誕生日会に向けて
季節は冬を過ぎ春を迎えようとしている。
まだ肌寒いが太陽の光は暖かく、新芽が出始めていた。
もうすぐリディアーヌがエクラタンに戻り丸三年。
この三年で彼女は大きく成長した。
貴族としての教育は勿論、成長が乏しかったが背も伸び健康的な体型となり、髪も伸びてベルトランが初めて会った時とは比べ物にならない成長ぶりだ。
貴族令嬢ならば社交は必須。
初めは話すことも躊躇っていたリディアーヌは、すっかりお茶会にも慣れて友人も得た。
ただ、あまり話したことの無い者とはまだ緊張すると言っているが、表情に出さなくなった辺りはフェリシエンヌの教育の賜物だろう。
いつも冷静に対処するものだから頼もしい限りだ。
「さて、リディよ。お前ももうすぐ十歳だ。今年は内々だけのパーティーではなくて、大々的に行う」
久し振りにベルトランとフェリシエンヌから誘われてお茶を共にしていると、ベルトランから誕生日パーティーの話があった。
昨年フロランスの誕生日会でエミリア達に言われた通りになったと、リディアーヌは内心あまり嬉しくないと思ってしまった。
「招待したい友人はいるか?」
「フロランス様とエミリア様、アマリア様は招待したいです」
「いつもの三人ね」
「後はこちらで招待する貴族家を選ぶがいいか?」
「はい。お任せします」
ベルトランが招待客を選ぶなら安心だ。
エクラタンの貴族家は学んだけれど、会った事のある貴族はそのほんの一握りなので、まだまだ会った事のない人ばかりなので、やはり不安はある。
部屋に戻りソファへ座るとついため息をついてしまった。
「お嬢様、お疲れですか?」
「え? あっ、ごめんなさい。疲れたわけじゃないんだけど……」
「先程お話に上がりましたお誕生日パーティーの件でしょうか?」
「……うん」
「気が進みませんか?」
「気は進まないけれど、お父様が決めたことだから」
本当に気は進まない。
出来ればその日体調を崩して出席できなったらいいのにとさえ思っている。
「お嬢様、一度大旦那様にお話なさってはいかがでしょうか」
「大丈夫。ご迷惑をお掛けしたくないし、私もルヴェリエ家の一員としてちゃんと誕生日会に参加します」
「……お嬢様。お嬢様は主催側の一員であり主役なのですよ」
少し呆れを含んだエヴァの言葉にちょっと恥ずかしくなって俯く。
当たり前の事なんだけど、自分に言い聞かせてるような感じで言ったのがいけなかったか。
兎に角、嫌だろうがベルトランが決めた事でルヴェリエ家の娘なのだからやるべき事はきちんと行う。
そこは決して揺るがない。
「お嬢様、そこまで憂鬱になることありませんよ。準備は大奥様がされますし、お嬢様のやる事と言えば、ドレスを誂える事ですわ」
「……なんとなく、言われる気がした」
そう言ってはぁと力を抜いた。
ドレスを誂える……自分の分だけでいいのかな。
こういった場合家族で揃えたりするって聞いたのだけど、どうしたらいいんだろう。
一人悩んでいると、エヴァから「大奥様がいらっしゃいました」とフェリシエンヌが部屋へ入ってきた。
「リディ、今いいかしら?」
「はい。大丈夫です」
フェリシエンヌにソファを勧め、エヴァはお茶を淹れる。
一口飲んでからにこりと微笑んで前置き無しに
「リディ。誕生日パーティーの衣装を全員分デザインしてみなさい」
「はい。……え?」
思わず返事をしてしまったが聞き間違いだろうか。
全員分と言わなかったか?
全員分、それはベルトランとフェリシエンヌだけでなく、リュシオル達全員分と言う事なのか……。
「お母様、確認なのですが、全員分とは……」
「ルヴェリエ家の全員よ」
聞き間違いではなかった。
全員で自分も含め七人分……。
無茶ぶりもいいとこである。
「何事も最初から無理だと決めつけるだけではなく、やってみなさい。先ずは、デザインを起こして一度私に見せる事。そうねぇ、三日後に見せて頂戴」
「三日後ですか!?」
あまりの期間の短さに驚いて思わず声を上げてしまってからはっとして口元を隠すが無駄なことだ。
淑女として大きな声を上げるの褒められることではない。
当然、フェリシエンヌから指摘されてしまった。
「詳細まで描かなくてもいいから貴女がこういう衣装を着たいという形だけでもいいわ」
「やってみます」
それなら三日で出来そうな気がするのでリディアーヌは少しほっとした。
リディアーヌは早速デザインをどうするか考え始めた。
思いついては描きを繰り返す。
集中していると、エヴァには休憩を挟むようにと注意されを繰り返した。
考え出すと逆に止まらなくなってしまい、夜眠れなかったら結局考えては描きたくなって描いてはギーに注意される。
日中はお勉強があるので勉強に集中するが、それ以外の時間をデザイン作成に使った。
そして期限の三日後。
「あら……」
フェリシエンヌはリディアーヌが描いたデザイン画を見て驚いている。
彼女の前にはリディアーヌが描いたラフ画が四種類あり、四種類ともルヴェリエ家全員分が描かれていた。
「三日でここまでアイディアがでるなんて驚きだわ」
「どう、でしょうか」
少し緊張しながらフェリシエンヌの評価が気になりじっと彼女の顔をまじまじと見つめる。
暫くぺら、ぺらと紙をめくる音が響く。
「リディ……」
「は、はい!」
「ふふっ、そんな緊張しなくてもいいのよ。それにしても本当にすごいわ。三日でここまで詳細に、しかも全員分を四種類もの案が出るとは思わなかったわ。驚嘆に値するわね」
誇らしいという笑みを浮かべて褒められたものだから、今度は嬉しさでリディアーヌも微笑む。
そしてほっとして力を抜いた。
「あらあら。そこまで緊張してたのね」
「思いつくまま描いたのですが、ダメ出しされたらと思うと……」
「リディは才能あるわ。自信を持ちなさい」
「ありがとうございます」
フェリシエンヌは此処まで詳細に描いたのだからと、この中から衣装を選ぶことにした。
リディアーヌと共に吟味する。
「お母様、アリアーヌお義姉様にも意見を聞いてもいいでしょうか」
あまりに決まらなかったので、アリアーヌにも聞いてみたくて提案すると、早速手紙を侍女に預け返事を待つ。
その間も二人で色んな意見を出しつつより良い衣装を誂える為に話し合っていると、直ぐに返事が……返事じゃなくて本人がやってきた。
「お義母様、ご招待いただきありがとうございます。リディ、お邪魔しますね」
「お義姉様?」
リディアーヌはアリアーヌが直ぐにやってくると思っていなかったので驚いた。
その間にフェリシエンヌは彼女に椅子をすすめる。
「アリー、これを見て頂戴。今度リディの誕生日パーティーで着る衣装をリディにデザインして貰ったのだけれど、どれも素敵でね。貴女の意見も聞きたくて呼んだのよ」
「まぁ! 私を呼んででくださって嬉しいですわ。こんな素敵な衣装を一緒に決めることが出来るなんて。ありがとうございます」
アリアーヌは早速デザイン集をまじまじと見る。
先程と同じくパラパラと髪をまくる音が響いた。
「リディ、一人でこんなに案を出したの?」
「は、はい。あの、どうでしょうか……?」
「驚いたわ。リディは芸術の才能があるのね」
感嘆のため息をつきながら答えるアリアーヌに、褒められた当の本人は恥ずかしそうにもじもじとしている。
あまり褒められ慣れしていないので恥ずかしがる娘を、また妹を見る二人はその可愛らしさに悶えていた。
「あの……」
「あ、ごめんなさいね。どれも素敵だから迷っちゃったわ」
「ではこうしましょう。二種類誂えましょう!」
「二種類? お母様、誕生日は一度だけですから、一種類でいいです」
「誕生日で着るのは片方で、もう一種類はエルの誕生日に着ればいいのよ」
リディアーヌの誕生日より約一ヵ月後にエルネストの誕生日があるので、その時に着用するという。
それだとエルネストの意見も取り入れた方がいいとも思ったが、自身が着る服にあまり興味ないというから今決めてしまってもいいのだと話す。
それだったらフェリシエンヌとアリアーヌに決めて貰おうと、リディアーヌは二人に提案すると嬉しそうに、そして真剣に吟味し始めた。
それから約半時間後にどれにするか決まったので、今度仕立て屋を呼ぶこととなった。
丁度一週間後、フェリシエンヌと共に本邸へとやってきた。
部屋へ案内されると、アリアーヌとフェリシーに出迎えられる。
「お義母様、リディ。お待ちしておりましたわ」
「おばあさま、リディお姉さま、ごきげんよう」
「ごきげんよう。リシーも一緒だったのね」
「はい!」
元気がいいフェリシーは嬉しそうにフェリシエンヌの隣に座った。
暫く四人で話をしていると、仕立て屋が到着したとの報告があり、程なくして部屋へと入ってきた。
「待っていたわ」
「ごきげんよう、皆様。本日はお招きいただき光栄に存じます」
丁寧な挨拶をし、オーナー兼デザイナーのアマリアは勧められソファへ座った。
そして早速リディアーヌとエルネストの誕生日パーティーで着用するドレスの相談へ移る。
その間に助手とお針子達が開いているサンプルの生地や種類豊富のレースに宝飾品を出し、採寸をするための場所を作る。
「リディ、他に要望はあるかしら」
「いえ、ありません」
「では、こちらで作成させていただきます。では公女様方は採寸をいたしましょう」
お針子さんに「こちらへ」と促され、リディアーヌとアリアーヌは衝立の向こうへと向かう。
いつも採寸をされる際、どれだけ背が伸びたのか気になってしまい、ちょっとドキドキする。
「この間採寸した時より、約二センチ伸びてらっしゃいますよ」
また背が伸びて嬉しくなった。
フェリシーも順調に背が伸びているようで二人で笑いあう。
彼女の笑った顔がアリアーヌによく似ていてとっても可愛らしい。
採寸が終わり、身なりを整えてソファへ戻ると、何故か誂えるドレスが増えていた。
何故なら二人共子供で日々成長するので各季節で衣装を誂えないととても残念な事になってしまうからだ。
ただ、その量が多くて毎回ここまでしなくていいのに、と心の中で思うだけのリディアーヌはまだまだ大貴族の考え方に染まっていない証拠だ。
そしてまだ幼いながら興味津々のフェリシーはアリアーヌと共に意見を言えるのだから、生まれながらの貴族は凄いという感心をしてしまう。
「今回はこれくらいでいいでしょう」
「いつもありがとうございます。では仕上がりましたらお届けに参ります」
「えぇ、よろしくお願いしますね」
こうして今回の衣装作りは一段落した。
誕生日会で着る衣装が思ったより早く解決したので、後はフェリシエンヌが主軸となり進めていく。
その中でリディアーヌは教育の一環として一緒に準備することになった。
ご覧いただきありがとうございます。
第八章の終わりまで二日置きに更新しますので、よろしくお願いいたしますm(_ _)m




