慈善活動
家庭教師の授業を受けるようになり早一ヵ月。
最初の印象とは正反対のメリューの態度に呆気にとられたものの、今は慣れてしまい、彼の熱血な教えに真面目に取り組んでいた。
新しい知識を得る事は楽しく、フェリシエンヌには心配されたが問題はないのでそのように伝えた。
「……今日はここまでにしましょう」
「ありがとうございます」
「来週までの課題はこちらに記載しています」
「はい」
授業は週四日で、午前中に行っており、週明けまで授業はお休みだが、こうして毎回課題を出される。
それも紙に課題を書かれており、自分で調べたり、その課題に対しての意見を書いたりと問題というよりはレポートに近いかもしれない。
今回は先生の都合で来週お休みになるので課題が多いけれど、やりがいはあるので頑張ろうと意気込む。
その様子をみていたメリューはやる気十分な生徒にうんうんと満足そうに頷いていた。
その日の午後は久しぶりに本邸のアリアーヌからお茶のお誘いがあり、そちらへ向かった。
時間よりも少し早くついたのだけれど、庭園にはすでにアリアーヌとフェリシーが待ったいてリディアーヌを歓迎した。
「お義姉様。お誘いありがとうございます」
「待っていたわ。リシーも楽しみにしていたのよ。ね?」
「はい! リディお姉様。こちらへどうぞ」
可愛らしくリディアーヌの手を引いて「どうぞ」と案内してくれた。
その姿にリディアーヌは「可愛い!」と内心ほっこりとするが表にはあまり出さない。
「可愛い義妹と娘と一緒にお話しできるのは幸せね」
「わたしも! お母様とお姉様と一緒にお話できて嬉しいです!」
にこにこと太陽みたいに可愛らしく笑うフェリシーにリディアーヌはまたもや悶えていた。
「午前中のお勉強は疲れたでしょう? 沢山食べてね」
「ありがとうございます」
テーブルには可愛らしいケーキにクッキーなど美味しそうなスイーツが沢山あり、リディアーヌは果物が沢山載ったケーキをぱくりと食べた。
「美味しい」
「ふふ。良かったわ。リディの家庭教師は少々個性的だと聞いています。授業はどう?」
「最初は驚きましたけど、今は慣れたので問題ありません」
「無理はしていないかしら」
「はい。学べることが沢山ありますから、楽しいです」
「それを聞いて安心したわ」
とても心配していたようでアリアーヌはほっとした様子を見せた。
「暫く授業はお休みなのよね?」
「はい。外せない予定があるとかで、来週いっぱいお休みになります」
「そう。では三日後、私達と一緒にお買い物へ行きましょう」
「私も一緒に行ってもいいのですか?」
「勿論よ! リシーも一緒に行きたいよね?」
「お姉様も一緒がいいです!」
「誘っていただいてありがとうございます。楽しみにしています」
リディアーヌの返事を聞いてアリアーヌとフェリシーは二人で喜んでいた。
それからフェリシーから質問攻めにあったり一緒に散歩をしたりして、彼女が眠くなる時間帯になったのでお開きとなった。
午前中は家庭教師の授業を受けているけれど、フェリシエンヌとベルトランの授業も継続して受けている。
二人の授業は週に三日で午後から学び、それ以外の日にちは訓練を行っているので、メリューの授業が増えたことで忙しい毎日を送っている。
三日後はあっという間で、アリアーヌとフェリシーとお出かけする日となった。
「今日は楽しみね」
「お義姉様、今日はどちらへ行くのですか?」
「私が支援している孤児院へ行くのよ。皇都の教会なのだけれど、隣に孤児院が併設していいて、子供達に勉強を教えたり一緒に遊んだりしているの」
「皇都にも孤児院があるの、初めて知りました」
孤児院と聞いて少し前の事を思い出した。
リディアーヌ自身、記憶にないくらいの赤ちゃんの時の話だけれど、孤児院にいたらしいから、少しだけ暗い気持ちが湧き上がってきた。
「お姉様、大丈夫?」
「え? あ、うん。大丈夫」
フェリシーに心配かけてしまったようで慌てて微笑む。
「リディ、今日はリシーと一緒に孤児院の子供達といっぱい遊んでほしいの」
「遊ぶって、何をしたらいいのですか?」
そう、リディアーヌには遊ぶという事が分からなかった。
今まで勉強や訓練ばかりで遊んだ記憶がないので、遊ぶといった行為がどのようなものなのか全く想像できないのだ。
「リシー、いつも何して遊んでいるの?」
「おいかけっこにかくれんぼうに、後は、お絵かしたり、絵本をよんだり!」
「楽しそうね。子供達がやりたいことをリディが一緒にすればいいのよ。あまり気負う事はないわ」
「私、遊んだことがないから、一緒にちゃんと遊べるか分かりません」
「大丈夫。子供達から学べばいいのよ。きっと沢山教えてくれるわ」
アリアーヌに慰められるように言われたけれど、それでも不安はぬぐえない。
彼女が支援しているならきっと孤児たちの未来は明るいのだろうけど、それでも自分が受けた境遇があるからか、あまり明るい気持ちになれなかった。
そうしているうちに、皇都の教会に着いた。
此処に来るのは初めてで、馬車から降りてみるととっても大きな建物で驚いた。
「先ずはお祈りに行きましょう」
アリアーヌに誘われて教会内へ入ると、そこには男性が一人出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。ルヴェリエ大公夫人、公女様。そちらは……」
「紹介するわ」
アリアーヌに手招きされて彼女の横に行くと、そっと背中に手を添えられた。
「リディ、彼の名はピエール。この教会の司祭様よ。ピエール司祭、彼女は前ルヴェリエ大公殿下の養女でリディアーヌ・エメ・ルヴェリエ。私の義妹なの」
「ご紹介に預かりました、ピエールと申します。ルヴェリエ殿下のご息女にお会いでき光栄に存じます。公女様の行く先に光の導きがありますように」
「初めまして。リディアーヌです。えと、ありがとうございます」
なんと返事をしていいか迷ってしまったが、優しく笑いかけてくれてほっとした。
挨拶が済み、早速礼拝堂まで案内される。
その道すがら、初めて訪れたリディアーヌの為に、教会の事を詳しく教えてくれた。
「こちらが礼拝堂になります」
「案内ありがとう」
ピエールの後ろをついて行く。
礼拝堂に入ってからは今まで感じた事の無い様な静謐さが漂っていて、あの森と似ているようで少し違う感じもした。
今迄祈った事がないものだから、どうしたらいいか分からなかったけれど、ピエールが丁寧に教えてくれたので、皆と一緒にお祈りする事が出来た。
目の前の女神像を怖いという事はないけれど、どこか威厳のある様な、それでいて優しく見守ってくれるような、不思議な感覚に陥った。
祈りが終わり、礼拝堂を後にすると、今度は孤児院へと案内される。
教会と廊下で続いているその建物は、孤児たちの居住区となっているようだった。
彼等は朝から教会内の掃除からお祈りをしたり、勉強に励み、適度に遊ぶ。
そういった一日を過ごしているそうだ。
将来教会に身を置き、神に仕えるもよし、外で働くもよし、自分で将来を決める事が出来るのはとても自由なのだとリディアーヌは思った。
中には養子に出る子もいるというから何があるか分からなけれど、もし、養子に貰われるとしたら、リディアーヌみたいに養子先に問題があった場合はとても辛い日々が待ち受けるだろう。
そんな暗い事を思っていると、少し広い一室に着いた。
その仲にはこの教会の孤児たちがいて、年齢はまちまちだ。
赤ちゃんもいるようだけれど、今この場にはいないが、三歳くらいの子から上は十四歳くらいの成人近い子まで揃っている。
「あ! 大公夫人だ!」
「公女様もいる!」
「こら! 言葉遣いに気を付けなさい! 申し訳ありません。ルヴェリエ大公夫人、公女様方、お待ちしておりました。本日もよろしくお願いいたします」
この中で最年長の子が下の子達を叱ってこちらにすっと頭を下げてきた。
「今日も皆が元気で何よりだわ」
「ほら。皆一度落ち着きなさい」
ピエールの一言で、ピタッと声がやんだ。
「今日は大公夫人とフェリシー公女様だけでなく、もう御一方いらっしゃっているので、行儀よくしなさい」
そう言って見慣れないだろうリディアーヌにこの部屋の子供達の視線を一気に浴びた。
その瞳は貴族の子達から受ける興味、探るような、侮蔑の籠った視線ではなく、ただ興味津々と言った好奇心に満ちた視線だ。
「こちらは大公夫人の義妹であるリディアーヌ公女様だ。今日は初めていらっしゃったのだから、皆挨拶をしなさい」
ピエールの言葉にぱっと頭を下げて一斉に「初めまして! よろしくお願いします」と大きな声で挨拶されて、リディアーヌはびっくりした。
「皆元気いっぱいでしょう?」
「はい、驚きました」
「もし、この子たちが粗相をしたら直ぐにお知らせください」
「大丈夫です」
心配そうに言われたけれど、子供達の粗相がどういったものか分からないけれど、彼等から悪意を感じないので多分大丈夫だと思い、リディアーヌも子供達に対してふわっと淑女の挨拶を返す。
「初めまして。リディアーヌです。仲良くしてくださいね」
「うわぁ!! お姫様だ!」
「可愛い!」
「ねぇねぇ! ご本読んで!」
「あ! ずるいぞ!」
次々とあれやってこれやって、一緒に遊ぼうとわらわらと近づいてきて手を取られ連れていかれる。
それを優しく見守るアリアーヌと少し困った様子のピエールに助けを求めるような視線を送るも手を振られて見送られてしまった。
小さい子たちが絵本を持ってきて、読んで欲しいと言われたので、リディアーヌは朗読することになった。
朗読している最中、子供達は静かに聞いていたかと思えば、内容に驚いたり、笑ったりと色んな表情を見せた。
その姿を可愛いと思ったリディアーヌは朗読が少し楽しく思えた。
一冊読み終えると「次はこれ読んで!」と二冊目を渡されたので、また違うお話を読んで聞かせる。
リディアーヌは知らずの内に夢中になっていたから気が付かなかったけれど、少し大きい子供達はは部屋でアリアーヌから勉強を教わっていた。
フェリシーは違う子達とお絵かきを楽しんでいるようで、楽しそうにしている。
本を読み終えると、流石に飽きたようで、今度はフェリシー達の輪に加わってお絵かきをした。
そうしていると時間はあっという間に過ぎ、帰る時間となった。
「もう帰っちゃうの?」
「今度いつ来る?」
「また絶対きてね!」
と次々に名残惜しそうに見上げられて、リディアーヌも何だか寂しくなった。
帰りの馬車の中、フェリシーはアリアーヌの膝の上に頭をのせて眠ってしまった。
「今日始めて訪れてどうだったかしら」
「最初は戸惑ったのですが、皆楽しそうで生き生きとしていて、ほっとしました」
「そうね。リディは朗読が上手ね。とても良かったわ」
「え? 聞いていたのですか?」
聞かれていたことに少し恥ずかしくて俯くと優しい笑い声が響いた。
「聞いていた、というより聞こえていた、と言ってほうがいいかしら。聴き取りやすいようにゆっくり話していたでしょう? とても良かったわ。子供達も楽しそうにしていたし、良かったらまた次も誘っていいかしら?」
「はい。よろしくお願いします」
今迄体験した事の無い事ばかりで、リディアーヌとあまり年の変わらない子も多いけれど、今日はとても楽しかったし、またあの子達に会いたいと思った。
屋敷に帰ってからは今日の出来事をベルトラン達に話すと「いい経験になったな」と嬉しそうにそていたから、以前の事が吹っ切れたと言っても、まだまだ心配をかけていたのかもしれない。
この日は初めての経験ばかりで疲れてしまったのか、直ぐに夢の中へと旅立った。
ご覧いただきありがとうございます。
次回も楽しんでいただけると幸いです。
よろしくお願いいします(ꈍᴗꈍ)




