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金髪美女、逃走中


「うおおおお!」

「ちょっとグリゴリー。速いって!」


 天候の変化。

 降り始めた雪の中を、グリゴリーは疾走する。

 背負われているマーシャはそのあまりの速度に驚いていた。

 

 なびく金髪を抑えながら、マーシャは質問する。


「ビリヴォスカーはいいの? 火国軍はどうするつもり?」

「あそこの兵隊たちが動くんなら叔父貴が指揮官だ。そんな最優先にすべきことはすぐ押さえられているだろな。だから難しいがこのまま門から抜け出して、そのまま自力で火国も超えていくしかない」

「そっか。あの子は大丈夫かな?」

「別に手出しはしないだろ。それにどうせいざとなったらあの熊は自力で脱出するだろ」

「それもそうか。じゃあ心配いらなそうだね」


 マーシャは安心した。、


「ブラダィヨーを頼ろうにも、あいつ普段は自宅使ってないから行っても無理か。そもそも今も都にいるのか分からん」

「それじゃしょうがないね……ねえところでぼくのことどう思ってる」

「十年前の大恩人だ。あのときは本当にありがとう」

「あっそ……」

「どうした急に不機嫌になって?」


 ぷくっと頬を膨らませるマーシャへ尋ねる。


 すると今度は別方向へ顔を背けた。


「何か悪いこと言ったかサンタクロース」

「マーシャ!」

「うっ。締まってる締まってる」


 マーシャは手を回して首を強く絞めた。


 止めてくれとグリゴリーが痛がっていると、力が弱くなった。


 頭の後ろからマーシャは声をかけた。


「ねえグリゴリー。もしもクリスマスまで生き残れたらさ、ぼく、君にプレゼントしたいものがあるんだ」


 そっとグリゴリーが後ろを覗いてみると、マーシャの瞳が潤んでいた。

 神に逆らったことでこれから狙われること、それにグリゴリーを巻き込んでしまったこと、せっかく出来た大切なものと離れなければならないこと、様々な悲しみがあるのだろう。

 

 グリゴリーは顔を前へ向けると、元気を出して言った。


「ああ。絶対にその時まで生き残ろう」

「うん」


 それに引っ張られたのか、元気づけようとしくれたことに気付いたのか、マーシャの声からも失われていた本来の元気が感じられた。


「後突然なんだけどさ。言いたいことがあるんだ」

「え、何?」

「俺、サンタクロース、いやマーシャのことが好きだ――惚れた」

「ぶっ! こんな時に何言ってんの!?」

「いや自分の想いに気付いたから言いたくなって……」


 吹き出し、グリゴリーの頭をはたくマーシャ。


 けれど罰の悪そうな顔をするグリゴリーの後ろで、嬉しそうににやついてもいた。。


(確かにそういうこと言ってる場合じゃなかったな……よし集中だ!)


 走り続けるグリゴリー。

 

 雪が降ったおかげで人の交通が少なく、道は走りやすい状態だった。そのおかげで、もう門の正面まで来ていた。


(よし。誰も追いついてきてない)


 あれから兵士たちには誰一人会わなかった。

 

 神のことも考えたが、もし来ていたならとっくの昔に追いつかれていたはずだった。


「いけいけー!」

「おう!」

 

 グリゴリーは逃走出来ることを確信して、門を体当たりでて壊そうとした。

 

 その直前で、グリゴリーと門の間にビリヴォスカーが壁のように立ちはだかった。


「どけ!」


 一体の巨大な猪を蹴り飛ばすが、二体三体と次々に現れる獣の集団に対処できなかった。

 

 突撃されて道の途中に吹っ飛ばされた。


 倒れていると、兵士たちが囲むように現れた。その中にはミハイルとエヴァもいた。

 

 グリゴリーは立ってから、ミハイルへ目を向けた。


「叔父貴。どうして間に合ったんだ?」

「敵が狙っている相手に教授すると思っているのか貴様は?」

「くっ」

 

 グリゴリーの問いに、睨みで返すミハイル。決定的な断絶が感じられた。

 

 その真っ直ぐな視線をぶつけながら、ミハイルは口を動かす。


「まあいい。冥途の土産だ教えてやろう。決定的な要因は二つだ。まず我々は貴様よりも距離が短い道できた。市街戦だけではない。普段から自警団として犯罪を取り締まっている我々は、様々な道を知っている。貴様に昨日教えたのはあくまで観光用の道でしかない」


 ミハイルは隣に歩いてビリヴォスカー用の猪に触れた。


「それとこいつだ。我々は厩舎に向かった一班を二つに分けておいた。片方は貴様が来ることを考えて防衛部隊、そして預けておいたビリヴォスカーを使用してお前を追う追撃隊だ。といっても貴様が行く先は簡単に想像できたから、今回は先回りして来たというわけだ。全てをまとめて一言でいうなら、貴様が使えない手を相手も使えないと思うなだ……さて休憩は終わったか? こちらはどうやら全員終わったようだ。仕留めさせてもらうぞ」


 グリゴリーの狙いは見透かされていた。

 

 ミハイルは指示を出す。すると兵隊たちは一斉に火を放ってきた。


 一瞬、降っていた雪が止んだ。


 その直後には、黒焦げのグリゴリーが煉瓦タイルに倒れていた。


「グリゴリーしっかりして!」

「いけ。捕らえろ」


 兵士たちがマーシャの元へ駆けだした。

 コンスティションを発動して抵抗するも、氷神に使用した分の疲れが戻っていなかった。

 

 四人の兵士に手足を抑えられて、今連れて行かれようとしている。

 

 ふと、一人の兵士が足首に違和感を覚えた。


「離しやがれ!」

「!」

 

 その兵士は浮き、まるで棒のように地面に叩きつけられた。

 

 それを見て三人は伏せたままのグリゴリーを警戒するも、まるでバッタのように宙に跳んでからの動きには対応できなかった。


「があああああ」


  吠えるグリゴリー。

 集団を超え、指揮をしているミハイルへ飛びかかった。ミハイルが倒れれば兵士たちに混乱が起き、グリゴリーたちにも逃げる機会がまた訪れるだろう。


 勢いがある状態で、鋭い蹴りを放つ。

 

 ――ミハイルは跳躍した。グリゴリーよりも高い位置まで飛翔している。

「ごぶっ!」

 

 待ち構えていた膝に、顔面をぶつけるグリゴリー。そのまま元の位置に押し返される。


 集団に戻ったミハイルは、冷たい声で言った。


「撃て」


 指示に従い、兵士たちはまた火を飛ばしてきた。

 

 軽快な動きで避け続けるも、終盤には捉えられ、動きが鈍くなったところで第二射に焼かれて力尽きた。


「嫌! 放して! せめてグリゴリーを治療させてよ!」


 マーシャが連れて行かれる。

 

 その間グリゴリーは這って手を伸ばすが、今度は遅すぎて取り返せなかった。

 

 ミハイルは兵士を引き連れて神殿へ向かう。


「エヴァ。後は頼んだぞ」

「……分かりました」


 半分の兵士がエヴァを隊長としてここに残った。グリゴリーの意志または命を奪うためだ。


 エヴァは這って進んでいるグリゴリーを見下ろした。


 もはや死に体だった。そんな状態で意志をもって動いているのが不思議だった。


 その肉体へ止めをさすために、エヴァは指示を出した。

 自身も含め、火球を作りあげて放った。

 

 先程の半分の数ではあったが、まるで流星群のような光景であった。自身へ落ちる星々の幕を見上げると、グリゴリーは弱々しく立ち上がった。


「ふっ」


 その弱りきった体で何が出来る。

 

 冷笑するエヴァだが、遠くのその瞳に希望の光があったのを発見した。


 不安定な体勢のまま、掌を突きだした。逆手で腕を持って安定させ、空中を睨みつける。

 

 最後に、グリゴリーは右手に力を込めた。


 空間から全てが失われた。


「何が起こったっ!?」


 正確には雪が飛んできた火で溶け、今その火が行方も分からず消えたのだ。


 謎の現象に兵士含めて困惑をするエヴァ。

 

 その隙にあの獣のような動きを取り戻したグリゴリーは、道中で固まっていた兵士を飛び越えて奥へ戻っていった。


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