。
「どうして止めるの?」
「今屋敷には両殿下がいらっしゃいますし、もしシルスお兄様に何かあればどうするのですか?」
「もし私に何かあってもエルがいるから問題ないよ」
「「問題大ありです!」」
言葉が被ったのフォルスとエドガールだ。
流石に学生といえど次期大公であるエスネストが入れば問題ないだろう。
けれど、流石に領主代行に何かあればと考えるとエドガール達は気が気でないのだ。
彼等にとっては未知の竜種、初めての事でどうなるか分からない。
何よりもリディアーヌの言っている事があまりにも突飛に聞こえるので全てを信用できないという事もある。
彼女の言葉で記憶持ちなのだろうことは理解でき、何故契約魔術を結んだかも納得したが、それでも彼等にとってもリディアーヌの実力が分からないから彼等から見ても不安なのだ。
「……分かりました。騎士達にも同行してもらいます。けどシルスお兄様はここにいてください」
「ついて行きたいんだけどね」
「ダメですよ。それに、まだそうだと決まったわけではありません。まだ憶測の段階ですから。何より、私だけではなく、お兄様まで屋敷を開けては殿下方に不審に思われますよ」
「はぁ。そうだねぇ。分かったよ。屋敷に残るが、もし危険と判断したら無理せず直ぐに退却しなさい。でなければ強制退去させるからね」
「分かりました」
昨日と今朝同様、素直に頷く。
そうしないと本当にそうされそうだからだ。
漸く解放されて夕食を食べに向かう。
リディアーヌは解放されたが、騎士達はまだシルヴァンと話があるようで執務室に待機となっている。
リディアーヌはエヴァと共に食堂へ向かった。
いつもより遅い時間の夕食なので、誰もいないと思ったらエルネストが座っていた。
「リディ、お帰り。無事でよかった」
リディアーヌの顔を見てほっとしたように息をついた。
「エルお兄様、夕食を食べていないのですか?」
「いや、流石に殿下達といただいたよ」
「ではどうして?」
「どうしてって、リディが一人で食べることになるでしょう? だから待っていたんだよ」
別に一人で食べるのを寂しいとは思わないし、今夜はリディアーヌの帰宅が遅かったので仕方ないから余計に疑問で首を傾げる。
その様子を見てエルネストは困った妹に近寄り頭をポンポンとする。
「先ずはご飯を食べないとね」
そう言ってリディアーヌを席までエスコートし、エルネストはリディアーヌの横に座った。
直ぐに温かい夕食が並べられ、エルネストの前には飲み物が準備された。
流石に温かい夕食を目の前に出されるとお腹がすき、可愛らしい音が聞こえてきた。
「か、 可愛いぃなぁ」
「もう! お兄様、笑わないでください」
顔を赤くしてぷいっと可愛らしく怒る妹を見て更に可愛がる。
(これは愛でる会の会員の皆にも教えてあげないとな)
本人が知ったら全力で止めそうな事を密かに考えながら、夕食を食べ始めたリディアーヌをそっと見守る。
美味しそうに食べるその姿を見てエルネストはほっとした。
ベルトランに言われたこととはいえ、騎士を連れて領内の調査を行うなど、リディアーヌは自分よりもひとつ下なだけなのに、と可愛い妹が心配でならなかった。
皇子と皇女がいなければ自分が率先して調査をしたのに……と。
「リディはいつも美味しそうに食べるね」
「美味しいですから」
(本当に美味しそうに食べるなぁ)
エルネストはリディアーヌが食べ終わるまで話すのを止めて見守っていた。
食べ終わり二人で談話室へと移動した。
エヴァが二人分のお茶を準備してすっと下がる。
「調査の進み具合はどう?」
「まだ何とも……。エルお兄様は詳細をご存知なのですか?」
ふとエルネストが今回の件を知っているのか、話してしまって大丈夫なのか不安になり質問をすると、領で起こっている地鳴りの件は知っていて、それをリディアーヌが調査することもリュシオルに聞いていたそうだ。
(お兄様を差し置いて私が調査している事、嫌じゃないのかな)
変な心配を抱き、そっとエルネストを窺うと、ふっと笑った。
「リディ、何か変な事考えてない?」
「変な事?」
「そう。変な事。まぁ確かに可愛い妹が何かよからぬことに事に巻き込まれないかは心配だけど、嫌じゃないよ」
「……お兄様って、心が読めるんですか?」
リディアーヌの言葉にエルネストは可笑しそうに声をあげて笑った。
「読めないよ。リディの顔に全部書いてあるからね」
「え、えぇ!?」
顔を挟むようにぺたぺたとするリディアーヌを見て更に笑った。
親しい人と一緒の時はこうして感情がよく顔に出ている。
以前には考えられなかったことだ。
それが嬉しくて可笑しくてエルネストは笑うが、笑われているリディアーヌは面白いはずもなく、じとっとエルネストを可愛く睨む。
「ふっふふふ。リディったらそんな顔で睨んでも可愛いだけだよ。……笑ってごめん!」
リディアーヌに可愛らしく睨まれて慌てて謝るエルネストだが、顔はにやけたままだ。
「お兄様……」
「あ、うんごめんね。あまりに可愛すぎて。けど嬉しいよ」
「嬉しい?」
「そうだよ。だってリディの表情が豊かで楽しそうだから」
「…………お兄様に笑われたのに?」
「笑ったのは悪かったよ。けど、本当にね、嬉しいんだ。リディの笑顔が自然に出て、嫌なことには怒って我慢することなくちゃんと感情に出してる。それが嬉しくてたまらないんだ」
エルネストは本当に嬉しそうに笑っている姿を見ると、なんだかくすぐったい様な、胸がぽかぽかと温かく、けど少しの恥ずかしさとか色んな感情に胸をぎゅっと掴む。
その様子を温かい目で見つめるエルネストはリディアーヌの頭を撫でた。
十歳を過ぎてからはこうして頭を撫でられることも少なくなり、こんなにされると今度は恥ずかしさで俯く。
嫌ではなくて嬉しさと来年には学園へ入学するという年齢なのにという気恥ずかしさでいっぱいだからだ。
顔を上げるとエルネストと目が合うとふわりと微笑まれた。
そういう顔はリュシオルにそっくりだ。
「明日も調査に行くんだよね?」
「はい。明日には何か分かるかと思います」
話が戻りぐっと表情を引き締めると「絶対に無理をしない事!」とエルネストと約束をした。
シルヴァンといい、二人にはかなり心配されている。
そんなに心配されるようなことをしているつもりはないけれど、二人から見たら無茶をしているように見えるのだろうか。
うーん、と考えてみるもあまり思い当たる節もなく、エルネストに部屋まで送ってもらい今夜は早く眠りについた。
ご覧いただきありがとうございます。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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