誕生日パーティー
フェリシエンヌと共に誕生日パーティーへ向けて準備を進める。
今迄のお茶会とは比べ物にならない程やることが多い。
パーティーは気候がいいので庭園で行う事になり、招待客の人数に合わせてテーブルやイスの数は勿論の事、そのテーブルを飾るパーティー用のテーブルクロスも上質のものだ。
そしてそのテーブルを飾る花や食器も流行を入れつつも予算があるので、その予算内でどのように大公家にふさわしく、且つ流行を取り入れるかをフェリシエンヌから学ぶ。
ただ単に取り入れるだけでは意味がない。
このパーティーの趣旨に合い、全体に調和の取れた空間にすることが大事だ。
いくら最先端の流行を取り入れたとしても、ちぐはぐなものだとそれこそ大公家の質が問われる。
それらを学びつつ、この一ヵ月後のエルネストの誕生日会に向けて次はアリアーヌから学ぶ事となった。
勉強する範囲は広大でセンスを問われるので大変だ。
多忙な一ヵ月はあっという間でとうとう誕生日当日を迎えた。
昨夜から磨かれていたのだが、今日は朝からエヴァを筆頭にアメリーとクララの三人で準備を進めていく。
相変わらずリディアーヌはこの時間があまり好きではなく、ほとんど眠気との戦いになっている。
軽くお化粧を施す間だけしっかりと起きているといった状態だ。
まだ子供なので、本当にうっすらと色を付けるくらいでしい。
休憩を挟みつつ、昼過ぎにはすべての準備が整った。
朝からどっと疲れたリディアーヌは早くも誕生日会が面倒に思ってしまった。
「お嬢様、大旦那様がお見えです」
ぐったりしていたらベルトランが迎えに来たので直ぐにシャキッと姿勢を正す。
部屋に入ってきた父を見てリディアーヌは釘付けになった。
「リディ、私の顔に何かついてるか?」
「……え、あ! すみません。何もついてません」
「今日は全員お揃いで仕立てたと聞いたが、これは外に出したくないな。変な虫が寄ってきそうだ」
「変な虫?」
「あなた! リディの可愛らしさを外に出さなくてどうするのです? 今日は可愛い娘の誕生日で、この衣装のデザインをしたのだと知らしめるのですよ」
「勿論リディの素晴らしさを広めるのに異論はないが……」
「虫が寄ってこないようにするならば、エルネストにエスコートさせればよいのです」
「そうだな」
二人の会話の意味が分からずに首を傾げるが、二人から気にするなと言われてしまったので、まぁいいかとあっさり忘れる。
「それよりも、どうかしら?」
フェリシエンヌが嬉しそうにベルトランの腕に添えてリディアーヌを見る。
とても嬉しそうにしているから気に入ってもらえたようだ。
皆お揃いと言っても、ベルトランとフェリシエンヌ、リュシオルとアリアーヌの衣装は対になる様に揃え、リディアーヌ達子供の衣装は両親の衣装の一部をそれぞれに施してある。
「とても良くお似合いです。お父様は格好良くて、お母様はとってもきれいです」
「それもリディが素敵な衣装を作ってくれたからよ」
「ありがとう。リディに格好いい父と言って貰えて嬉しいな」
二人共嬉しそうにしているのを見てリディアーヌも嬉しいと微笑む。
「皆様、そろそろお時間です」
ダミアンに言われ、揃って庭園へと向かう。
そちらに向かうにつれて多くの話声が聞こえてきた。
「あぁ、父上、母上、リディ。待っていましたよ。リディ、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
リュシオルを始め、アリアーヌ、エルネストとフェリシーからもお祝いの言葉を貰い、嬉しくてお礼を伝える。
そして話はやはり衣装についてだった。
「お前達も良く似合っているな」
「リディのお陰ですよ」
「リディ、僕の誕生日の衣装も作ってくれたって聞いたよ。今から楽しみだよ」
エルネストからそう言って貰えて作ってよかったと嬉しくなる。
「エルネスト」
「はい、お祖父様」
「今日はリディのエスコートをしなさい。言っている意味は分かるな?」
「はい、勿論です。僕にお任せください」
きりっと決めてベルトランに応えるエルネストは、ベルトランが何を言いたいのか直ぐに分かったようで頷いた。
「あぁ、間に合いましたね」
後ろからちょっとほっとしたような声が聞こえてきた。
「ぎりぎりだな」
「これでも急いだのですから。リディ! 今日も可愛いね!! お誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます。シルスお兄様」
そう、やってきたのはシルヴァンだ。
今日は大公領からここまで転移で来たという。
きっとぎりぎりまで仕事をしていたんじゃないかと心配になった。
「来ないかと思ったぞ」
「可愛い妹の誕生日に来ないわけないでしょう」
「シルス、久し振りだね」
「兄上、ご無沙汰しております。義姉上もお元気そうで何よりです」
簡単に挨拶を交わした後、そろそろ会場へ向かった。
先ずは現大公であるリュシオルとその妻アリアーヌが姿を現すと今まで話に花を咲かせていた人達はしんと静まり返る。
そして、シルヴァンがフェリシーをエスコートし現れると、「珍しい」という声が聞こえてきた。
シルヴァンが社交界に姿を見せるのは殆ど無いということがよく分かる。
そしてその容姿に見惚れる女性陣もいるようだ。
その後、ベルトランがフェリシエンヌと、最後に本日の主役であるリディアーヌがエルネストにエスコートされて姿を現すと、囁き声が聞こえてきた。
主にルヴェリエ家の衣装に関してだった。
「皆リディがデザインした衣装に釘付けだね」
「他の人達の評価は特に気にしませんが、お兄様達に喜んでもらえたのが私は一番嬉しいです」
「こら。流行を生み出すには第三者の評価も大切だよ。まぁリディらしいと言えばらしいけど」
小声で話している間、リュシオルが挨拶の言葉を述べ、次いでベルトランが短く言葉を紡ぐ。
そして呼ばれたのでエルネストと共に前に出るとき、小声で「頑張って」と一言貰い、リディアーヌは招待客に向かって挨拶をする。
「本日は私の誕生日に足を運んでくださり、ありがとうございます。皆様、是非楽しんでください」
短めの挨拶だったけれど、ベルトランに頭を撫でられてほっとした。
リディアーヌの中では今日一番の仕事を終えた。
ここからは各貴族家の挨拶を受ける。
最初に挨拶へ訪れたのはジャルディノ公爵だった。
「この度は十歳のお誕生日、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「リディアーヌ様のお噂は耳に入っておりますわ。成長されましたね」
昨年ご結婚され更に美しさに磨きがかかったようで、今日もその微笑に惹き込まれる。
相変わらず優しく微笑まれてドキドキする。
「あらあら。リディは相変わらずね」
リディアーヌの様子を見てくすくすと笑ったのはフェリシエンヌだ。
「後でゆっくりお話いたしましょう」
「はい。楽しみにしています」
挨拶をる為に並んでいる人達の為にジャルディノ公爵とは後程と約束をして辞した。
その次に訪れたのはサジェス公爵家の公爵夫妻とエミリアとエミリアによく似た男性と彼女の弟だ。
代表で挨拶をしたのは公爵でリュシオルより少し年上の一見近寄りがたい雰囲気だ。
その隣で優雅な笑みを浮かべているのは公爵夫人で、昨年の騎士団の模擬戦以来になる。
お祝いの言葉を受けた後、エミリアからは「また後で」と言葉を交わした。
その後からも途切れることなく挨拶を受ける。
ランヴェール侯爵家は勿論、ディディエ侯爵家の次男、オードリックの側近でリディアーヌの事を知る人物だ。
他にもルヴェリエ家と親しい貴族家との挨拶を終え、ようやく解放された。
「お疲れ。リディ、先にジャルディノ公爵の所へ行こうか。約束していたでしょう?」
「はい。お兄様もご一緒されますか?」
「勿論だよ。今日はずっとリディと一緒だからね」
エルネストと共に公爵の元まで向かったが、令嬢達に囲まれていた。
「相変わらず凄い人気だね」
「もう少し後にした方がいいでしょうか」
「いや。行こうか」
「え?」
この人だかりをエルネストのエスコートで向かうがリディアーヌはちょっとびっくりした。
けれど、エルネストとリディアーヌに気が付いた令嬢達はさっと道を開ける。
(何だか申し訳ないなぁ)
大公家の二人の為に道を開けるのは令嬢達にとって当たり前の事なのだが、リディアーヌにしてみれば折角公爵と話す機会があるのにそれを邪魔したようで気が引ける。
「これは、エルネスト公子様とリディアーヌ公女様。お待ちしておりました」
「楽しく話をしている中お邪魔をして申し訳ありません。公爵。先程伯母上と約束をされておりましたので、少し失礼いたします」
「いえ。リディアーヌ様とお話する機会を楽しみにしておりましたわ」
「ご令嬢方、少し公爵との時間をいただきます」
エルネストは丁寧に断りを入れてリディアーヌの為に椅子を引いた。
「相変わらず仲がよろしいですわね」
「可愛いくて自慢の妹ですよ」
「ふふ。相変わらず妹想いですのね。確かに、久しぶりにお会いしますけれど、リディアーヌ様はとてもお可愛らしく成長されておりますわ。将来が楽しみです」
「ありがとうございます。クラウディア様は更にお奇麗になられました」
「まぁ。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑む公爵はそれだけで周囲の視線を集めていた。
そして彼女達が何を話しているのかと周囲は聞き耳を立てている。
「本日のお衣装はリディアーヌ様が全てお考えになられたと伺いましたわ。今までにないデザインで驚きましたけれど、大公家の皆様の魅力を引き出しつつ、けれど華美になりすぎず、芸術を鑑賞しているような感覚になります。今後、リディアーヌ様は流行を生み出し、令嬢達の刺激になるでしょう」
その誉め言葉にリディアーヌは少し照れながらも嬉しくて「ありがとうございます」と礼を述べつつ、あまり目立ちたくないという心内とでせめぎあっている。
周囲はまさか十歳の公女が衣装をデザインしたと思っていなかったようで驚き囁き声が大きくなっていた。
「そういえば、昨年は大公閣下と共に騎士団の模擬戦に参戦されたと伺いましたが、お怪我などはなかったでしょうか?」
「はい。怪我はしておりません」
リディアーヌの言葉にほっとした表情をして頷く。
「とても荒事と無縁のように思えますが、とてもお強くていらっしゃいますのね。ルヴェリエ殿下が自慢されるのも頷けますわ」
「え? 自慢ですか?」
「あら。ご存じありませんでしたか? リディアーヌ様を軽んじた者達に対して重い罰を課した事、そして娘が可愛くて強くて自慢だとよくお話されてますのよ。社交界ではあの近寄りがたく、あまり笑わない、厳しいお方が表情を和らげ娘自慢をしていらっしゃると、皆違う意味で戦々恐々としてますわ」
楽しそうに笑っているけれど、リディアーヌはベルトランの宮廷での評判が気になり。少し心配になるからあまり娘自慢はしないで欲しい。
公爵の話には続きがあった。
娘自慢ではないが、リュシオルが妹自慢をしているという。
これは以前例の騎士団の一件で、社交界で噂されていると聞いていたけれど、リディアーヌを知らない貴族たちは一体公女はどのような令嬢なのだと興味津々としているらしい。
全くもって迷惑な話で、リディアーヌは大人しくしておこうと心に誓った。
目立ちたくないし、ベルトランとリュシオルに迷惑を掛けたくないので、変な噂をされるのも嬉しくない。
「リディアーヌ様はご自身の事よりも大公様とルヴェリエ殿下をご心配されるのですね。ですが、ご自身のお噂も少しは関心をお持ちになりませんと、今後、その噂に煩わされてしまいますわ」
「以前にサジェス侯爵令嬢にも指摘されました」
「リディアーヌ様はエミリア嬢とご友人でしたわね」
「はい」
「リディアーヌ様に良き友人を得られたようですね」
公爵に出会った当初はまだ友人と呼べる人は全くいなかった。
それを今は友人を得てお茶会も開いているのをご存知のようで、これはフェリシエンヌに習った事の内、いかに貴族家の情報を得ているか、なのだろう。
まだ社交界デビューは先の話だけれど、今後、この情報が社交界に身を置く上で必要になる。
そのひとつが社交界に流れる噂なのだ。
これを知っているかどうかで自身の行動にも影響が出ることもある。
だからフェリシエンヌを始め、エミリアや公爵もリディアーヌに助言をしてくれるのは偏にリディアーヌの人間性を見て味方になってくれている。
そのことにリディアーヌは感謝も込めてお礼を伝えた。
公爵との会話の後はフロランスが待ち構えていた。
「リディ様、改めましてお誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「今日のドレスも素敵ですわ! 皆様とお揃いというのも良いですが、リディ様の可愛らしさとルヴェリエ家の強さが垣間見えます」
(ルヴェリエ家の強さって、なに……?)
最後の言葉の意味がよく分からずにいると、彼女の兄であるクロードがコツンッと頭を小突く。
「お兄様! 何をなさいますの!」
「落ち着け。リディアーヌ様が困っているぞ。妹が申し訳ございません」
「褒めていただいているのは分かりますので、大丈夫です」
クロードに丁寧に謝られたけれど、気にしないで欲しい。
そのクロードからも改めて祝いの言葉を貰い、こんなに沢山お祝いの言葉を貰うとは思わず、リディアーヌは慣れない事に少し申し訳なく思ってしまう。
この後エミリアとアマリアの二人も合流し、更にお祝いされて嬉しいのだけれど、段々と申し訳ないというかいたたまれないというか……。
「リディ様、いかがなさいました?」
「あ、いえ。こんなにお祝いの言葉をいただいたのが初めてのことで……」
どう言えばいいのか分からず言葉に詰まる。
フロランス達は顔を見合わせてリディアーヌの言葉を不思議そうにしていた。
「今日はリディ様がお生まれになった日ですもの。おめでたい日ですから、沢山の方達からのお祝いは当然ですわ」
フロランスは当然だというけれど、リディアーヌ自身あまり交流の無い人たちからのお祝いは、ベルトラン達ルヴェリエ家と交流のある人達で、リディアーヌが養女であっても溺愛されている為にお祝いをしているだけの人もいるだろうからリディアーヌがそこまで気にする事ないと暗に言っている。
それはリディアーヌも分かっているが、それでもどうしていいのか分からないのは彼女自身の性格なのだろう。
「ふふっ。リディ様の魅力を知らない方達には適当でよろしいのですわ」
「私達だけ知っていればよろしいのです。そうしたらリディ様を独占出来ますわ!」
「あら、それは良い考えですわね! リア冴えてますわ」
「格好いいリディ様、淑女として控えめなリディ様。私達でリディ様を愛でる会を結成いたしません事?」
「まぁ!! フロー様、それは良い考えですわ!」
「では、考案したのは私なので、会長は私が務めさせていただきますわ」
「では、私は副会長でよろしいかしら」
「勿論ですわ! 私は書記をいたします」
「待って! その会に僕も入れてくれるよね?」
「勿論です。リディ様の甥として、リディ様の情報提供を期待しております」
「因みに私も入れてくれるかい?」
「あら、お兄様も混ざりたいのですか?」
「酷いな。勿論私も入るよ」
呆気に取られて様子を見ていたが、流石にリディアーヌは慌てた。
(愛でる会って何!?)
「お、お待ちください!!」
心の声は置いといて慌てて静止の声を上げると、一斉に五人の視線を一気に浴び流石に一歩下がりそうになるが何とか堪えた。
「リディ様、いかがされましたか?」
「あ、あの……愛でる会? は遠慮したいです」
リディアーヌが思い切って止めてほしくてそう伝えると、一斉に悲しそうに眼を伏せる三人の令嬢に眉を下げてリディアーヌを見つめるエルネスト。
「リディ、ダメ?」
「うっ、だ、だって私を愛でるってちょっと……止めてほしいで、す」
「僕達、リディが大好きなんだよ。だからね、皆でリディの可愛さを語りたいんだ」
「か、可愛くないです……だから」
「「「リディ(様)は可愛いよ」」」
自分を卑下するなと言わんばかりにじっと見つめられそれ以上は何も言えなかったが、本音は本気で止めてほしい、だ。
そんなリディアーヌを他所に、今ここに『リディアーヌを愛でる会』が発足した。
ご覧いただきありがとうございます。
次回も楽しんでいただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします。




