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自由な空の下  作者: 月陽
第八章 転換期
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事の顛末


 暫くの間、屋敷に籠るといってもいつも通りなリディアーヌは、家庭教師からの勉強も必然的にお休みとなったので、自習をし訓練に力を入れていた。

 自習にしても大量に課題を出されてしまったので、午後はもっぱら図書室に籠っている。

 エヴァは頃合いを見遣り、休憩にとお茶を準備し強制的に休憩を取らせることが日課になっていた。

 たまにフェリシエンヌが様子を見に来るときもあり、その時は勉強を中断してお茶会となる。

 ベルトランからの授業は継続していて、こちらも順調に進んでいた。

 たまに息抜きとばかりにベルトランとフェリシエンヌの三人で団欒の時間を設ける。

 

 屋敷に籠ってから一週間後、昼過ぎにリュシオルから呼び出されて本邸へと顔を出した。

 リュシオルの執務室のソファに座ると、何故か美味しそうなスイーツがいくつも準備された。

 じっとリディアーヌがそのスイーツを見ていると、くすくすとヴェナン伯爵に笑われてしまい、恥ずかしそうに視線を外す。



「お嬢様。どうぞ遠慮せずに、食べながらもう少しお待ちください」



 その言葉に、更に恥ずかしくなってしまったけれど、美味しそうなスイーツには勝てず、結局手を伸ばした。

 ぱくりと可愛らしく食べるリディアーヌを見て、リュシオルは悶え、ヴェナンも「可愛らしい」と優しく微笑んだ。



「ごめんね、待たせちゃって」

「いえ。お兄様、美味しいスイーツをありがとうございます」

「準備したかいがあったよ。妹のこんなに可愛い顔が見られたんだからね」

「……あまり見ないでください」



 恥ずかしくてぷいっとそっぽむく姿もリュシオルにとっては可愛い仕草にしか映っていないので、リディアーヌは自らリュシオルが悶える行動をとっている事に気づいていなかった。



「今日リディに来て貰ったのはこの間の一件で、結論から言うと、()()犯人は捕まったよ」

「そうですか。解決して良かったです」



 一応、という言葉を聞いてちょっと引っ掛かったけれど、犯人が捕まったのなら良かったと素直に思った。


 

「ごめんね。不自由をさせてしまって」

「全然不自由ではなかったですよ。好きなことをして過ごしてました」

「好きなことって勉強と訓練?」

「はい。いつもより多く時間を使う事が出来ましたから楽しかったです」

「リディは向上心が強いよね。宮廷の騎士団も見習ってほしいよ」



 あれから訓練だけでなく、教養も含めてかなり厳しくなったと聞いているが、リュシオルから見たらまだまだという事なのか。

 首を傾げていると、ヴェナンが「地獄のような訓練」だとぽつりというのだから、やはりリュシオルから見た話だろう。



「リディは犯人に興味ないの?」

「特に……。詳細を聞いた方がいいですか?」

「リディは当事者だからね。聞く権利があるよ。そのために呼んだのだから」



 当事者と言えば当事者か。

 どこかの令嬢には犯人扱いされていたみたいだし、そういえばあの令嬢は反省するのかな。

 ちょっと思考を斜めにさせていたら、リュシオルが詳細を話し始めたので意識を戻す。

 リディアーヌが騎士団へ行った翌日の午後にエヴルー男爵が登城し、先ずは男爵から話を聞いた。



「男爵。急にお呼び立てし申し訳ありませんね」



 対応したのはリュシオルだ。

 今回狙われたのが皇女なので、情報管理局のトップであるリュシオルが動いた。


 

「い、いえ。あの、申し訳ありませんが、先ずは娘に会わせていただいてもよろしいでしょうか? 倒れたと聞いたのですが、容態は? 意識はあるのでしょうか?」



 男爵には娘が倒れたので宮廷に来るようにと呼び出したので、何よりも娘の容態が気になっていて気もそぞろだ。

 そこに嘘偽りはないように見える。



「未だ意識はありませんが、体に問題はありませんので安心してください」

「あ、あの、大公閣下。娘は何故倒れたのでしょう?」

「あぁ、申し訳ないのですが、先ずは男爵に問いたい事があるのです」



 情報局のトップからそのようなことを言われると男爵は顔色をさらに悪くさせた。


 

「ど、どのような事でしょう?」

「令嬢が皇女殿下主催のお茶会に出席した事はご存知ですか?」

「い、いえ。知りませんでした。私は領地におりましたので。妻は知っているかと」



 男爵は何が何やらと、皇女のお茶会に出席して倒れるとか、下級貴族ならばそのような失態を犯したとなれば他の貴族家からどのような目で見られるか。

 男爵は顔面蒼白だ。

 リュシオルはいつもの笑顔で男爵を注意深く探る。



「あ、あの……娘は、その殿下のお茶会で何か粗相を?」

「その場にいた令嬢達からの証言では、貴方の娘は領地の新しいお茶を殿下に召し上がっていただこうとお茶を持参したみたいだけれど、殿下に断られてその場で一気に飲み干したそうだよ」

「は? あの、領地の新しいお茶、ですか?」



 何のことなのかと言われたことがわからないのか男爵は疑問に思ってるようだ。


 

「おや、違うのですか?」

「はい……確かに新しい茶葉の開発を行っていますが、まだ世に出せるほどには至っておりません」

「では、令嬢は殿下に嘘をついたことになりますね」

「っ!? お、お待ちください!! 本当に、娘はそんな事を?」

「えぇ。何人もの令嬢がその場で聞いておりますから間違いないでしょう。殿下の証言でもあります」



 その言葉を聞いて顔を真っ青にさせた男爵は項垂れ口をはくはくさせている。

 男爵が顔面蒼白になるのは皇族に対して嘘をつくという事は、本人にそのつもりがなくとも謀ったとみられてもおかしくない。

 そしてその量刑も重くなる。

 下手したら死罪だ。

 ぶるぶると震える男爵は椅子から下り、床に両膝をついて地に頭がつくほど下げる。



「娘が皇族を謀りなどあり得ません! 誰かに唆されたに違いありません! どうか! 娘と話をさせてください!!」



 男爵は震える声でリュシオルに訴えかける。

 その様子を表情を変えずじっと見下ろす。



「男爵、先程も言いましたが、令嬢はまだ目覚めておりません。男爵、顔を上げなさい」



 リュシオルの言葉にそろそろと顔を上げる。

 その様子を見ていつも通りの優しい笑みを男爵に向けるが、男爵はそれが死の宣告のような笑みに見えてガタガタと震えが止まらない。



「男爵に問いますが、令嬢が何故そのような嘘をついたのか、その理由は分かりますか?」

「いえ、心当たりも無く、分かりません」

「全く心当たりがないと?」

「はい。娘の事なのに情けないですが……」



 まぁ皇都に残し男爵領で仕事をしている男爵からしたら、娘の全てを知っている、なんてことはないだろうが、手紙のやり取り位はしているはず。

 エヴルー家の調査報告書によれば、男爵家の仲は貴族家の中では非常に仲が良く、領民との距離も近くて、令嬢自身も領地にいるときは領民に混ざって領地の特産である紅茶の元である茶畑で作業することもあるそうだ。

 男爵と男爵夫人も同様だからか領民にとても慕われている。

 領主として優しすぎる所が玉に瑕らしいが、概ね問題ないとの事だ。

 令嬢は現在十二歳で来年から学園へ通う為、皇都に慣れるようにと夫人と共に皇都で暮らしている。

 長閑な領地と比べ物にならない都会だからか、令嬢は皇都に興味津々でよく街へ出かけていた。

 夫人は皇都に来てから社交を行っていたようで、令嬢と共に出掛ける事もあったが、令嬢の為にと誘われたお茶会に出席していたそうだ。

 特に問題はないように感じる。

 問題があるとしたら令嬢の方だ。

 街へ出かけている間にトラブルがあったらしいが、その時侍女は側にいなくて戻ってきたとき、少し様子がおかしかったというから、何かあったのならばその時だろう。

 その時の情報もあやふらだから本人が目覚めてから聞くしかない。

 思考に耽っていたらコンコンコンッという軽やかなノックがあり意識を戻し、入室の許可を与えると、情報局の職員が一人入ってきた。

 リュシオルに近づき耳打ちすると、さっと礼をして出て行った。



「男爵」

「は、はい」

「令嬢が目を覚ましたようです」

「ほ、本当ですか!?」



 リュシオルから齎された朗報を聞いて、男爵に安堵の表情が広がった。



「閣下、会わせていただいてもよろしいでしょうか」

「勿論ですよ。ですが、私も同席します」

「ありがとうございます!」



 その後、少ししてから令嬢がいる情報管理局内の一室へ向かった。

 毒で倒れて意識混濁していたとはいえ、皇女に毒を飲ませようとした張本人なので、外には騎士を配置し、部屋の窓には鉄格子が嵌められているような殺風景な一室に寝かされていた。

 流石に娘がこのような場所に寝かされていると知った男爵が何か言うかと思ったが、先程の話でこれも仕方がないことだと思っているのか、何も言わなかった。



「局長、お待ちしておりました」

「様子はどうだい?」

「はい。毒は既に抜けておりますが、まだ熱が下がり切っていません。話をする分には問題ありませんが、体調が悪くなってきたら終了してください」

「そう、ありがとう」



 この医師の名はイヴァン・モレル。

 医師としてだけではなく、魔術にも秀でているので情報局専属の医師なので、犯罪を犯した者を診るのにうってつけな人物だ。

 そのイヴァンに続き、ベッドへと近寄る。



「エヴルー嬢。お父上がお見えだよ」



 イヴァンが優しく声を掛けると令嬢はふっと目を開けた。

 そしてのろのろとこちらを見る。

 先に目に入ったのは男爵の前にいたリュシオルで、その後ろに見えた男爵の顔を見た瞬間、泣き出した。



「お、と……さ……」

「あぁ! メリナ、倒れたと聞いて心配したよ。どこも痛くないか? 辛くはないか?」



 心配で娘の顔の顔を見ながらてをぎゅっと握る男爵はどこからどう見ても娘を心配する父親の顔だ。

 リュシオルは冷静に二人を見つめる。

 漸く落ち着き、男爵はリュシオルに視線を向ける。



「メリナ・エヴルー男爵令嬢。気分はどうかな?」

「あ、あの……はい。まだ少し怠い感じはあります、けど、大丈夫です」

「そう。それは良かた。では、少し話を聞いてもいいかな?」

「っ! はい……」



 一瞬ぎゅっと手に力が入り震えていたが、顔を上げてリュシオルを見る目に迷いはなかった。

 そしてぽつぽつ話始める。

 令嬢はこちらが調査した通り、学園へ入るまでに皇都に慣れるよう夫人と共に皇都へとやってきた。

 皇都へは何度か来たことがあるが、あまり滞在した事がなく、浮かれていたこともあり街へよく出かけていた。

 勿論一人ではなく、侍女を連れていた。

 ある日、皇女からのお茶会の招待状が届いた為、出席するようのドレスを購入するために街へ赴いた。

 ドレスショップで見繕ってその後疲れたのでカフェで休もうと侍女と歩いていたが、その時どんっと大きな男性とぶつかってしまい、その一瞬で侍女とはぐれてしまった。

 その日はいつもより人通りも多く、皇都に来たばかりのメリナは焦ってしまった。

 その一瞬のスキをついて、ぶつかった相手とは違う男に路地の方へと連れていかれた。

 その間に目隠しをされ担がれる。

 声も出せない状況に恐慌状態に陥るが、メリナ自身何もできずに恐怖で涙が出る。

 そしてどさっと床か地面か分からないが、乱暴に下ろされた。



「さてと、ちんけな娘を攫ったはいいが、兄貴、こいつでよかったのか?」

「あぁ。問題ないだろう」

「んで? どうするんだ?」

「取り合えず、そいつの布を外せ」

「へい!」



 下品な言葉遣いと恐怖に慄きながら視界が戻り、口を塞がれていた布も外された。

 そして目の前には男が四人。

 その内一人はメリナの侍女がぐったりと横たわり、一人の男が侍女の首に短剣を突き付けていた。

 その姿を見て恐怖で声が出したくともがちがちと歯が成るだけで声にならない。



「恐怖で声も出ねぇみたいだな」

「へへっ」

「おい、それ以上怖がらすなよ。話になんねぇからな」

「へーい」



 目の前の大きな木の箱に座る男がこの中のリーダーなのか、じっとこっちを見ている。



「まぁ、そんな怖がるな。といっても無理かも知んねぇが。俺達はお前に頼みがあるんだ」

「……た、たのみって」

「大人しく聞いてくれりゃ、そこの女とお前は無傷で解放してやる。だが、断ればそこの女の命は保証しねぇ」

「わ、分かったから、アニーに何もしないで!」

「はっ! 何も聞かずに頷くとはありがてぇな」



 メリナはただアニーが傷つくのが嫌で直ぐに頷いたが、それを馬鹿にしたように周囲の男達の下品な笑いが響いた。



「お、お願い……私たちを帰して……」

「勿論。だが、さっきも言ったように頼みがある」



 座っていた男はメリナに近づき腰を落とす。

 そしてコトンと小瓶を置いた。



「これを今度開かれる皇女のお茶会の時に皇女の飲み物へ入れろ。それが頼みだ。あぁ、頼みと言っているが必ず実行しろよ。でなけりゃ、お前とそこの女だけじゃなくて、田舎の男爵なぞ簡単に潰せる。傷つくのはお前等だけじゃねぇ」

「ひっ!」



 極悪な笑みを浮かべ剣をちらつかせて脅された子供でか弱い令嬢にとってはただただ恐ろしく、そして家族が傷つくと分かれば頷くしかないだろう。

 令嬢は言葉を発する事が出来ず、こくこくと頷く。



「物わかりの良いお嬢ちゃんで助かる。だが、誰かに話したりこれを使わなければ……分かってるな?」

「は、はい! 誰にも言わないから、み、皆を傷つけないで……」

「勿論だとも。約束だ」



 とてつもない恐怖の中、震え、涙声で彼等とやり取りしたのはそれだけだった。



「それで、その男達の言葉通り、お茶に(これ)を入れたと」

「は、はい」

「その後自分で飲んだのは男達に言われて?」

「い、いえ……。し、失敗したから、どうしたらいいか分からなくなって……それで」

「衝動的に飲んでしまったのかな?」

「はい……」



 ぎゅっと目を瞑りリュシオルの言葉に頷く。

 それを慰めるように抱きしめる男爵には悪いが、もう暫く話を聞いた。

 男達の特徴と他に気付いた事を確認する。

 暫く令嬢から話を聞いていると、流石に熱が上がってきたので面会を終えた。

 暫くこの部屋から出る事は許されず、男爵と夫人に関しても令嬢の処遇が決まるまで暫くは屋敷にて謹慎を言い渡した。

 令嬢に毒を渡した男達に関してはその二日後には確保したが、肝心の黒幕に関しては全く覚えていなかった。

 覚えていない、というか寝耳に水と言った様子で皇女に毒を盛る様に言ったことすら覚えていなかった。

 更に捕らえた者達の身体を調べると、忘却の魔術を使われた痕跡が僅かに残っており、それ以上の情報は奴等の口からは引き出せなかった。

 ただその男達には他にも犯罪を犯している事実が出てきたため、今回はそれも含めて処罰する事になる。

 当の男爵家についてだが、今の所男爵領を含め怪しい者はいない。

 屋敷の方も問題ないというから、直ぐにその場から去ったか、若しくはただの脅しだったのか。

 もう少し詳しく調査が必要となる。



「……と今のところはこんな感じだね」

「あの令嬢はどうなるのですか?」

「どのような理由があろうと皇族に毒を盛ろうとしたのは確かだからね。処罰は免れない。本来ならば極刑だが、まだ未成年と人質を取られた状態で本人には無ずすべも無かったことを考慮して修道院送りかな。男爵夫妻は全く関わっていないが、監督不行き届きで一年間、男爵領にて謹慎処分になるだろうね」



 リディアーヌにはそれが重いか軽いのか判別できないけれど、未成年の令嬢が修道院送りとなっては親と気軽に会うことも出来ないので、ぬくぬくと育った令嬢にはきついのだろうと思う。



「あまり関心なさそうだね」



 関心が全くないことはないけれど、自分にはあまり関係の無いことなので、リュシオルの言葉に曖昧に笑った。



「そうそう、今度ルナール侯爵と令嬢が謝罪に来たいと言ってるんだけど、どうする?」

「謝罪ですか? なんの?」

「なんのって、リディが屋敷に軟禁させた張本人だよ。何の根拠もなく可愛いリディが怪しいだの、毒を飲ませただの戯言を宣った頭の軽い令嬢だ。謝罪に来るのは当たり前だよ」



 笑顔で毒を吐くリュシオルになぜ怒っているか分からず、首を傾げつつも話を続ける。


 

「別に軟禁させられたとは思っていません。いつも通り過ごしていました」

「リディが大して何も感じてないのは分かってるんだけどね。こればかりは私だけでなく、父上や母上、それにエルネスト達も怒ってるんだよ」

「リュシオル様。そこに私も加えてください」

「だそうだよ」



 ヴェナン伯爵まで言い出してリディアーヌは困った。

 自分はなんとも思ってないのに自分以外が令嬢に大して怒っているなんて、なんて言っていいか分からない感情にぎゅっと胸を押さえる。

 そんなリディアーヌの姿を見てリュシオルとヴェナンは優しい眼差しを向ける。



「同席するのは父上と当事者のリディ、勿論私も同席するからね」

「分かりました」



 すでに決定事項のようでリディアーヌは静かに頷く。

 日程は明後日、本邸で会うことになった。

 

ご覧いただきありがとうございます。


次回も楽しんでいただけたら幸いです。


よろしくお願いいたします(ꈍᴗꈍ)

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