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自由な空の下  作者: 月陽
第七章 成長
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ルヴェリエ家の次男


 ルヴェリエ大公領は皇都より馬車で二日の行程で、皇都より東に位置し、大公領は国内随一の葡萄の産地で大公領のワインはとても人気で毎年予約が殺到している。

 それとは別に林業も盛んで、林業だけではなく植物の研究にも力を入れているという。

 林業を行っているのは意外で、ベルトランやリュシオルを見ているととても似合わない……いや、口が裂けても本人達には言えないが、全然興味なさそうな感じがするがそれは今までの様子と外見を見て判断すればの話だった。

 領へ向かう前、大公領の勉強を行ったリディアーヌは、分からない事をベルトランに質問すると、とても専門的な答えが返ってきた。

 元領主なのだから当たり前なのだが、中には産業に関しては専門家に任せて決済だけする領主もいるというから、それを思えばきちんと領内の産業を学び専門知識を得たベルトランが有能すぎるという事だ。

 今はリュシオルが大公だが、皇都での仕事が多忙でリュシオルの弟が領主代行を務めているという。

 領民と一緒になって現場に赴き自ら調査、研究も行っているというから仕事は好きでやっているというから適材適所なのだと話していた。

 揺れる馬車の中ではベルトランとフェリシエンヌからリディアーヌのもう一人の兄の事について教えて貰った。

 性格はフェリシエンヌに似て、外見はベルトランに似ているという。

 リュシオルはどっちもベルトランに似ているが、フェリシエンヌの穏やかさも受け継いでいる。

 性格は穏やかな感じなのかは会うまで分からないが、リディアーヌは会うのが楽しみだけど、少し不安に思っているのも事実だ。



「リディ、大公領に入ったぞ」



 ベルトランの言葉で外を見ると、まだ大公領の端だから森が広がっている。

 馬車が進むにつれて見えてくる景色は段々と変わり、民家が増えていき次第に大きな街が見えてきた。

 前に見た皇家直轄領とはまた違った賑わいだった。

 大公家の家紋が入った馬車が走るのを見た領民達は嬉しそうに手を振ったりとその歓迎ぶりに圧倒された。

 外を見ていたリディアーヌはそっと窓から離れた。



「どうしたの?」

「勢いが凄くて……」

「ふふっ。大公領の民達は皆温かいのよ。私達と距離が近いの。貴女も皆に手を振ってあげたら喜ぶわ」

「え!? それはちょっと……恥ずかしいです」

「何を言っているの。貴女は大公家の公女なのよ。もっと自信を持ちなさいな」

「……善処します」



 一応前向きに答えたつもりだったけど、フェリシエンヌは困った娘だとその表情から見て取れた。

 街を過ぎると領主が住む屋敷がある。

 大きな門を抜け馬車は速度を落としていく。

 馬車が止まると外から扉が開かれる。

 ベルトランが下り、フェリシエンヌはベルトランの手に添えて馬車を降りると、今度はリディアーヌに手を差し伸べた。

 かなり緊張しているようで手が震えている。

 


「リディ、心配するな」



 大分緊張している娘を心配して声を掛ける。

 その言葉に少しだけ力を抜いたリディアーヌはようやく馬車から降りるとベルトランから頭を撫でられた。



「父上、母上。お待ちしておりました。お帰りなさいませ」



 こちらの触れ合いを待って声を掛けてきたのは、ベルトランによく似た外見の長身の男性が、こちらに丁寧に頭を下げて出迎えてくれた。



「あぁ、出迎えご苦労」

「変わりないようで安心したわ」



 久しぶりに会う息子の元気な姿を見て二人は気軽に挨拶をする。

 そして彼の視線はベルトランとフェリシエンヌの間に注がれた。

 二人にそっと背中を押され前へ一歩出ると、彼はそっと腰を落とし目線を合わせてくれる。



「リディ、紹介しよう。こいつはシルヴァン・アエレ・ルヴェリエ。リュシオルの弟でこの大公領の領主代行している。彼女はリディアール・エメ・ルヴェリエ。お前の妹だ」

「初めまして。話は父上達から聞いています。ようやく可愛い妹に会えて嬉しいよ。気軽にお兄様と呼んでほしいな」



 リュシオルとはまた違った優しい声だ。

 緊張がすっと解けて自然と微笑んだ。



「初めまして。お会いできて嬉しいです。あの、お兄様、よろしくお願いします」



 そう言って礼をする。

 初めて兄と呼んだのまた緊張しながら新しい兄をそっと窺うと、口元を押さえて、何かを我慢するような、けれどその目が異様に輝いていてびっくりして思わず一歩下がった。



「か……」



(か……?)



 何を言うのかとドキドキしながらリディアーヌは次の言葉を待つ。



「か、可愛い!!!! 父上も母上も兄上もずるい!!! 何故もっと早くに紹介してくれなかったのですか!? 私だけ除者ですか!? 酷くないですか!?」

「落ち着け……。全くお前いくつだ? それより中へ入るぞ」

「リディは私と中へ入ろうね。手をつないでいいかい? あ、私もリディって呼んでもいいよね?」



 とてもキラキラした目で見られて居心地が悪いけど、嫌な感じじゃない。

 リディアーヌは差し出された手にそっと添えると、シルヴァンは嬉しそうにフェリシエンヌに似た顔を綻ばせた。

 


(シオルお兄様はかっこいいけど、シルヴァンお兄様は可愛い……)



 中へ入り先ずはそれぞれ部屋へと向かう。

 リディアーヌはシルヴァンに案内されて泊まる部屋へと入ると、そこは可愛らしい家具が揃いけれど可愛すぎず、落ち着ける雰囲気の部屋だ。



「どうかな? 私が選んで部屋を整えたんだけど……」



 少し不安そうに「女の子の部屋を整えるのは初めてだから」とリディアーヌの反応をそっと待つ。

 リディアーヌは声にこそ出さなかったが、その表情はとても嬉しそうに部屋を見回していた。



「嬉しいです。ありがとうございます」

「良かった! 気に入ってくれたみたいだね。母上からリディアーヌの好みを聞いていたんだけどちょっと自信なくて」



 そう言って安堵したような笑みを浮かべてリディアーヌと顔を合わせて微笑んだ。

 シルヴァンは「また後で」と部屋を後にして、エヴァと大公領の侍女二人で荷解きを行い、リディアーヌは着替えを済ます。

 着替え終わると、部屋を後にして皆が待つ談話室へと案内された。

 部屋へ入ると、既に三人が揃ってリディアーヌを待っていた。



「リディ、疲れてないか?」

「はい。大丈夫です。お兄様、素敵なお部屋をありがとうございます。後、こんなに可愛いドレスまで用意していただいてありがとうございます」

「いや。とても良く似合っているよ」

「お前は抜け目ないな」

「父上達が会わせてくれないのがいけないのですよ」

「仕方なかろう。リディの体調を一番に考えたらお前の事は二の次だ」



 お茶の準備を整えた侍女を手の一振りで退室させ、今部屋の中はベルトラン、フェリシエンヌ、シルヴァンとリディアーヌのみとなった。

 それだけではなく、防音結界まで張る念入り具合にリディアーヌは戸惑った。



「リディ、シルスはリディの事情を知ってる者の一人だ」

「え、あ……」



 リディアーヌは驚いてシルヴァンを見ると大丈夫だと安心させるような微笑みでリディアーヌを見ていた。

 ベルトランは、事情を知る最後の一人だと言った。

 皇都で何かあればこの大公領で住むことも出来るし、シルヴァンは一流の魔術師だから護衛にも向いているそうだ。

 そこでふとリディアーヌは疑問に思った事を口にした。



「お兄様は、ご結婚されていないのですか?」



 そう、此処へ着いたばかりだけれど、まだシルヴァンとしか会っていない。

 確かリュシオルとは五歳差なので、婚姻していてもおかしくないのでふと疑問に思ったのだ。



「直球だね」

「あ、申し訳ございません。聞いてはいけませんでしたか?」



 不躾だったろうか。

 深い意味はないのだけれど、疑問に思って口に出てしまったのだけれど、聞いてはいけない話だったのかとリディアーヌは不安に駆られた。



「いや。年齢的に見ればリディの疑問は最もだよ。父上がリディに何も伝えていないのには驚いたけど」

「まさかリディがそう言った質問をするとは思わなかったんだ。悪かったな」

「いえ。もう過去の事ですから」



 何だか二人の様子がおかしい。

 いや、三人だ。

 ベルトランの隣で座っているフェリシエンヌを見れば口元は笑っているのに目が冷え切っていた。

 ベルトランも渋い顔をして、当の本人は何事もないように微笑んでいる。



「余計な事を聞いてしまい申し訳ございません」


 

 リディアーヌはシルヴァンに謝った。

 最初から失敗して嫌われたらどうしようと不安で俯くが、この場にいるのが辛くて、雰囲気を悪くしてしまったからさっと立ち上がりもう一度謝って部屋へ戻ろうとすると、さっと腕を掴まれたと思ったら引き寄せられて少し体制を崩した……と思ったらさっと抱き上げられていつの間にかシルヴァンの膝の上に座らされていた。

 この一連の流れがあっというまで、一瞬何が起こったのか分からなかった。



「シ、シルヴァン様!? 下ろしてください!」

「違うよ。私の事は()()()だよ。それに、堅苦しいよ。もっと気軽にん接していいんだよ。後、リディが謝る必要ないからね。空気を悪くしたのは目の前のお二人なんだから」



 シルヴァンの言葉を聞き、ベルトランははぁと息をつく。


 

「悪かった。リディ、気にする必要はない」

「ですが、私が余計な事を言ったから……」

「話していなかった俺が悪い」

「そうそう。ちゃんと私の事を教えなかった父上が悪いんだから、リディが気にする必要ないんだよ」



 軽くシルヴァンはベルトランのせいにしている。

 それに対して何も言わず、表情を和らげた。



「不安がらせて悪かった。シルヴァンには婚約者がいたが、向こうが不誠実な行動を犯したので婚約破棄してな。シルヴァンは未だ独り身なんだ」

「そうはいっても我が子ながら社交界では憧れの的で年の差があっても隣に立ちたいと思う女性は多いのよ」

「それは大公家に縁続きとなりたいと思っているからでしょう。兄上が早々に結婚されたのでその矛先が私に向かっただけの事」

「まぁ無理にとは言わん。相性の良い相手が見つかれば婚姻すればいい」



 ベルトランはシルヴァンの婚姻に対し、それほど急いでもないし任せているが、フェリシエンヌは心配しているようだ。

 


「リディ、私は婚約破棄に特段何も未練はないんだよ。元々興味ない相手だったからね。丁度罪を犯してくれたので、それを使って遠くへ飛ばしてやったよ」



(遠くへ飛ばすってどういう事?)



 よく分からずに首を傾げる。

 楽しそうに笑っているシルヴァンはやっぱりベルトランの子でリュシオルと兄弟なのだと思わせる雰囲気だった。

 先程の意味は分からないけれど、笑っている顔は明らかに何かをやった感じだ。



「だからリディが気にする事ないよ。母上が未だに怒っているだけなんだからね」



 そう言って間近で微笑まれると何だか恥ずかしくなる。

 そっと視線を外す頭を撫でられた。



「リディは可愛いねぇ。父上も母上も兄上も、私だけ除者にしてこんなに可愛い妹と過ごせるなんて羨ましすぎる」



 そういってぎゅーっとリディアーヌを抱きしめる。

 苦しくはないけれど、この状況が分からずに固まってしまった。



「シルス、程ほどにしておけ。リディが困っているだろう」

「妹が可愛いのはいいけれど、溺愛過ぎるのはダメよ」

「良いではないですか。今は私の妹なんですから。ね、いいよね?」



 そんなこと聞かれても答えに困る。

 良いって答えたらどうなるのか……。

 今もこうして可愛がられているのに、もし、これ以上となったら……自分の想像ではどうなるか分からない事が怖くなって、けれど期待に瞳を輝かせてみてくるシルヴァンに嫌とは言えなくて、遠慮がちに「はい」と答えた。

 

ご覧いただきありがとうございます。


次回も楽しんでいただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします(ꈍᴗꈍ)

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