皇后のお茶会
春の終わり、気候は良く過ごしやすい日々が続いている。
今日はフェリシエンヌ、アリアーヌと共に皇宮に招かれた為、馬車に乗って向かっているところだ。
何故皇宮へ向かうのか、二週間前にお茶会の招待状がアリアーヌの元へ届いた。
その招待状にはフェリシエンヌ、アリアーヌとリディアーヌ、そしてフェリシーの名があった。
アリアーヌは招待状に目を通すと複雑な表情に変えた。
招待状が届いた夜、子供達が自室に戻りアリアーヌはリュシオルと二人になったタイミングで招待状の事を伝えた。
「ねぇ、あなた」
「ん?」
「最近皇后様の様子はいかがかしら」
「皇后様? 急にどうしたの?」
アリアーヌはリュシオルに招待状を手渡した。
中を確認すると「なるほど」と納得したようだ。
「今まで子供達を招待したことはなかったですのに……。きっと皇女殿下がご入学されたのでお誘いになられたのでしょうけれど、リディはどう思うかしら」
「心配?」
「えぇ。心配だわ。あなたは心配ではないの?」
リディをあれだけ可愛がっておきながら、皇宮へ、実の母と会う事になることと皇女の事で心配ではないのかと少し責めるように見つめるとリュシオルは肩を竦めた。
「そうだねぇ。少し心配かな。けど、リディそれなりに強いから、大丈夫じゃないかな」
「常に皇女殿下に遠慮をしているのに、大丈夫かしら」
「アリーは心配性だね。明日母上にも伝えるんだろう? リディに直接聞いてみたらいいよ。まぁ直接のお誘いだから断れないけど」
そこが問題だ。皇后からの直接お茶会の招待なので、よっぽどな理由がなければ断ることなんてできない。
結局参加することになるのだけれど、それでもいつも皇家に遠慮しているリディアーヌをアリアーヌは心配でならなかった。
翌日、アリアーヌは別邸を訪れ招待状をフェリシエンヌに手渡す。
「あらあら」
フェリシエンヌは招待状に目を通すと特に困った様子もなくすっとリディアーヌへ手紙を渡す。
「お母様、これは私が読んでもいいのですか?」
「えぇ大丈夫よ」
フェリシエンヌの許可を得てリディアーヌも同様に招待状を読むと、ほんの少し眉を寄せた。
「仕方ないですね」
「リディったら、そういう言い方してはいけませんよ」
「ごめんなさい」
まさか眉を寄せただけで否を言わずに了承したことにアリアーヌは驚いた。
そしてフェリシエンヌもあまり心配していないようで「衣装は三人で合わせましょうね」とリディアーヌと楽しそうに話している。
「アリー、どうしたの?」
「え? あ、申し訳ありません。少し驚いてしまって」
「リディの事を心配していたのね?」
「はい。皇后様のお茶会に子供が呼ばれるのは初めてですから」
「子供はなにもリディだけじゃないわ。リシーも一緒だし、リシーが呼ばれたならばサジェス公爵家の嫡男も呼ばれているはずよ」
流石に大公家の子供達だけが呼ばれることはない。
皇后もその辺りは抜かりなくしている事は二人共疑ってはいない。
ただ、アリアーヌはリディアーヌが心配で仕方がないのだ。
その様子を見たリディアーヌはアリアーヌに微笑みかける。
「心配していただきありがとうございます。何かあっても皇后陛下が対処してくださるでしょうし、大丈夫です」
彼女の言葉に間違っていないけど、やはり両陛下の子供なのだと変な関心をしたアリアーヌだった。
さて、今回のお茶会には招待主の皇后と大公家の四人、他にはジャルディノ公爵、サジェス公爵夫人とエミリアの年の離れた弟が招待されていた。
彼の名はレイニエ・ルン・サジェス。サジェス公爵に似てまだ八歳なのにきりっと整った容姿だ。
今回のお茶会は大公家と二大公爵家のみで他の招待客はいなかった。
場所は皇宮の庭園の一角でそこに足を踏み入れた時、ついその美しさに目を奪われた。
「リディったらすっかりこの庭園に心を奪われてしまったわね」
「あ、ごめんなさい」
「謝る事じゃないわ。いつ見てもここは素敵な場所で、私達もリディと同じ気持ちよ」
アリアーヌに言われて彼女を見上げると同じように庭園を魅入っていた。
案内された場所には既にジャルディノ公爵、サジェス公爵夫人とレイニエが揃っていた。
フェリシエンヌ達が来たことに気が付き立ち上がって挨拶をうけた後は皇后が来るまで会話を楽しむ。
それ程間を置かずして皇后であり、リディアーヌの実の母でもあるカサンドラ・リナ・エクラタンが優雅な足取りでいらっしゃった。
リディアーヌは少し緊張していた。
母に会うのは久しぶりで、もう二年程ぶりになる。
年に数回、手紙のやりとりはあるものの、会う機会もなく、またリディアーヌにしても会って何を話せばいいか分からないし皇女が気になってそこまで会いたいという気持ちが沸かないというのが本音だ。
今日のお茶会はルヴェリエ家の公女として会うので、他人行儀でいいだろうと思うも、心内は何故かもやもやと落ち着かない。
そんな風に渦巻かせていると、いつの間にか大人達の挨拶が終わっていた。
内心少し慌ててしまったが、フェリシエンヌとアリアーヌに合わせてリディアーヌも席についた。
「今日は可愛らしいお客様もいらっしゃるので、本日のスイーツは目で見ても楽しめるようにしてみましたの」
そう言って卓上に並べられたのは可愛らしく彩られたお菓子の数々。
どちらかというと子供向けと言えるだろうが、目に見て楽しめる点ではお茶会に相応しく華やかな盛り付けだ。
リディアーヌはすっかり皇后がいる事をそっちのけでお菓子に釘付けになっていた。
「今日は公女様方に公爵令息もいらっしゃって驚きましたわ」
「たまには可愛らしいお客様も呼んで癒されたいと思いましたの」
「確かにリディアーヌ様とフェリシー様は可愛らしいですもの。見ているだけで癒されますわ」
「あら、ありがとう。リシーは癒されるかもしれないけれど、リディはどちらかというとクールな一面も持ち合わせているから、癒されるかしら」
「それを言ったらサジェス令息も幼いながらに公爵に似て将来有望ですわね」
「中身はまだまだ子供ですけれど、そう言っていただけて嬉しいですわ」
母親の言葉に少しだけ不満があるような一瞬ムッとしたけれど、直ぐに笑みをたたえる辺り、教育が行き届いているようだ。
そんな子供達の反応を見ながら夫人達の会話は弾む。
「お姉様、このケーキが美味しいですからお姉様も食べてみてください」
「ありがとう。食べてみるね」
可愛らしくケーキをお勧めされてリディアーヌは大きな苺が上に乗っている可愛らしいプチケーキをぱくりと食べる。
食べた瞬間、苺のジューシーさと少し酸味があるものの、ケーキの甘さといい感じに絡み合ってとても美味しかった。
(これは苺だけで食べたいかも……)
リディアーヌはケーキよりも苺が気に入ってしまったけれど、フェリシーは苺よりもケーキが気に入ったようだ。
リディアーヌはケーキを食べながらふとエミリアの弟へ視線を向けると彼はじっとフェリシーを見つめていた。
フェリシーはフェリシーで彼にもケーキを勧めている。
今日が初対面のはずだけれど、あまり人見知りもせず声を掛ける所をみるとリュシオルとアリアーヌの良いところを引き継いでいるようだ。
それにしても彼のフェリシーを見る視線が気になる。
なんていうか、嫌ってはいないけれど、今まであまり見た事のない眼差しで不思議に思う。
「リディ、どうしたの?」
「お母様。いえ、何でもないです」
「あら、何でもないって顔はしていないわよ」
こそって聞いてくるフェリシエンヌにすこし困ったように話そうかどうしようかと悩む。
別に隠す事でもないしだからと言ってここで話すような事でもないと思って迷ったけれど、フェリシエンヌは逃がしてくれなかった。
「サジェス令息がずっとリシーを見ているのが不思議で、ただそれだけです」
どういったらいいか分からず、もやもやしている事は置いといて答えると、フェリシエンヌはちらりと令息を見る。
すると「ふふっ」と笑った。
「リディにはまだ早いのね」
「お母様?」
「後で教えてあげるわ」
どうやらフェリシエンヌはあの視線の意味が分かっているようだった。
フェリシエンヌがリディアーヌとこそこそと話しているのを見たジャルディノ公爵が同じく視線を令息に向けて、こちらも微笑ましいとばかりに表情を綻ばせた。
「やはり子供達を招いて正解でしたね」
「純粋な心に癒されますわ」
「可愛らしいけれど、リディアーヌ様はそちらの方面には疎いようですわね」
大人達の会話に名を呼ばれるとは思わず、ジャルディノ公爵へと視線を向けてこてんと首を傾げた。
「リディアーヌ様はそのままでいらしてくださいませ」
余計に分からずにちらりとフェリシエンヌを見るとこちらもくすくすと笑っていた。
(皆の会話がさっぱり分からない)
リディアーヌはますます訳が分からずに首を傾げるもその姿に大人達は癒されていた。
お茶会も終盤にさしかかり、子育て会話から最近の貴族達の動向、ただ単に楽しいお茶会だけではなく、最近の貴族達の様子を話し合っているようだった。
ジャルディノ公爵は公爵としての仕事に加えて社交界にも積極的でとてもお忙しいと聞いているけれど、それを微塵にも感じさせない程の情報通でリディアーヌはいつも驚いていた。
皇后にしても今日のお茶会で久しぶりに相まみえたが、手紙でのやり取りだけでは彼女の普段の様子はうかがい知れず、皇后としての新たな一面をみて、少しだけ見方が変わった。
そう、手紙のやり取りはしているものの、あまり母娘といった感じはなかった。
リディアーヌが皇女に遠慮しているというのもあるが、それは彼方も同じような感じだろう。
何となく、不思議で皇后には悪いけれど、母親というよりも皇后、といった目上の人だという認識が強く感じた。
それはリディアーヌの側にはフェリシエンヌという養母がいるからなのかもしれないが、やはり純粋に実の母親だという気持ちが薄く感じられる。
「お姉様、どうしたの?」
「え?」
「ぼーっとしていましたよ」
「ごめんなさい。何でもないの」
「お姉様には私がいるよ?」
こてんと可愛らしく純粋に気持ちを伝えてくれるフェリシーが可愛くて、ぎゅっと抱きしめたい衝動にかられたが、さすがにここでそれは出来ないからぐっと我慢した。
「あらあら」
「フェリシー公女とリディアーヌ公女は本当に仲の良い姉妹ですわ」
「年も近いですし、リディアーヌ様はとっても頼れるお姉様でしょうから。フェリシー公女も安心なのでしょう」
頼られていたら嬉しいけれど、頼りになっているのかは甚だ疑問だ。
リディアーヌ達が大人しく座っているのを見ていた皇后は、リディアーヌ達に庭園を散歩してきてはどうかと提案した。
公子は分かりやすくぱっと表情を嬉しそうに輝かせ、リディアーヌもこの奇麗な庭園を見てみたいと思っていたから皇后の提案にのった。
三人を見守る様に後ろから護衛と侍女が付いてきてくれるが、基本三人の自由に見て回っていいらしい。
「あの、リディアーヌ様、フェリシー公女様を私がエスコートしてもいいでしょうか?」
サジェス令息がきりっとして可愛らしくフェリシーのエスコート役をリディアーヌに許可を求めてきたので少し驚いたものの「お願いします」と返事をしたが、フェリシーは困ったようにちらりとリディアーヌを見るけれど、リディアーヌは可愛らしい二人に頷くと嬉しそうな令息とちょっと恥ずかしそうなフェリシーを見て悶えていた。
その様子は見守っていた大人達も同様だった。
「まぁ! ちゃんとリディアーヌ公女に許可をとるあたり、サジェス令息はとても紳士でいらっしゃるわ」
「これは将来が本当に楽しみですわね」
「リシーったらあんなに可愛らしい一面もあるのね」
「サジェス公爵家の次期は安心ですこと」
「このまま育ってくれるといいのですけれど」
皇后から公爵夫人までそれぞれの感想を呟く。
子供達の微笑ましいやり取りにほっこりしつつ、皇后はすっと侍女に目線を送ると、さっと新たなお茶が準備され侍女が下がると、先程までの和やかな空気からは考えられない程殺伐とした会話を変わらぬ穏やかな表情で始まった。
その頃、庭園を散歩をしているリディアーヌは、前を歩くフェリシーをエスコートする令息を見守りつつ美しく咲き誇る花々を楽しんでいた。
勿論子供達だけではなく、リディアーヌの少し後ろを皇宮の護衛と侍女が同行している。
少し進むと可愛らしい温室があった。
侍女に確認すると入ってもいいという事で、三人でそちらへと向かった。
「すごーい!」
中に入るときらめく陽光がガラスを通じて温室に降り注ぐ。
だからと言って熱いわけではなく、温度管理が魔術具で行われているようでとても居心地が良くて、何よりも花だけではくなく観葉植物等もあり、ちょっとした植物園のようだ。
フェリシーが思わず言葉が出るのも頷ける。
サジェス令息とフェリシーも共にこの光景に釘付けになっていた。
「よろしければ、奥に寛げるソファもありますのでご休憩なさいますか?」
「いいね! リディアーヌ公女様、いいでしょうか?」
「はい。大丈夫ですよ」
彼は変わらずリディアーヌにお伺いを立てる。
三人の中では一番の年上で、フェリシーの叔母でもあるのでリディアーヌに聞いてくれているのだろう。
それに、エミリアの友人でもあるのでそれでかもしれない。
侍女の案内で温室の奥へ向かうと、ゆったりと出来るようなソファにおしゃれなローテーブル。
この温室内部に調和した色合いとデザインで統一されこの空間自体が一体化しているようでこれだけで絵になるようなところだった。
侍女に促されソファへ座り一息つくとすっとお茶とクッキーが準備された。
「あ! お姉様、このクッキーはクリームが挟んでいますよ」
「美味しそうね」
フェリシーはぱくりと可愛らしくクッキーを食べると美味しそうに顔を綻ばせた。
令息はそんなフェリシーの様子を見て「可愛い」と呟きこちらも顔が蕩けていて他のお菓子も勧めている。
その様子を見つめるリディアーヌは不思議に思っていた。
エルネストが妹を見るときに見せる様子に似ているようでちょっと違う。
何だろうと首をひねる。
フェリシエンヌやアリアーヌは分かっているような様子だったから後で聞いてみようと思った。
リディアーヌの疑問を他所に、可愛らしい二人を愛でつつ和やかな時間を過ごした。
ご覧いただきありがとうございます。
次回も楽しんていただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします(ꈍᴗꈍ)




