難題
屋敷に帰った翌日は本邸へと赴き、皆にお土産を渡すととても喜んでもらえた。
そして招待状を作成し、ルヴェリエ邸でのお茶会の日がやってきた。
「リディも随分と慣れてきたわね」
「ありがとうございます」
褒められて嬉しいと喜ぶ娘を見てフェリシエンヌも嬉しそうに微笑んだ。
今日のお茶会はフロランスとエミリア、アマリアの三人を招待し、日当たりのいいサロンでお茶会が始まった。
「リディ様、ルヴェリエ領はいかがでしたか?」
「空気が澄んでいて、街は活気があるのですが夜は星空が綺麗でした。街の人達も優しくてとても素敵なところでした」
「まぁ! リディ様がゆっくりと楽しめたようで良かったですわ」
「皆様にお土産があるのです」
リディアーヌはちらりとエヴァを見るとお土産を丁寧にテーブルへと運ぶと、三人は興味津々に包みを見ている。
「可愛らしい包みですわ」
「とても気になるので開けてみてもよろしいかしら?」
「本来なら屋敷で開けるのですが……」
三人は少し恥ずかしそうにしているが、リディアーヌは友人達の反応が気になったので「どうぞ」と言うと、ぱぁっと嬉しそうにして、早速リボンを外し箱を開ける。
「可愛いですわ!」
「まぁ! なんてふわふわで可愛らしい」
「瞳は皆違いますのね。けれど首元のリボンはお揃いですわ」
「それにとっても触り心地がいいですわね」
「あら。この瞳の色って、私達の色ですのね」
「はい。リボンはお揃いにして、瞳は皆様の色にしてみました。喜んでもらえてとても嬉しいです」
そういってリディアーヌの元に同じくまのぬいぐるみが届けられた。
「まぁ!」
「これはリディ様とお揃いですのね」
「はい。あの、皆様がぬいぐるみをお好きか分からなかったのですけど、その……お揃いのものがいいなって思って……」
リディアーヌは小声で恥ずかしそうに「ご迷惑でしたか?」と聞くと「「「きゃー!!」」」と三人が黄色い声を上げたのでリディアーヌはびっくりしてもう少しで茶器に触れてお茶をこぼしという粗相をしそうになってしまったけれど、エヴァが咄嗟に支えてくれたので難を逃れた。
「あ、あの……」
「ごめんなさい。急に大きな声を出してしまって」
フロランスは頬に手を添えて恥ずかしそうにしていたが、目はキラキラと輝いて嬉しそうにしている。
「とっても嬉しいですわ」
「お揃いのぬいぐるみを贈ってくださるのは、私達をとても仲の良い友人と想ってくださっているからでしょう?」
「リディ様ったら、私達を喜ばせる天才ですわ」
「えぇ、本当に。とても嬉しいです。ありがとうございます」
エミリアとアマリアの二人も本当に嬉しそうにぎゅっと抱きしめているその姿を見てほっとしたのと、リディアーヌもまた嬉しくてぎゅっとぬいぐるみを抱いて四人で笑顔になり、とても嬉しいひと時を過ごした。
お茶会から数日後、ベルトランが領から帰宅した。
「おかえりなさいませ。あちらは如何でした?」
「あぁ、粗方片付けてきたから、後はシルスが何とかするだろう」
「思ったよりもお疲れのご様子」
「久方ぶりに疲れたな。リディも出迎えありがとう」
「お父様、ゆっくり休んでくださいね」
「あぁ、ありがとう」
帰ってきたのが夜も遅く、リディアーヌは起きて帰宅を待っていたから、ベルトランに早く休むようにと言われ部屋へと戻ってきた。
エヴァとおやすみの挨拶をするが、まだ眠くならなかった。
「フィオリトゥーラ様、いらっしゃいますか?」
彼女は気まぐれで、呼びかけに応えてくれることもあればそうでないときもある。
今日は応えてくれない日かなと諦めてぽすんとベッドに横たわる。
目を閉じたら眠れるかなと思い目を瞑る……、ぱちっと目を開けると目の前いっぱいににこにこした美しい顔が広がっていて思わず声を上げそうになったけれど、寸前でとどまった。
留まったが度ドキドキは止まらない。
驚きすぎて心臓が痛い。
「フィ、フィオリトゥーラ様! びっくりさせないでください!」
「あらー、ごめんなさいねぇ。けど、私を呼んでおいて目を瞑っているのだもの。ちょっと悪戯したいって思うでしょう?」
「思いません。けど、応えてくださってありがとうございます」
きっぱりと否定し、けれど来てくれたことへ礼を伝えた。
「それで、どうしたの?」
「お伺いしたいことがあるのですが……」
「まぁ。なにかしら?」
「ルーセルの時の力って、今も引き継がれているのかと思って」
「あら? 気付いてなかったの? 鈍感ねぇ」
「鈍感……」
グサッとその言葉が刺さる。
分かってなかったわけじゃない。
剣や魔術が以前習得しているのは使えるし、ただ体力的な部分で剣術は大分劣る。
魔術に関しても、魔力がまだ追いついていないのと、体が耐えきれないという点で以前とは程遠い。
その二点は以前から引き継いでいるような感じがしたが、まさかルーセル時代の察知能力がリディアーヌもあるとは思わなかった。
「最近、ルーセルの時と同じく、感が冴えるというか、気配の察知が出来るようになったのは何故でしょうか?」
「あれはルーちゃんの特技みたいなものだったからねぇ。きっとディーちゃんが安定し心に余裕ができ始めたから、かしらね」
「心に余裕?」
よく分からなくて首を傾げると「可愛い!」と抱きつかれた。
「フィ、フィオリトゥーラ、さ、ま……くるし……ぃ」
「あら! ごめんなさい」
全く謝っていると言い難い笑い交じりの謝罪。
(あの胸邪魔……)
リディアーヌの心の中は辛辣だ。
「話を戻すとね、ディーちゃん。今楽しいでしょう?」
「そう……ですね。マラディにいた頃から比べたら格段に。マラディとエクラタンを比べるのは失礼だと思うけど」
「ふふっ、そうね。ディーちゃんったら前はすごーくお顔が強張っていたけれど、今は楽しいと顔に出てるもの。いい事よ。だからね、周囲に意識を向ける余裕も出てきたからだと思うわ」
「なるほど……」
言っていることは理解できたけど、そもそも記憶があるだけでこうも以前の力を出せるものなのかと、根本的なとこが不思議で仕方がない。
リディアーヌにしてみれば嬉しいからいいのだけれど。
「ディーちゃんってば、顔に出てるわよ?」
「え?」
「何故ディーちゃんがルーちゃんの時の力をそのまま使えるのかってね」
ころころ笑うフィオリトゥーラには全てお見通しだったが言われた本人は恥ずかしくなり顔を背ける。
またそれが可愛いと笑うものだからいたたまれない。
「笑いすぎです!」
「ごめんなさいねぇ」
「それで、教えていただけるのですか?」
「うーん……教えると言っても、ルーちゃんとディーちゃんは同じ魂だからねぇ」
「同じ魂だと、以前の力を受け継ぐのですか?」
「それはないわ」
「え?」
言ってることが分からずに困惑する。
同じ魂だから同じ力が引き継いでるのかと思ったけどそうではないという。
けど、よく考えたらそれもそうかと思ってしまう。
では何故自分はルーセルの時の力が使えるのかが分からない。
「ふふっ、分かってないって顔ね」
「はい。分かりません」
これ以上言っても教えてくれなさそうな雰囲気。
まぁいっか。
「教えていただき、ありがとうございます」
「いいのよ。それよりそろそろ寝なさい。子供は沢山寝ないとね」
「はい、おやすみなさい」
ぐっすり寝た翌日、ベルトランに時間を貰い、昨夜のフィオリトゥーラの話を共有した。
「成程な。エヴァから報告があり不思議に思っていたが、リディは凄いな」
「え? 私は凄くないです。どちらかというとズルい……」
「ずるい、ずるい、か……くっくくく」
(今笑うとこだった?)
リディアーヌは何故ベルトランが笑い出したのか分からず困惑する。
直ぐに笑いは収まったようだけど、その顔が面白そうにしていた。
「お父様?」
「笑って済まない。まさかずるいという答えが返ってくるとは思わなくてな」
「けど、ずるいと思います。普通そんな事ないとフィオリトゥーラ様も仰っていました」
「そこは幸運だと思うでもなく、そう思うとはリディは真面目だな」
「そんな事ないです。ずるいと思いますけど、それでお父様達の役に立つなら良かったと思います」
「ふっ。嬉しい事を言ってくれる。だが、何故態々話そうと思ったんだ?」
「私の事だから、ちゃんと伝えておいた方がいいかと思って……」
「やはり真面目だな。そういえば帰り襲撃を受けたと聞いた。その時も事前に察知したらしいな」
「はい」
「ありがとう。そのお陰で簡単に対処出来たと報告を受けた」
その言葉を聞いてほっとした。
役に立てたと思うと嬉しくなる。
「最近ますます笑うようになって……」
「お父様?」
「いや。昨日はお茶会をしたんだったな。お土産は喜んでもらえたか?」
「はい! 不安だったのですが、喜んでもらえて嬉しかったです」
「よかったな」
喜ぶ娘の姿を見てベルトランも嬉しく思う。
エクラタンへ来た時と比べると段違いに成長している。
体の成長は勿論だが、とても表情が豊かになり喜びも前面に出せるようになってきた。
とても喜ばしい事だ。
娘が良い方へと成長しているので、後の懸念はひとつ。
皇女との関係だ。
今後の為にも、学園へ入る年までには解決してほしいが、こればかりは皇女の気持ち次第だろう。
無理やりの解決はリディアーヌが嫌がり、無理に皇宮へ戻ったとしても、今度は皇女が不満を噴出させ、それはリディアーヌの望むところではない。
全てを飲み込んで我慢し、また心を閉ざすようなことにでもなれば……、それだけは避けたい。
「難しいな」
ぽつりと呟く声はリディアーヌには幸い届いていなかった。
季節は秋を越し冬の到来だ。
昨日は雲行きが怪しいと思っていたら、今朝目覚めると外は雪が降っていた。
雪の中でも騎士達の訓練は欠かさない。
あの四人は、今年いっぱいルヴェリエ邸にいるようだ。
あの謝罪以来、あまり関わることがないけれど、セルジュ団長は厳しい訓練、教育を課して大分ましになったと話していた。
今日も雪の中、外で訓練をしているようだ。
リディアーヌは今日の訓練はお休みで本邸に来ていた。
エルネストとのダンスレッスンを受けていた。
先生の手拍子で練習を繰り返す。
「お二人共、今のは凄く素敵でしたよ」
「ありがとうございます」
「次回は演奏に合わせて行っていきましょう」
レッスンが終わると、次はアリアーヌとエルネスト、そしてリディアーヌの三人でお茶会だ。
着替えをした後にサロンへ案内される。
既にアリアーヌとエルネストが部屋でリディアーヌを待っていた。
「遅くなって申し訳ありません」
「待っていたわ。やっぱりリディに似合うと思ったの」
嬉しそうに手を合わせてリディアーヌを褒めるとちょっと恥ずかしそうに、けれど準備してくれたアリアーヌにお礼を伝える。
リディアーヌの纏っているドレスは、アリアーヌが準備したもので、彼女もリディアーヌを着飾りたい隊員の一人だ。
「リディは何を着ても似合うよね」
「エル、それはあまり誉め言葉ではなくてよ。勿論リディが可愛いからそうかもしれないけれど、こういう時は曖昧に褒めるのではなく、先程の淡いピンクのドレスも可愛らしくて良かったけれど、今着ている濃い色も少し大人になったような印象で素敵よ」
エルネストにとっては女性を褒める、という訓練の一種だった。
今はまだいいが、もう少し大人になり学園へ入り、社交界デビューを果たすと女性との会話も伴侶を見つけるだけではなく、必要な事柄だった。
けれど、リディアーヌにしたらエルネストの練習相手としては不足だと思っている。
あまり女の子らしくないと自覚しているのだけれど、それを言うとリディアーヌも一緒にお説教の対象となってしまうので口を噤む。
「先生が褒めていましたよ。二人共ダンスの上達が早くとても美しいと」
「リディが相手だと踊りやすいし、何よりもとても楽しいからですよ」
「それは良い事だわ。けれど、エルの最初のダンスの相手はリディではないので、その時はちゃんと相手の子をリードするのを忘れてはなりませんよ」
「最初の相手はリディが良いんですけどね」
「諦めなさい」
社交界デビューの相手はどうやらリディアーヌではないらしい。
婚約者がいるならいいが、そうでないなら親族が相手をするのだけれど、リディアーヌではないという。
ほんの少し、それが残念だと思った。
「リディ、そのような顔をしなくていいのよ。まだ先の事だから分からないけれど、もし、誰もいなかったらリディにお願いするわ」
「分かりました」
リディアーヌの気持ちを察してアリアーヌはそう言ってくれた。
この言葉にエルネストもほっとしたように息をつく。
とても繊細な問題なのだ。
「ところで、二人に招待状が届いているのよ」
「招待状、ですか?」
「えぇ」
差し出された封書を裏向けるとランヴェール侯爵家の家紋の封蝋が押されていた。
ペーパーナイフを借りて中を確認すると、フロランスの誕生日パーティーの招待状だった。
可愛らしい便箋がフロランスのイメージにピッタリだった。
「リディのお友達は皆来年には学園へ入学するので、中々会えなくなるわね」
「はい。少し寂しいですね」
「僕はその次の年だからまだ一緒に勉強できるよ」
「エルはやることが沢山あるでしょう。来年は今よりも忙しくなるので難しいのではないかしら」
「え? そうなんですか?」
「エルはノルヴェール殿下の側近ですもの。学園へ入学前の年からは宮廷へ行き、殿下の執務のお手伝いが始まるの」
「そう、ですか……」
一気に寂しさが押し寄せてくる。
仲の良いお友達が学園へ行くと、流石に学園の友人とのお付き合いや、勉学も難しくなるだろうし、エルネストまで忙しくなるのは一気に周囲の人が離れて行ってしまうようなそんな錯覚に襲われた。
「あぁ、リディ、そんな顔しないで。いなくなるわけじゃないんだからね」
「そうよ。それに、フェリシーもいるのだから。彼女と遊んであげてね」
「はい。そういえば、今日は……」
「あの子、熱が出てしまって寝ているの」
「あ、あの、お見舞いに行ってもいいですか?」
「ダメよ。風邪が移ってしまったらいけないから、元気になったら遊んであげてね」
「分かりました」
アリアーヌとのお茶会が終わり本邸に戻った後、フロランスへ出席の返事を認める。
今回のお誕生日プレゼントを何にしようかと考える楽しみが出来た。
ご覧いただきありがとうございます。
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よろしくお願いいたしますm(_ _)m




