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金髪美女、村に来た

 

 空の雲が明るくなると、獣の子を抱えて二人はカマクラから出てきた。

 

 先ほどまで泣いていたマーシャの目は赤く腫れぼっていた。


「さて行くか」

「うん。お腹へったー、村にはどんな食べ物があるの?」

「そうだな。今の次期だとアオニンジンやアカナスが美味しいかな」

「へー楽しみー。カブ以外のもの食べるの初めてだよ。甘いかな? しょっぱいかな? それとも苦いかな?」


 二人は今までと同じように段差の低いところを進もうと降りた。

 

 振り返ると、なんと獣の子は別のところへ行こうとしていた。


「どうしたの?」

「クゥ~! クゥ~!」


 獣の子は大きな声で鳴きながら走っていた。

  

 マーシャとグリゴリーは後ろを追う。 

 

 そのまま追い続けていると、森を抜けて、獣の子が怪我をしていた場所に辿りついた。


「クゥ~クゥ~」

「クゥ~クゥ~」


 獣の子は、一回り大きな身体を持つ二匹の同種らしき獣と身を擦り合わせていた。


「もしかして親子?」

「そうだろうな」


 答えを示すように、二人の前で獣たちは喜びを分かち合った。


 それから三匹は感謝を示すように並んで頭を垂れ、去っていった。


 その場に残された二人は口元に笑みを浮かべた。


「また一緒にいられてよかったな」

「うん」

「昨日みたいに泣かないのか?」

「うっ。泣かないよ馬鹿! そりゃあの子が家族に会えて嬉しいけど。昨日と同じくらいに嬉しいけど! それでも泣かないよ!」


 からかわれた気分になり、マーシャは怒って否定した。


「別にいいのに」

「よくないよ……そういえば思ったんだけど、何であの時、ぼくがいないことに気付いたの?」

 

 ふいに湧いた質問。

  

 グリゴリーは目を見開いた後、恥ずかしそうにボソっと小さな声で言った。 


「聞こえたんだよ……」

「何が?」

「マーシャが俺の名前を呼んで、それから助けてっていう声が」

「え! 聞こえてたの!?」

「……まじで言ったのかよ。でっきり俺が自意識過剰なだけかと思ったのに」


 二人ともお互いに背を向けて、もじもじとする。


 そのままの状態で、五分が過ぎた。


「なあ」

「は、はい!」

「はいっ。て……」

「ああもううるさい! もうここに用はないんだし早く行こう。ぐずぐずしてたらまた日が暮れちゃうよ! 行けーぼくのビリヴォスカー!」

「乗り物扱いかよ……」


 グリゴリーの背中をソリまで強引に押すマーシャ。

 

 道具の回収のためにほんの少しだけ雪原に留まった後、二人は村への移動を再開した。






 時間も経ち、夕日が落ち始めた。


 オレンジ色に照らされながら、二人はサニュ村を見下ろしていた。


「夜までに間に合ってよかった」

「カマクラは面白いけど作るの大変だしねー。温度差に慣れると普通に寒いし」


 野宿をしないことに二人は喜び合った。


「じゃあここから挨拶の一つでも……あれは、何だ?」


 グリゴリーは外に出ている村人を探そうとしたが、村で奇妙な出来事が起こっていることにまず気付いた。


 広場に人が集まっている。

 中心から半分には自分の趣味や性別に合わせたバラバラの服を着ている村人たちがいる。

 逆にもう半分には統一された服――最近よく見かける火国の軍服を着ている兵士たちが整列していた。


 グリゴリーの表情が途端に険しくなった。


「マーシャ。急ぐからしっかり掴まっていてくれ」

「別にいいけど――うわあっ!」


 グリゴリーはソリを引いて走った。

  

 斜面のため降りているのだが、ところどころで浮遊し、まるで飛んでいるように感じた。


 夕日が隠れる前に村へ到着した。


 門の前で、マクシムが集団から殴られていた。


「それ以上は止めろ!」


 グリゴリーはソリから離れて、火国の兵士たちの元へ向かった。


「何だあいつ」

「さあね。まあ見張りなんて退屈な仕事任されたおれたちに、新しい暇つぶし相手が来たってことでしょ」

「よし。あいつもぶちのめす」

「五人……」


 火国の兵士たちはマクシムへ手を出すのを止めると、今度はグリゴリーに殴りかかってきた。

 

 体格と走力の差、それらを分析してグリゴリーは空想上の道を頭の中に書いた。


 最初に、一番足の速い兵士の前へグリゴリーは駆けた。

  

 見たこともない速度の相手に、その兵士は動揺して曲がり際に放たれた拳をあごにもらった。

 

 次に一番体の大きい相手の元へ行くが、当然先を走っていた二人から狙われた。

  

 飛び越えて、片方の顔面を踏み台にしてさらに跳躍し、高度を保ったまま飛び蹴りを入れる。

 そのまま倒して、最も遅い兵士を巻き込んだ。


「……あと一人だな。聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「は、はい」


 四人が瞬殺されたことで、残った兵士は負けを確信して立ち竦んでいた。

 

 グリゴリーから質問されると、下手に出ながら答える。


「お前ら何しに来た?」

「じゅ、十人長ルバナ様のもと、この村を侵略しに来ました。今は広場にいると思います」

「ルバナ? 誰だそいつ」

「最近、兵士から昇格した人でして、元々、腕っぷし自体は百人長並みと思われてましたがどうも性格に難ありで」

「どんな性格だ?」

「他人をいたぶるのが趣味で、女子供関係なく襲った相手は自分の気が済むまで痛めつけてから殺します」

「クソ野郎だな。そんなやつがうちの村に来たのか」

「……他に分かることあるか?」

「あ、ありません」

「そうか。マクシム縄はあるか?」

「ああ。分かった、今縛る」


 縄は門番の装備である。

 門番のマクシムの持っていたもので、兵士の腕を縛った。

 

「後でこいつら全員縛っておいてくれ。それとその人を頼んだ……俺は広場に行く」

「分かった。後は任せとけ。五人がかりだから不覚を取っただけで、おまえ以外だと村では一番強い自信はあるんだ」

「分かってるよ。だから任せるんだ。怪我人だから気を付けてくれ」

「グリゴリー大丈夫なの?」

「ああ。大丈夫さ」


 マーシャからの心配に、グリゴリーは自信満々の笑みで頷いた。


「平気だよ。なんせこいつはクマ科クマ種のグリゴリー。ヒト科じゃかなわねえ」

「うるさい」

「うふふ」


 茶々を入れてきたマクシムを一喝する。

 

 その様子を、マーシャは笑った。


 二人に見守れながら、グリゴリーは村の広場へ出向いた。

 

 閉まっている門を通ればすぐで、入った途端にはもう村内の状況を把握できた。


 サッ、と物陰へと潜り込んだ。


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